引きこもり虫の日常
私は勉強はどちらかと言えば得意な方だ。特に本を読んでいるから国語の試験はよく学年でも一、二位を争うほど。
嫌いではないがまあ好きでもない。興味がないから。
だがなあ先生方よ。私は死神と言われようが虫けらを見るような目を向けられようが気にはしないが……教科書を没収すんな!! 体罰で訴えんぞ!
「お前は文を読み始めると話を聞かないからな。正当なことだ」
正当じゃねーよ! 教科書見ずにどう勉強しろと言うんだ。それに授業はちゃんと聞いてるから! テストでもいい点取ってるじゃん。
「聞きます。だから返してください」
「口答えするな根尾。死神のくせに」
死神関係なくない? 言いがかりって言うんじゃない? てか口答えってこれが? 口答えって言い訳を言うことであって今の私には当てはまらないよ。
しかもこんなことしてたらまた喧嘩を喜んで買うヤツが現れるんだよ。
「せ・ん・せ? 生徒の私物奪って何するの?」
ああほら始まっちゃった。
そういえばこの先生はまだ月海の恐怖を知らないんだっけ。
洗礼でも浴びなさい。ついでににやにやしてる奴も。
「なんだ御子柴。死神が真面目に受けないから罰を与えているだけだ」
いや、いつ真面目に受けてなかったか聞きたいんだけど。
眠ったことも授業中に違う本読んでたこともないよ。
「だからって人の物奪うんだ。へえーふーん?」
「な、なんだ御子柴……席に着きなさい! 死神をどうしようと」
「死神死神うるさいんだよ!! 凛音にはちゃんと根尾って名字があんだろうが、ちゃんと呼べやこの薄らハゲ!!」
ああ言っちゃった。確かに微妙な感じで禿げてきてるけど真っ向から言っちゃった。
しかも図星らしい。先生の顔が真っ赤になってる。
「あ、後で職員室に来い、御子柴!!」
「その前に教科書返せやハゲ!!」
月海は教科書を無理矢理奪い取って――取り返して?――私に手渡した。
先生私の方睨まないでよ。
なんでみんな月海がやったことを私に擦りつけんの。
「チッ。あのハゲ説教長いんだよ。折角今日は麗ちゃんとファションショーできると思ったのにさ」
放課後。
呼び出された月海は三十分くらい長々と説教されたらしい。
彼女自身は全く反省してないけど。それどころか大声で「体罰する先生に反論しただけでーす!」なんて言っちゃうもんだからそりゃもう目立ちまくったよ。
後は華ちゃんを待って帰るだけだけど。
高一ってこんなにホームルーム長かったっけ? まだオリエンテーション期間だから午後はホームルームやって自由解散だったはずだけど。
「もしかして凛華さ、上級生に絡まれてるかもね」
「行ってみよっか」
教室に着くと室内には居た。居たのだが……。
「ねえ根尾さぁん。あなた死神の妹なんだってぇ?」
やっぱ絡まれてんじゃねーか!! しかもクラスメイトに!
気の強そうなリーダーとその取り巻きに囲まれてる。
一日そこらでグループなんてできるもんなんだ。
「死神? 誰のことでしょうか。私の姉は根尾凛音という名前ですが」
「その人、死神って呼ばれてんだよぉ? ねえ、無表情のお姉ちゃんもあんたがいじめられてるって知ったら悲しむかな? 何でも言う事聞いてくれそうだよねぇ。そしたら私の奴隷にしちゃおうかなぁ?」
別に感情がないわけじゃないんだけど。
もちろん可愛い華ちゃんがいじめられてたら私だって怒るよ。
その前にもっと地獄が襲い掛かってくるけどね。
鬼×9くらいのレベルで。
奴隷になる気もないし。ていうか今どき奴隷って。パシリとか下っ端ならまだしも時代遅れが甚だしい。
でも華ちゃんがいじめられてるのは。それだけは何が何でも許しがたいというか。
「……お生憎様ですが皆さん」
「あ?」
「私はあなた達のような無能な方にかまっているほど暇ではないんです。わかったらさっさとそこどいてください。目が汚れます。これからあなた達なんかよりも可愛くて美人なお姉ちゃんお兄ちゃんとお勉強するんですから」
うちの妹可愛い。世界一可愛い。どこの馬の骨にも嫁がせてやるものか。
そうじゃなくて。
いじめ組もそれを傍観していた他のクラスメイトも固まった。
まあそりゃそうだよね。立場が圧倒的に不利な状況でそんなこと言うんだもん。
「私の姉は本にしか興味のない無表情女ですけどあなた達なんかよりよっぽど社会に役立つ人です。あなた達なんかより」
「な、なめてんじゃねえぞ死神の妹が!!」
華ちゃんに振り下ろされた手は空を切った。
そして先日の月海同様、華ちゃんは手首を掴みそのままメリメリと音をさせながら床に叩き潰した。
凄いな私の妹。
それより純真無垢でいっつも「おねえちゃーん」って甘えてきた華ちゃんは一体どこに。
二年であんだけ変わるのか人って。
「私のこと見くびらないでくださいね。それと姉を次から死神呼ばわりしたら地獄を見せてあげますから。覚悟しておいてくださいね……あ、音ちゃん! 迎えに来てくれたの? ありがとう!」
「ああうん。帰ろう華ちゃん」
これ以上ここにいたら私が何されるかわからん。
そして彼女らの末路もわからん。
月海は麗子姉さんを師匠って呼んでたけど華ちゃんもそうなの?
ねえ。姉さんみたいに凶暴化しちゃうの?
「そういえばさ、凛音」
「何月海。書庫にまで来て」
私にも一応部屋はあるが書庫に入り浸る方が良い。だってここ本がいっぱいあんだもん。上下左右本だらけ。天国とはまさにこのことを言う。
「前に神宮寺さんのお宅に行って、この次も行く気なんでしょ?」
「うん。そうだけど」
「ずっとお邪魔も良くないと思うからさ、今度誘ってみてよ、根尾家に」
えぇ……ってそれ絶対神宮寺さんを生で見たいからでしょう? 嘘つけてないよその顔。イケメンを見たい興味心はわかるけどね。
好奇心が疼くだろうね。
「お願い! 見てみたいのあのイケメンを!」
「……わかった。今度聞いてみるよ」
「ほんと!? わーい、凛音大好き~!!」
現金なやつめ。