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エンチャント  作者: might
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第一話 ビギンズ その1

 とあるニュースキャスターは、現代をこう表現した、『技術隠蔽の時代』だと。資源問題が深刻化していくにつれ、各国は自国の新技術を独占し、外部に漏れないように、技術力を低く見せるようにし始めた。技術の独占だけならいつの時代も行われていたが、隠していた技術が世間に漏洩したとき、その技術力の高さが今までの時代と比べものにならなかった。特に高い技術力と言われたものが『E-CHIP(イーチップ)』である。『E』の意味はエネルギーの意味と言われており、形状は文字通り薄いチップの形をしている。このチップは万能の外部バッテリーであり、あらかじめこのチップを充電しておけば、乾電池で動くものであろうが、専用端子で充電する携帯であろうが、対象に貼るだけで充電を可能としてしまう代物である。技術力の隠蔽、すなわち文明の停滞に等しい。成長しない文明に明日はない。


―大学―


 とある大学のテラスで学生が仲間に話す。


「E-CHIPってさ、人間に貼り付けたらどうなんのかね?疲れがなくなったり、メシを食わなくてもよくなるのかな?」


 ふざけながら質問する学生に対し、もう一人の学生が呆れたような表情で回答する。


「テレビでやってたけど、生物には反応しないらしいよ。身体に人工臓器とか使っている人は絶対使用するなって言ってたな」


 真面目な回答につまらなさそうな表情で質問した学生は、


「なんだ、食事いらず、睡眠いらずの人間にはなれないってことか」


「そもそも、チップなんてまだまだ高価すぎて個人レベルじゃ買えないだろう」


「そうだけど、うちの大学にも配備されてるからさ、チップの授業受けてる(はかり)君にさ、人体実験を試してもらおうと思ったんだけどな」


 ふざけた学生は会話に参加していなかったもう一人の学生に顔を向けて話す。もう一人の学生、名を「秤」と呼ばれた学生はノートパソコンの画面に目を向けながら、会話に参加し始めた。


「それならもう試したよ。やっぱり反応なし。生物に対しては使えないのか、使えないようにしてるのかは分からないけど」


「「!?」」


 秤の話を聞いて二人は驚く。


「それって授業の一環として身体にチップを付けたってこと?」


 秤に対して問い詰めるように質問する。それが本当なら大学で人体実験が行われたと言っても過言ではないからだ。


「まさか、教授の目を盗んでこっそり試してみた。僕もテレビを見ていたから反応しないとほぼ確信してやってみただけだよ」


 二人を落ち着かせるように答える。


「やることがぶっ飛んでるよなお前。研究者気質っていうのかそういうの?もうちょっとテレビの話を疑うとかさ、政府の陰謀がチップには隠されている!とか思わないわけ?」


「政府の陰謀って...。疑う気持ちが僅かながらあったから試したんだけどね」


「いや、自分の身を案じろよ。マウスで実験だろ、最初は」


 E-CHIPが世界に認知されるようになったからといって、個人レベルにまで普及されるようには至っていない。企業、団体、組織レベルで利用されているのが現実である。しかし、専用端子がいらないエネルギー供給システムには世界中で研究の対象となっており、日本の大学でも教授と生徒が共に研究をするようになっている。


「しかたないだろ。大学で研究ができるといっても、規制は厳しいから、教授の目を盗んで色々するしかないんだよ。幸い、教授は知識はすごいが、対人能力が低いからね。いくらでも言いくるめられる。まあ、教授の交渉能力が低いからせっかく大学の隣にチップを取り扱ってる工場があるのに、見学のひとつもできていないんだけどね。」


 秤は喋りながら、座っているテラスから見える建物を見る。

 彼らが通う大学の隣にはチップ製造を行っている工場がある。内部事情はもちろん機密のため、警備も厳しく一介の教授、生徒が見学ができるようにはなっていない。


 秤は友人たちと別れ大学の敷地内の端、すなわち工場にもっとも近い場所に行き、工場を一人で眺めていた。


(工場の中には何があるんだろうか...。もっと製造工程なども見れればいいんだが)


 秤が工場を見ながら考え事をしていると、


ドォン!!


 工場が爆発した。


「なんだ!?」


 秤は何が起きたかわからず、工場を凝視する。


 工場は燃え上がり、爆発により飛び散った破片が大学にも飛散する。大学にいた生徒たちは叫びながら逃げ出す。秤も逃げ出そうとするが、秤のすぐ近くに破片や工場内にあったと思われる物資が落下した。


「!?」


 その衝撃に驚き、躓いてバックの中身を地面にまき散らす。急いで中身を拾おうとするが、二つ目の破片が秤の近くにまた落ちる。


「よし、もうこれでいい」


 すべてを拾いきれなかったが、秤はその場から全速力で逃げ出した。


 工場爆発の事件はニュースで大きく取り上げられた。工場内の従業員は死傷者多数。大学を含め近隣の被害は軽傷者数十名と報道された。事件の原因はチップ強奪を狙ったテロリストだと報道された。この時代、E-CHIPを含め隠蔽された技術を盗むために国、企業、犯罪組織が闘争を繰り返していた。土地が少なく、島国である日本は資源枯渇のこの時代の中でも不利な立ち位置にいた。ゆえに開発力が高い日本は自国が使う気がなくても、国の経済を回すために日本は技術隠蔽の時代にも関わらず、積極的に開発した技術を他国に提供していた。しかし、日本を兵器倉庫として利用する国、組織と敵対する者たちによく思われるはずなく、攻撃の標的となった。

