冬童話2019・2020・2021・2022・2023・2024提出作品
透明な雪の降る町で
寒い寒い朝のことでした。
ぴゅーっと北風が冷たくて、お空は曇り。
「いってきます……。」
女の子が、家を出ました。
空を見上げて、はあ、とため息をつきます。
“これは、ゆきがふるにちがいない”
女の子はますます、行きたくなくなりました。
先週、仲良しのお友達が、となりの町に、転校したのです。
その日以来、何をしても楽しくなくて、どんよりと、心も雪曇りのよう。
「はあ、いきたくない……。」
とぼとぼ、小学校へ向かって、歩いていました。
ひらひら……。
ふんわりと、ひやっとしたものが、女の子のほほにふれました。
「つめたい!」
“やっぱり、雪がふってきた”
そう思い、空を見上げると、雪は見えません。
「おかしいなぁ?」
首をかしげながら、女の子は、学校へと足を動かします。
とぼとぼとぼ……。
ひらひら……。
はらはら……。
しんしん……。
どさどさ……!
ごおおっと、風が鳴りました。
女の子が、ギュッと目をつむると、足元がすっぽり、冷たいものに包まれました。
むぎゅ。きゅっきゅっ。
「なにこれ、とうめいな雪?」
びっくりした女の子は、お母さんに言わなくちゃ、と、いそいでお家に帰りました。
ごおぉっ。
どかどか。
透明な雪が、つもってきました。
高さは、どれくらいでしょうか?
家に着きましたが、ドアは、雪がふさいで開きません。
「お母さん、おかあさーん。」
もうお仕事に出たのでしょうか、誰もいません。
焦った女の子は、庭に行きました。
ガラガラ……。
お家の窓は、開きます。
「ふう、ホッとした。」
それにしても、これでは玄関が使えません。
「そうだ、おゆ!」
女の子は、湯沸かし器のスイッチを入れました。
ぽこっ、ぽこぽこ……。
沸いたお湯を、ゆっくり、ゆっくり運びます。
とっぷ、とっぷ。
とっぷとっぷ。
ジュワッ。
玄関の雪に向かってかけると、たちまち、溶けて、通れるようになりました。
たっぷたっぷ。
とっぷとっぷ。
どんどんお湯をかけていきます。
「そうだ、ほかのお家は、どうなってるんだろう。」
女の子は、お湯を温めると、透明な雪をまとめてこねて、透明な階段を作りました。
「よいしょ、よいしょ。」
階段を上って、また階段を作ります。
どこまでもどこまでも、上ります。
ずいぶん上の方まで上がり、まるで、空の上に立っているようです。
町の様子は、しーんとして、誰もいません。
透明な雪がつもっているなんて、うそのような、しずかな町の景色です。
“そうだ。このけしきは見たことがある”
女の子は思いました。
なかよしのともだちがてんこうして、きゅうにひとりであそんだ日。
ひとりで、きょうしつから見おろした、あのけしき。
しんしんとふる雪のような、ひんやりとしずかな、音のない、ひとりぼっちのせかい。
と。
反対側から、誰かがのぼってきます。
「ユイちゃん!」
「あっ! ミホちゃん!」
転校した、お友達のミホちゃんです。
「よかった、ユイちゃん! 見えない雪がふってきて、ユイちゃんが心ぱいだったの。」
「ミホちゃん。わたしね、ミホちゃんにあいたくて、さみしかった……。」
「あたしも! そうだ、見て!」
ミホちゃんの作った階段は、色がついてました。
「えのぐで、雪にいろをつけたの。あたしのすきな、青いいろ。」
「あっ、すごい!」
はっきり見える、青の階段は、水色から濃い空の色まで、光が透けて、きらきらと輝いているようでした。
「ねっ、ユイちゃん。ユイちゃんも、いろをつけようよ!」
そう言われて、ユイちゃんは、お家から、かき氷のいちごシロップを、持ってきました。
業務用サイズです。
「すごい、ユイちゃん! たっぷりかけて、あがってきて。」
上の方から、ミホちゃんが、手を振っているのが見えます。
「まってて、いま、いくー!」
透明な階段が、いちごシロップの赤に、染まっていきました。
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「……イちゃん、ユイちゃん、起きて。」
お母さんに、とんとんと肩をたたかれました。
ユイちゃんは、がばっと起きました。
「あっ! わたし、学校……」
「今日は日曜日、学校はお休み。ミホちゃんから、お手紙が届いたよ。」
そのお手紙には、“おひっこし おわったよ。こんど、こうえんであそぼう”と、書いてありました。
ひらひら。
ユイちゃんは、てのひらの冷たい雪の感触が、すぅっと溶けた、気がしました。