引きこもり姫の恋愛事情～恋愛？そんなことより読書させてください！～【改稿版】

引きこもり虫とお泊まり小説家２

『凛音の笑顔なんて一生無理。凛音を笑わせるだけ無駄です』

　喜怒哀楽が生まれつきできない。そのせいでひどい勘違いもされた。お母様も亡くなっている。

　その小さな体でどれだけの悲しみを背負ってきたんだろう。

「……さん。神宮寺さん……神宮寺さん？」

「はい！？　どうされましたか凛音さん？」

「いや、どうされたじゃありません。お夕飯だから何度も呼んだのに返事がないので覗いて見たらぼーっとしてるんですもん。月海が何か言いました？」

　まあ、何か言ったには言ったけど。

　わざわざ伝えて険悪な雰囲気にはしたくない。

「何でもない。心配かけてごめんね凛音さん」

　安心させるように凛音さんの頭を優しくなでる。

　彼女は不思議そうに首を傾げてたけどやっぱり表情は変わっていなかった。

　笑顔にすることは不可能。

　でも障害を克服した者は少なくない。

　きっと君も笑えるようになるから。

　だから頑張ろう、凛音さん。

「何故肉にした」

「あんたの為だよ凛音」

　私が肉苦手なこと知った上での発言だろうな麗子姉さん。よし、風柳にあげよう。

「風柳。あげ……」

「体調が著しくない人の物を食べる程僕は大食いじゃないよ」

　わざとだ。絶対わざとだ。私ぴんぴんだから。

　肉食べなくたってそれ以外は何でも食べてるでしょうが。

「神宮寺さん、たくさん食べていってくださいね」

「あ、ありがとう月海ちゃん。でもそんなには食べないよ？」

　山になってるよ神宮寺さんのお皿。しかも肉しか入ってないし。

　そっちに行くから私的には万々ざ……

「凛音さん、はいどうぞ」

「……」

　神宮寺さん今の話聞いてた？　私苦手なんだよ？　親切心なのはわかってるけどさ。私ぱっと見でも細すぎだもんね。

　はいそこ笑わない！

「凛音さん？」

「……いただきます」

　うぅ、油っこい……でも神宮寺さんの手前誰かに全部渡すのは失礼に値するし。

　でも今度会った時はやんわり断ろう。

　全部食べた頃には吐き気を耐えなければならない凛音(わたし)だった。

「神宮寺さんお風呂入ります？」

　神宮寺さんがお茶をこぼしそうになる。何故？

　食後からもう一時間は経ってるしいいかなとは思ってたんだけど。

「あはははは！！　狼狽えっぷりが凄い。神宮寺さん、この子そういう意味で言ってるわけじゃないから安心して」

「あ、そうなの。ならいいんだけど」

　そういう意味ってどういう意味？

　まあそれで安心できるなら良いけど。

「それで入りますか？」

「僕客だけど先に入っていいの？　女の子は男の前に入るものじゃ」

「え、私よく風柳と入ってるけど」

　月海の発言で神宮寺さん固まった。

　うんわかってるよ。私達はまあ赤ちゃんの頃から裸の付き合い――やましい意味ではありません――をしてるから気にしないんであって世間一般から見たら驚くよね。

　思春期の子が異性とお風呂に入るなんて。そこは私限らずみんな疎いんです。

　嫌がってるわけでもないし。よし、入れちゃおう。

「一応シャンプーとかリンスとかわかりやすいようにしといたので。着替えはどっか置いといてください」

「……うん」

　ごめんなさいね個性豊かな兄弟で。悪気はありません。

　シャワーの音が聞こえたからもう入ったんだろうな。

「月海、覗き見しない」

「ぎく……上半身だけでも見たかったの！」

「イケメンには興味ないんじゃなかったの？」

「まあねえ。でも凛音の夫になる人でひ弱だったら守れないでしょ」

「御子柴の経営がね」

　ぴくりと月海は体を動かした。

　おちゃらけたメイク顔が一気に熱を引いていく。

「聞いてた？」

「聞こえたの方が正しい」

　私の障害のことや月海の思惑。でも義姉(あね)のそんな言動で落ち込むことはない。

　だって月海だけじゃないもの。こんなことを考えてるのは。

「あんたの方が例外だよ。普通こんなとこにいたら欲が出てくるよ」

「欲はあるよ。読書した……」

「それ願望。支配欲のことを言ってるの」

　支配欲ね。でもそれは私だけじゃないでしょ？

　もう一人。例外はここにいる。それを皆わかってるのかな？

　わかってるだろうね。でなきゃ過保護に守ったりしない。

「音ちゃん音ちゃん！」

「どした華ちゃん」

　ちょこちょこと華ちゃんが走ってきた。

　ほんとにかわいいねお前は。女神。いや天使。

　絶対どこのやつにも嫁に行かせない。

「神宮寺さんにお許しが出たら私もおしゃべりしたい。二(・)人(・)で！」

　華ちゃん？　それをシスコン兄姉(かいぶつ)の前で言っちゃうのか？

　皆目が怖くなってるよ。神宮寺さんが死んじゃうよ。

「別に私は構わないけど。神宮寺さんなら襲わないだろうし」

　華ちゃんに聞こえないようにこっそりと皆に言ってみる。

　大丈夫だよ。女嫌いだし。キスされたけど。

　それはストレスが溜まりまくった時だけだし。

「わーい！　じゃあ聞いてくる！」

「待て。今お風呂中だから」

「もうすぐ上がるよ」

　と言って五秒もしないうちにガラッと開く音がした。華ちゃんにはこういう勘が人より強いことがある。

「じーんぐうじさーん！！　おしゃべりしましょー！！」

　近所迷惑近所迷惑。

　神宮寺さんの困った顔が目に浮かぶよ。

　華ちゃんは無邪気の塊だから邪険にできないし。

「神宮寺さんって恋愛小説は書いてるんですか？」

　私こと凛華も音ちゃんと同じ血を引いてるように本は好き。音ちゃん程ではないけど。週に一冊は読むよ。

　お姉ちゃんお兄ちゃんは私を大事に育ててたから男性との恋をしたこともない。

　子どもはコウノトリさんが運んでくると昨年まで思ってました。

　保健の授業はなぜかパパがやらせてくれなかった。

「あまり得意じゃないけど頼まれれば書くよ。今はまだないけど」

「むぅ。神宮寺さんは音ちゃんのこと好き？」

「音ちゃん？」

「凛音お姉ちゃん」

　よく誰って言われるけど凛華・凛音って似てるからこう呼んでるんだよね。凛音お姉ちゃんより音ちゃんの方が簡単でいいでしょ？

「音ちゃんね、鈍感さんだから神宮寺さんから動かないと何もしてくれないと思うの。だから音ちゃんのこと好きになって欲しいな」

　そんなことわかってるよって顔してる。かわいい。

　大人の男性なんて正宗お兄ちゃんとか桃李お兄ちゃんとかしか見たことなかったけどこういう人もいるんだね。

　なんか動物園のふれあいコーナーにいるモルモットさんみたいな感じ。

　音ちゃん。私応援するからね。だから私みたいに笑えるようになろうね。約束だよ。