引きこもり虫の招待
さて、何だこの期待感満載の部屋は。
いじめ騒動があってから早一ヶ月。
六月になり梅雨シーズン到来かと思ってたら雨は降るけど長袖じゃないと少し肌寒いという変な気候が始まっております。
こういう梅雨もあるんだね。
それはいいとして。
あんたら朝っぱらから根尾家に集合すんなよ。
神宮寺さんが来るのはお昼くらいだっての。
しかもあまり興味のなさそうな正宗兄さんもいるし。
「神宮寺さんって写真ではかっこよかったけど実物はどうなんだろうね? 凛音の婚約者じゃなかったらロックオンしてたのに」
「そうしたら月海ライバルになってたかもね。私もいいなと思ってたもの」
仲良く喋ってますけどその後ろの黒いオーラはなんすか。
そしてあんたら絶対商売目的でしょ。
まあでもうぶな私から見てもイケメンだとわかるんだから二人にとっちゃ獲物の的ってわけね。
でも前言ったけど神宮寺さんは女嫌いだから月海も麗子姉さんも玉砕だと思うよ。
いくら美人でも豊満でも趣味の邪魔しない限り好きにはならないね。
「ねえ凛音、やっぱりお迎え連れてってよ」
「別にいいけど神宮寺さんにベタベタしたら嫌われるよ。やんわりと」
「やんわりが一番きついわ。あ、でも付き人もかっこいいって言うよね。そっちなら狙っても」
「もうすぐ三十路だってさ」
「……」
黙りこくるな月海。
三十路でもまだ若いと思うぞ。
しかもクールでインテリ眼鏡だぞ。
「神宮寺さんってよく音を選んだよね。体質的にもあるんだろうけど別に他にも理解してくれる人はいるだろうに。体目当てでもないだろうし……がっつかれたことないでしょ?」
「うんな……あ、あるわ。一回キスされた」
ピシャーン!!
って音が聞こえた気がする。ここから。
誰だ? 雷は誰がどこに落とした?
「ど、どういう経緯で? どんな風に?」
「え? えーっと……普通に?」
「「普通って何だよ!!」」
いや、私にとっちゃ全部普通だからね。
それにしてもよくハモるね月海と麗子姉さん。
漫才でもやれば中流までは行けんじゃない?
「り、凛音ちゃぁん? いつしたのぉ?」
「二回目にお邪魔した時」
「何でそんな平然としてられるのよ」
「だって興味ないから」
「あ、うん……」
(((そういやこういう奴だったわ。 前まで全く話さなかったから忘れてた)))
後日みんなからそう教えられた。
私だって華ちゃんが凶暴化してたことにびっくりだよ。
「その神宮寺さんってがっつり系だったの? 私遠くから見てたけど爽やかさんだったよ」
爽やかさん?
天然キャラは現状維持だったんだね華ちゃん。
なんでそこ残しちゃったのかな。
「ストレスがたまりにたまりまくって爆発しちゃったらしいよ。可哀想だね神宮寺さん」
「……そうだね」
とりあえず今度月海達にも協力してもらわないと。
別に気にしてないけど結構息苦しかったし。
あんなストレス発散方法じゃ寿命縮む。
双方ともに女嫌いのストレスが外で爆発したらそれこそセクハラ容疑で逮捕されちゃうし。
「じゃあお迎え行ってくるけど……月海行く?」
「いや、いい」
あれ? さっきまで乗り気だったのに。ま、いっか。
「じゃあ行ってくるよ」
「はいはーい。あの子には脅して婚約させたけどこのまんまじゃまじで神宮寺さんが可哀想になってくる」
「ね。私達はあの子に恋も教えなきゃならんのかい」
「神宮寺さん。ここが我が家です。隣……どっちかっていうと大きい方が六条家でその次が御子柴家です。根尾は一番下なんです」
「そ、そうなんだ」
どこかよそよそしい。前までは膝枕までしてくれるほど気さくだったのに。
「どうしたんですか神宮寺さん。前に言いましたけど三家の女は無理に男性にひっつきませんよ。男が止めるんで」
「あ、いや、うん」
「根尾様。旦那様はこの前の行為に照れておられるのです」
「この前?」
「松崎!」
あ、キスね。
顔真っ赤にして純粋だね、二十二歳独身イケメン男。童貞もつけるか?
「そんな顔であっち行ったら確実に皆いじってきますよ。温厚組だけどドSも多いんで。ていうかほぼ温厚サディストですから」
「う、うんちょっと待って。すぐ戻す」
頼みます。
でないと私もいらん疑いかけられるんで。
でもちょっと待て。戻すって戻せんのか。
「よし、落ち着いた」
「じゃあ行きますよ」
あ、本当だ。雰囲気が戻った。
慣れ親しんでいる扉の引き戸に手をかける。
「ただいま……」
「神宮寺さーん!!」
うるさい月海! もう少し近かったら額ごっつんこだぞ!
「イケメンだ。超絶なるイケメンだ! キラキラしてるよ凛音!」
「うるさい月海。神宮寺さんが女嫌いってこと前話したでしょ?」
「だから一定の距離取ってんじゃん。一定の距離で鑑賞してんじゃん」
おい。鑑賞って言うなよ。
神宮寺さんは見世物じゃないぞ。
もちろん気持ちはわかるけど。
「神宮寺さん。彼女は御子柴月海。こんなチャラい見た目ですけど一応れっきとした御子柴の跡取り娘です。武術や勉学、芸術もほぼほぼ学年上位です」
「は、はじめまして月海さん。神宮寺透です」
「ん? 挨拶してなかった? ん、ううん。お初におめにかかります。御子柴家令嬢であり跡取り娘、御子柴月海でございます。被服やデザイン画を主に勉強しております」
出た。月海のオンオフ。
金髪だしメイクもばっちりだしネイルはしてるけどめっちゃ様になってる。
美人はいいね。だが印象は変わらないぞ。
第一印象は突進してきたギャルだからな。
「月海。時間食ってないで部屋行くよ。そんでその猫被りもやめよう」
「猫被りと言ったな。私の必死の努力を猫被りと言ったな貴様」
はいはい無視無視。神宮寺さんこっちだよ。
「神宮寺さん」
先頭の私といつ了承を取ったのか神宮寺さんの隣をちょこちょこ付いてきてた月海で部屋まで案内した。
「ここには大人数いますけど念を押すようですが皆害はないので。さっきの月海のようにけじめはつける人たちです」
「そうそう。でもくれぐれも凛華に手を出しちゃ駄目だよ。愛ちゃん達が殺しにかかるからね」
月海! やめろ!
神宮寺さん怯えてんじゃないか!!
殺しなんて物騒な言葉使うな。
結局原理は一緒だけど!
「とにかく私の隣にいてください。説明しますから」
「う、うん。お願いします」
やっと意を決して私は扉を開けた。