追放された土魔術師。人間不信なって穴を掘っていたらダンジョンマスターに。このまま行ける所まで掘ってみます。目指せ地球の中心!昔の仲間がダンジョンに入ってきたけど……モンスターに任せても良いよね?
連載候補の短編です!
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「アース! お前は追放だ!」
いつも通りダンジョンの探索を終えて、ギルドのへと戻った時。
パーティーリーダーのリックは俺を一人呼び出すと、クビを宣告してきた。
一気に目の前が暗くなる。口が勝手に動いていた。
「なっ……なんでだよ! 落とし穴を作って援護はしてただろ!? 十分活躍していたはずだ!」
俺のスキルは『土魔法』
少し他と違うのは、土を使って攻撃することは出来ないと言うことだ。
しかし、その分穴を掘ることに特化している。
土に手を触れさえすれば任意の場所に穴をあけることが出来、例えばモンスターの足元に大穴を開けることだって出来る。
俺はその能力を使って十分パーティの援護を、貢献をしてきたはずだ。
なんたって俺がいれば相手は落とし穴にはまった状態で動けなくなるんだからな。
「いいや、ダメだ。お前は空中を飛んでいる敵には何も出来ない」
しかし、リックの言葉は非情だった。
グッと胸を締め付けられるような感覚におちいながら必死に弁解をする。
「それはっ……誰にだって弱点はあるだろ!」
「言い訳は聞きたくない。もうすでに新しいメンバーを入れた。そいつは風魔法を使うことが出来る奴だ。地上の敵も空中の敵にも対処できる。お前はもう用済みなんだよモグラ野郎」
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こうして俺は追放された。
最後にリックが俺に言ったのはモグラ野郎と言う言葉だけ。
今まで俺の事をそう思っていたんだろう。蔑むような目がそれを語っていた。
俺はそのままトボトボとギルドを後にすると、街の外へと向かった。
街の外が危ないと言うことは分かっているが今はとにかく一人になりたかったのだ。
リックとは長い付き合いで親友とまで思っていたのに、思っていたのは俺だけだったみたいだ。
悲しいよりも、そ自分だけそう思っていた事の恥ずかしさが勝つ。
(……穴が合ったら入りたい)
本気でそう思い、俺は実行した。
街はずれまで行ってスキルを発動すると、自分の足元の土を掘っていく。
頭まですっぽりと土の中に埋まった状態で俺は考えた。
(……ダメだ……まだ浅い)
俺の恥ずかしさはこんなものじゃなかった。
村から出てきた田舎者の俺に、リックは話しかけてくれたっけ。
緊張して人に話しかけられなかった俺はその時凄く嬉しかったんだ。
俺は更にスキルを発動させると、どんどんと自分の下の地面を掘り返していった。
この掘り返した土は自分でもどこに行っているのか分からない。
でも唯一分かるのはこうやって地面に深く潜っていけばいくほど安心すると言うこと。
(少し……歩こう……)
身長の5倍程掘り返したところで、俺は上から差し込む太陽の光が気になった。
まるで太陽の光さえも俺を笑っているようだったんだ。
俺は自分の前の土に手を当て、そこを掘り返した。
目の前に1メートル程の空間が出来る。
そこまで歩いて行って……。
(行けるところまで行こう)
再び目の前の土に手を当てて、土を掘り返した。
どんどん俺は前に進んで行く。
差し込む太陽の光が遠ざかって行って心地よい暗がりが俺を包んでいく。
大分歩き進み、闇に目が慣れたところで俺は立ち止まって後ろを見た。
既に俺が入ってきた穴は見えない。
リックとの繋がりが消えていく感じがした。
(もっと進もう)
今度は斜め下に向かって土を掘った。
下へ下へと進んで行く。
偶に横へと進みながらグニャグニャと、今の俺の気持ちを表現するようにただ愚直に土を掘っていく。