 今回の事件もその標的かと思われたているが、E-CHIP生産工場が襲われるのは日本では初めてだった。E-CHIP生産工場だけなら世界中にあるからだ。他国のテロリストだと判断されている要因は監視カメラにパワードスーツを纏った男が工場を襲うのが映っていたからだ。犯人が着ていたパワードスーツは日本で生産されていないものだったため、兵器工場を襲うついでに電池欲しさに襲ったと推測された。


―大学寮―


 大学は立入禁止となり、秤は大学の寮の自分の部屋で休んでいた。バックの中身を確認する。しかし、確認するのは一度目じゃなかった。再度確認する。何度も何度も。バックの中身が散らばった際に拾ったモノの中には、秤の持ち物ではない白い小箱を拾っていた。その小箱は赤く点滅を繰り返していた。


「どうしたものかな。これ」


 秤は悩む。小箱の取り扱いについて。


―街中―


 耳に付けた通信機で黒いコートを着た男が通話している。


「分からない。ここに来るまでの道中で調べたが危険性はあると思う」


 男は通信しながら手に持った端末を見ている。端末には秤の画像が表示されている。

 通信機からタメ口で女性の声が聞こえる。


『けど、装備が届いていないんだよ』


「彼と戦闘になる可能性はないと思う。問題は犯人が俺より先に彼に接触し、彼も死に、チップも奪われることだ。もう切るぞ...」


 一方的に通話を切断し、男は早歩きで街の中に消えていった。


―事件現場周辺―


 秤は外に出て事件現場を見つめていた。懐には事件発生時に大学で拾った小箱を抱えていた。


 「寮に行く手間が省けた。さらに持ち出して来ているとは一石二鳥だな」


 黒いコートを着た男が秤に話しかける。


「君は一体?」


 秤は黒いコートの男を警戒する。黒いコートの男の外観はロングコートで分かりづらいが、秤と同年代の青年だった。


「俺は石動錬史郎(いするぎれんしろう)。とある秘密組織のエージェントをしている。善意のある組織だ。お前が懐に抱えてる小箱は俺の組織の物だ。俺を信じて返してくれ」


 信用できない自己紹介だった。秤は考えるが、白昼堂々、監視カメラもある場所、秘密組織のエージェントが語りかけてくる。嘘に思えるが、それ以上に意味が分からない。こんな場面に遭遇したことはないが、まず、秘密組織のエージェントは名乗らないし、カメラのあるところ、それも昼間に交渉をしないはず。しかし、事件関係者でもなければ自分が小箱を持っている特定もできないはず。 

 混乱している秤を気にもせず、話を続ける石動と名乗る男。


「お前は犯人の手先で、大学から箱を回収する係かと思っていた...」


(まずい!犯人の一味と思われてる)


 焦る秤であったが、


「お前の経歴、街と大学の監視カメラから数日のお前の行動をチェックしたが、犯人の一味ではないと判断された」


 勘違いされてないことに胸を撫で下す秤。犯人と疑っていたという会話から、この青年も犯人側ではないと推測し、状況的にも小箱を渡すしかないと思い、


「そうです。カメラを見てたならわかるでしょ。事件のときカバンの中身をぶちまけて、間違って小箱を拾ってしまったんです。交番より、事件現場の方が寮から近かったんで、事件現場ならお巡りさんがいるかなと思って返しに来たんですよ」


 そう言いながら、小箱を懐から取り出し、石動に渡そうとする。


「そうか、返してくれるならそれでいい」


 石動も手を出し小箱を掴む。


「だが、やけに簡単に引き渡すじゃないか、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 確信しているという眼差しで秤を見つめる石動。


「なんのことですか?」


 言っている意味が分からないと、困った表情を浮かべる秤。


「惚けるな。数日の行動を見たと言っただろ。お前は敷地内から工場を見ていた。チップの講義を受けている学生が大学の隣にチップ工場があるのだから近くで工場が見える場所にいくことはあるかもしれない。あるかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()数日分確認するだけだったが、お前は何をするわけでもなく、工場を近くで見ていた。数日分すべて。怪しくなって数か月前の適当な日を確認したら、やっぱり近くで見ていた」


「・・・・・・」


 黙る秤。それを無視し話を続ける石動。


「極めつけは事件発生時、小箱がお前の近くに落ちたとき、お前は小箱が落ちて転がった位置をみてから、そこを目がけて転倒したんだ。一瞬のことだ。誰でもお前は偶然巻き込まれた被害者だと思う。だが、あの場所に通い続けていることを知って疑えば、お前があの時、考えてから行動していたことに気づける」


 それを聞いて秤は、


「よくわかったな。すごいな」


 笑顔で降参のポーズをした。

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