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引きこもり虫と佐藤くん

「お前いつ屋上の鍵なんて手に入れたんだよ」

「簡単。先生が余所見してる間に素早く取れば」

「犯罪かよ」

　あら、意外に話せる。睨んでたことには自覚あるのかな？

　無意識だったら超絶恨み買ってることになるんだけど。

　あ、そうだ、本題。あんまり長すぎると逆ギレされかねない。

「どうして私を睨むのか教えて欲しい」

「聞いてどうすんだよ」

「どうもしない。ただ事情もわからないのに睨まれ続けるのは不愉快極まりない。読書の邪魔をするつもりなら容赦しないし」

　佐藤くんは別に不良じゃないし野球も真面目に取り組んでるようだし私なんて眼中に入れなくてもね？

　だけど佐藤くんは何故か私を凝視してくる。

　なに？　なんかおかしなこと言ったかな。

「どうもしないって……お前が俺の弟をいじめてんだろう？」

「はあぁ？」

　あ、つい反動で。思いがけないことがあると人って口悪くなるよね。

　どうどう。表情動いてない分怖いだろうな。

　でも弟ってなんだ？　いや弟の意味はわかるけど。

「ここにいる俺の一つ下の弟がいじめられて引きこもりになっちまったんだよ。食事もしない。やつれて病気がちなんだ」

　そりゃあ恨むね。大切にしてるなら尚更。華ちゃんがそうなったら憤慨する。

　その前に姉さん兄さんが……うん。話したらきりがない。やめておこう。

「誰がそんなこと言ったの？」

「柴崎(しばさき)」

　誰？

「……」

「クラスのギャルだ」

「……ああ」

　あれか。学食で私の弁当奪いながら連れてこうとした人。そんで月海にパンダにされた人。

「その……柴崎さんに私が弟さんをいじめてると言われたってこと？」

「ああ。始業式の時から教えられたからほとんどこのことだ」

　ふむ。まあわかるわ。私に罪をなすりつければ味方は多いもんね。

　ていうか私の知らないところでそんなことが起こってたとは。

「結論を言えば私はいじめてない」

「……根拠は」

「いじめなんか興味ない。そんなことする暇があったら少しでも多く本を読む」

　そう言われればそうだみたいな顔すんな。

　でも本当のことだからね。

　第一私は世間一般的にいじめられてるんでしょ？

　被害者が加害者のリーダーだとは到底思えん。というかそれだけじゃ信じてもらえないと。

「華ちゃん……凛華がいる中で私が非道なことをできるとでも思ってるの？　私達はシスコンだから妹の目を汚すような輩は許さない。でもこっちから他人の嫌がることをすることはもっと許さない。月海に聞いてみるといいよ」

　そりゃあもうカオスだから。

　勘当されたいのならどうぞご自由にってレベルだからね。

「じゃあ誰が」

「調べてみるよ。これ以上睨まなければこっちも協力するけど」

　濡れ衣を着せられた恨みもあるしね。

　それに性別は違えど自分の兄弟がいじめられてるなんて苦痛の何物でもない。

「……あのさ」

「はいはい」

「なんでそんなに許せんだよ。俺は死神っつったりいらん疑いかけたりしてんだぞ。今だってお前のこと半分嫌悪してるし」

　してんのかい。傷付くわ。気持ちはわかるよ。口で言うなら誰だってできるし。

「興味ないもの。どれだけ嫌われようが無視すればいいだけ。それ以上もそれ以下もないよ」

「……そうか」

　よし。帰る。屋上の鍵をこっそりと。

　やべ、バレそうになった。

「というわけで佐藤くんの弟さんをいじめてる人を調べてください」

「ありきたりな名字だな。名前とクラスは？」

「聞いてない」

　携帯も持ってませんからね。

　ちょ、悪かった。悪かったからそのグーにした手をしまってくれ吉宗兄さん！

　情報網少なすぎてごめんなさい！

「ったくどうすんだよ。協力はしてやるがこんなんじゃ調べるにも調べられないぞ」

「申し訳ない」

「音ちゃん何の話？」

　湯上がりセクシー……でもないけど華ちゃんが寄ってきた。

　あら可愛い。うさぎフードですか。

「華ちゃんと同級生の佐藤くんって子がいじめられてるのよ。私が濡れ衣を着せられてるので退治してしまおうと。クラス知らないんだけどね」

「いじめられっ子の佐藤くんならうちにいるよ？」

　まじで！？　一学年六クラスあんのによく一緒になったな！

　そして華ちゃんがいると知りながらよくそんあ暴挙に出られるもんだな。

「健(たける)君でしょ。ひ弱な方だから先輩に目をつけられてバレないようにいじめてたらしいよ。私も人づてだし教室では何もされてないように見えるからかばえないの。ごめんなさい」

「華ちゃんのせいじゃないから。で、誰がいじめてたかってわかる？　私って言われてるらしいけど」

「その噂の元凶はさっき始(・)末(・)しておいたから大丈夫だよ。でもねー、あ、確かぶりっ子だった気がする。ツインテールでなになにだもんとか言ってそうな感じの」

「ツインテール……ぶりっ子。あ、矢島(やじま)じゃないか？　あいつよく真に媚売ってんぞ」

　えー知らなかったー。

　でもまこちゃんなら穏便にそして素早く対処できるかもね。

　まこちゃん、「それ誰だっけ」的な顔しないの。

　それに女ホイホイしてるわけでもないし。

　跡取りだし。関係ないか。

「なら今度そいつと話つけるぞ。凛音。お前の佐藤って奴も連れてこい。いいな？」

　お前の佐藤って何だよ。ただのクラスメイトだから。

　でもすんなりわかって良かったわ。

　これで後は私が言えばいいのね。でもそれじゃつまらないな。

　あ、そうだ。良いこと思いついちゃった。私は皆にバレないように処刑を行う準備を考えた。

　そして翌朝。

　矢島さんのことを佐藤くんに話す。

「っ！　あのクソ女。まだ健に執念があんのかよ」

「知ってるの？」

「知ってるも何も中学が一緒で俺につきまとってきた奴さ。俺が本気で拒否しだしたら健を遊び程度にいじめ始めたんだ」

　うわ怖！　女でいることが嫌になってくるよ。

　え？　女子力なんてないだろって？　なら使いますかこれ。

「佐藤くん。その矢島さんと話をつけにいくんだけど来ない？健くんも来させて」

「……健をそうそうあいつの前になんて」

「あの人と話すのは私。一つ提案があるのよ」

　私は不敵に笑……えないけど口調だけでもそう話してみた。

　抑揚つけてさんはいって。

　そんでもって放課後。超バリバリなほどかまってちゃん放出なぶりっ子矢島と私は向かい合ったのだ。