(なぜだろう……安心する)
既に周りは完全な闇。
グニャグニャと通路を掘ったから外からモンスターが入り込んでくる心配も無いだろう。
まるで夜中に布団の中に包まっているような安心感がある。
子供の頃はそうやって布団の中に包まりながら無駄に夜更かしをしたものだ。
そう言えばその頃から俺は暗がりで一人過ごすのが好きだったんだと思う。
トボトボと歩きながら、グニャグニャと思うがままに進んで行く。
既に足が棒の様になっている。
長い間歩き続けたせいで足の感覚が無くなってきている。
しかし、俺は歩き続けるのを辞めない。
少しでも足を止めたら、リックに追放された記憶がフラッシュバックしてくるからだ。
わざわざギルドで言ったせいで、周りの冒険者からの視線も痛かった。
特に『モグラ野郎』と言われたときは嘲笑の視線も感じた。
クスクスと小声で笑われ、『ピッタリのあだ名だな』と言う声まで聞こえた。
これから一生俺はそのあだ名で呼ばれ続けるだろう。
新たにパーティを組んだとしても、裏で言われるに違いない。
(人間って糞だよな)
立ち止まると笑われている自分を想像してしまうので、俺は更に歩き続ける。
既に何時間歩いたのか分からない。
唯一言えることは足の痛みは一周し、無限に歩けるんじゃないかと言うある種の高揚感が襲ってきたことだ。
徐々に冷たくなってきている気温が心地よい。
今ここは地上から何メートルくらいなのだろうか。
今俺はどれくらい進んだのだろうか。
いや……どうでもいい。
戻ろうと思えば上に階段状に掘っていけば戻れるんだ。
グニャグニャと歩いているから街からの直線距離も大したことは無いだろう。
(もう少し……歩き続けよう)
疲れたらここら辺に寝れるだけのスペースを掘って寝ればいいだけだからな。
ダンジョンから帰ってきた直後だったから食料だって水だって二日分くらいは持っている。
まだまだ俺は歩き続けたい。
──────────────────────────────────────────
どのくらい土を掘ったか分からない。
アイテムボックスから水とパンを取りだし、食べた気がする。
水は美味かったがパンは味気なかった。
勿論その間も片手では目の前の土を触り、土を掘り続ける。
その時──頭の中に声が響いた。
──称号『ダンジョンマスター』を取得しました。
(ダンジョンマスター?)
聞きなれない単語が脳裏に響き、俺は足を止めた。
立ち止まった瞬間──足に一気に疲労が襲い掛かった。
ため息を付きながら、地面に座り込んでステータス画面を開いてみた。
そこには見慣れたステータスの他に、ダンジョンマスターという一文とDPというステータス? が書かれてあった。
※ ※ ※
レベル:21
名前:アース・ツキシロ
スキル:土魔法
体力:154
攻撃力:76
防御力:87
魔力:99
俊敏:56
称号:ダンジョンマスター
DP:0
※ ※ ※
(なんだコレ?)
不思議に思いながら『ダンジョンマスター』の欄に意識を集中させてみると、概要の様なものが浮かび上がってきた。
ダンジョンマスター
人の理を超え、ダンジョンの支配者となった称号。
不老の力を得ることが出来る。
DPを使い、あらゆることが可能になる。
DPはダンジョン内に生命を滞在させる。及び殺す事。
また、ダンジョンを伸ばす事によって増やす事が出来る。
(ん? とりあえず土を掘れば良いのか?)
ダンジョンを伸ばす事でDPが増やすと書いてあるので、試しに目の前の土を掘ってみる。
何かの力が自分の中に入り込んでくる感覚がした。
DP:10
(10増えた?)
そしてそのDPに意識を集中すると、再び文章が現れた。
DP:10
ゴブリン×1
水×1
パン×1
etc……。
とりあえず今は腹も空いてないし、のども乾いてないのでゴブリンの欄を押してみた。
すると、目の前が急に輝き……。
『ギ!』
一体のゴブリンが現れた!
普通なら警戒する所なんだが、なぜか不思議と危ないとは思えない。
これがDPで作ったゴブリンだからだろうか。
『ギ?』
まだぼんやりと輝きを放っているゴブリンを見つめていると、ゴブリンは首をかしげて俺の方を見つめてきた。
なんとなく意味が分かる。自分は何をすればいいんですかと言っている様だ。
味方のようだと言う事が感覚で分かった。
(でも正直……特にやることはないんだよなあ)
ただ俺は現実逃避から穴を掘っているだけだ。
ゴブリンを召喚したのも好奇心で召喚しただけに過ぎない。
特にやって貰うことはない。
「好きにしていいよ」
俺がそう言うと、ゴブリンは小さく『ギ!』と鳴きどこかへと消えていった。
そして俺は再び掘り始める。
自分の気が済むまで。
とりあえずこれで分かったことは一掘りすれば水と食料が手に入るんだから食料の心配はしなくてもいいと言うことだ。
俺は偶に水や食料を出しながら永遠と掘り進めた。
そして、ふと自分のDPを見た時……。
DP:10000
(……1万……何が出来るんだ?)
DP:10000
炎魔龍×1
ドワーフの酒×10
王宮料理フルコース×30
エルフの霊薬×1
魔光石コーティング
etc……
(あっ……もうここに住もう)
その瞬間、俺は決意した。
ただ穴を掘るだけで炎魔龍が味方になり、最高級の酒や最高級の料理が食べれるなんて幸せすぎると。
今まで冒険者をやってチマチマと金を稼いでいたのがバカみたいだった。
とりあえず暗いので、ぼんやりと光を発する魔光石の欄を押してみた。
一瞬にして辺り一面に魔光石がポコポコと湧き出し、明るくなっていく。
「おおう……もうダンジョンじゃん……」
そして自分が掘った通路を見ながら呟いてしまった。
その光景は完全にダンジョンと同じ。
少しだけその光景に見とれて……俺は再び土を掘り始めた。
(ダンジョンって事は冒険者がくるかもしれないからな。奥に逃げよう)
なんとなく、まだ人に会いたくなくて俺は先に先へと進みだした。
一応ポイントが溜まったらモンスターを召喚して俺を守る様にと命じながら……。
腹が減ったらポイントを飯に変換しながら……。
──────────────────────────────────────────
一年後。
突如、街郊外に現れたダンジョンを攻略しようと数々の冒険者たちがそのダンジョンに挑んでいた。
どこまでも続いていくダンジョンの名前は【奈落のダンジョン】と名付けられ、深層に潜るにつれ強力なモンスターが出現する奈落のダンジョンはSランク級に指定された。
そして、その中にはかつてアースを追放したリックの姿も。
今では新しく風魔術師『ソラ』を加えてAランクパーティとなった彼は意気揚々と奈落のダンジョンに挑んでいった。
「ソラ! お前がいれば俺たちパーティーは最強だ! 頼りにしてるぜ!」
「はい! 頑張ります!」
リックは、ソラと呼ぶ女性の肩を親し気に抱きながら奈落のダンジョンへと進んで行く。
彼女の風魔法は優秀だった。
上空の敵だけではなく、剣に風の力を付与することが出来、剣士の攻撃力を上げることも出来る。
彼らは順調に奈落のダンジョンを進んで行き……出会った。
『ギギャアアアアア!』
──Sランクモンスター『炎魔龍』と。
「逃げろ!」
瞬間──リックは撤退を命じる。
その判断の素早さは流石Aランクパーティと言えるだろう。
しかし……その撤退をみすみす見逃す炎魔龍ではなかった。
逃げるのであれば深追いはしないが、一応攻撃くらいはしよう。
炎魔龍からすれば、その程度の攻撃。
しかし、それはリック達にとって致命傷となりうる攻撃であった。
『ギギャアアア!』
炎魔龍の爪が最後尾のソラの背中を切り裂いた。
即死──である。
彼女は呻き声も出す事も出来ずに息絶えた。
「くっそ! なんでこうなるんだ!」
リックは背後で炎魔龍に食べられているソラをチラリと見ながら、奈落のダンジョンから逃げ帰る。
もしも、アースがいれば炎魔龍に足元に穴を掘り、倒せはしないまでも死者は出なかったであろうが……彼はまだ知らない。
(あっ、またDPが増えた。誰か死んだのかな?)
アースはそのことを認識することも無く、奈落のダンジョンの深層で穴を掘り続けていた。
ただ土に手を当てるだけでDPを稼ぎ、食料に……そしてモンスターへと変換しながら。
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