7話 浅倉千聖は生徒会長。
神様部・・・その新語が生徒会長浅倉の耳に届いた。
おそらく人生で初めてクリオネを見た時の神秘的な気持ちにかられているだろう。流氷の天使、氷の妖精と呼ばれるクリオネ。呆気にとられる感じに包まれているだろう。
「神様部???一体、何をする部活なの・・・・?」
数学の定期テストで最後の問題だけ極端に難しいことに気が付いた時の、険しい顔を浅倉はしていた。どうして先生は満点をとらせようとしないんだ?浅倉の苛立ちと疑問が混ざったような気持ちが読み取れる。
ただ、浅倉の凄いところはその謎の言葉を完璧に取り入れる技量。 さすが、生徒会長と言ったとこか。その程度のことでぶれはしない。
「神様部は、人助けをする部活に決まってるじゃない!!」
フウカは異議ありと言わんばかりの決めポーズとともに決め台詞を吐いた。
俺こそ異議を唱えたい。誰がそのように決めたのだ。君の常識で話すのはやめてほしい。 神様部=人助けの公式をどこで習ったというのだ。
「私は、人を助けたいと思ってる。勉強に悩む人、恋に悩む人、人間関係に苦しむ人、何がやりたいのかわからない人、1人1人が持つ悩みを私は少しでも力になりたいと思うの。」
うん?うん?
やけに真面目な口調で話すフウカに俺の開いた口は・・・なんやら。
「私は神様になる人間よ。そのための手段として、私は神様部を作ろうとしてるの。」
「ダメです。」
一刀両断に、真面目なフウカを切り落とす。浅倉は表情一つ変えることなく、ただ冷静にフウカの方を見ながらマーク模試かのような即答だった。
「なんで、なんで駄目なのよ。私はこんなに作りたいって思ってるのよ。」
「不必要なものに使うお金はありません。」
思いを大切にするフウカ。思いだけはいっちょ前である。威風堂々とフウカは構え続ける。
「生徒が願っていることを尊重するのが学校であり、生徒会じゃないの?」
「大勢の生徒の意思を尊重し、大勢の思いを実行するのが生徒会です。」
フウカの言葉に対して、丁重に返答をする浅倉。
しかし、それはどれも否定を表すものだった。
「神様部を作れば、みんなの思いが叶う。だから、許可ください。」
一歩も引き下がることなく、常時目を輝かせている女の子。 こいつの神様部を作りたいという意欲には本当に驚かされる。 浅倉は、俺の持っていた箒を手に取り。元の場所へと戻す。
「本当に申し訳ないとは思うんだけどね、わざわざこの教室も綺麗にしてくれて、申し訳ないんだけどね。」
「どういたしまして。」
何!! 思わず俺は、浅倉のことを見た。俺が汗水流して、この教室を綺麗にしたのにもかかわらず、
その成果をゼロにしようとしているのか。 何いいところどりしてるんだよ。プリンのカラメル部分だけで食うような悪だくみだぞ。
「ちょっと待ってくれ。神様部、俺からもお願いする。」
ここに来て俺が動き出した。2人の会話に入った。1時間全力をかけて、俺が掃除をしたのにもかかわらず、それが全て無駄になるだと・・・そんなものは許されない。人に監視されながら掃除をするということが、どれだけ苦しいことだろうか。フウカは何もしてなかったんだぞ。 フウカは机の上に座りながら、足を組み俺を監視するだけだった。 初パンチラが、フウカなど俺の人生の汚点でしかない。
絶対に見ずに、俺は床を掃き、雑巾で床を拭いた。 その苦しみに耐え、俺はこの教室を綺麗にしたんだ。
にもかかわらず、生徒会長浅倉は俺の努力を無にしようとしていた。
「俺からも、ぜひ神様部を作っていただきたいと思っています。」
俺はフウカに同調する。珍しいパターンだ。 神様部なんて訳のわからないものは作らなくてもいいが、俺の掃除の頑張りを無駄にされるのはどことなくたまらない。
「これで2人ね。」
フウカはそう言うと、浅倉はすぐに懐から何やら1枚の紙を取り出した。 女子の制服の懐とは一体どこなのか、俺も一瞬まびたきをしていたため見逃してしまった。 何か惜しいことをしたように感じた。
「天海高校規約83番。部活の申請には最低5人が必要。それ以外なら、どれほどの部活であっても申請は受け付けない。5人以上ならば生徒会に申請をしなさい。」
浅倉は生徒手帳と呼ばれる学生にとっての最大の武器を突き出してきた。 校則というなの縛り。
スカート丈は決まった長さに、靴下の色は白色にしなくてはならない。 校歌まできちんと掲載されたコンパクトなもの。 それを黄門さまのように浅倉は俺たちに目の前に差し出してくる。
「ここに書いているとおりよ。5人以上いなければ部活は認められないは。」
「わかったは。」
「はっ??」
俺は思わずフウカの顔を見てしまう。
今、こいつは何と言った。空耳アワードだったか。 キャラ変したか?今、納得したように聞こえたのだが・・・フウカは扉の方へと近づいていく。
「おいっ、フウカ。」
思わず俺はフウカの行くてを阻もうとする。
いくら相手が生徒会長だからといっても、この程度のことですぐに諦めるのはフウカの性格ではないだろう。生徒会長にだって真っ向に戦う………
俺がフウカの肩に触れようとした。
しかし、触れららなかった。
オーラだろうか。
彼女の目は、狂気に満ちていた。 吸血鬼のごとく赤く染まっている。 俺は浅倉に一礼だけして、同じくその場を出た。
バン!!
「なんなのよ!!!!!!!!!!」
放課後の学校に、狼の雄叫びが轟く。
「はっ!なんなのよあの女。何様のつもりなの。池の水の中に足だけつけてやろうかしら。靴だけ濡らして一日不快にさせてやろうかしら。乾燥機の前に顔を突っ込んではだ乾燥させてやろうかしら。」
独特のイジメ方!!! まくしたてるスピードの早さに驚嘆してしまう。
やはり、フウカは怒りを覚えていた。 俺が心配するまでもなく。
「はぁーー、私が神様になることを邪魔するなんてね。微生物のミジンコ並みの心の器よね。
ほんとやなっちゃうわ。ルールーに縛られた、岩石みたいな頭の硬さよね。絶対、謎解きとかは苦手なタイプよね。」
悪口がすごい!
相手は生徒会長だぞ。
ただ、よっぽど怒りがたまっていたのだろう。 止まる所を知らない。
「でも、5人って……あと3人もどうやって。」
既存の部活はどこだって5人以上いる。ルールはルール。
ここは現実世界だから守らなくてはならないものは守らなけらばならない。
しかし、そうは言っても神様部に入りたい奴なんているのか? しかも俺はなぜ部員になっている。
今になって冷静になった時の虚無感が襲ってくる。あの時は教室を掃除したことが無駄になるのが無駄になってしまうから、労働が無駄になるのが嫌で神様部の部員として俺も振る舞ったが、入ろうとうない。
「あの、フウカさん………」
その時だった。フウカは急に立ち止まり俺の顔を見る。 そして、
「ルールがあるなら。ルールを変えればいいのよ。」
どこかの歌の歌詞にありそうなことをフウカは呟いた。 いまいち俺の頭にはピンとはこなかった。
ルールを壊すたって・・・
マンガやアニメの世界では、5人以上の部員がいるのは普通だろ。 それは万国共通のルールだと、俺は思っているが。
フウカはニヤニヤしながら何も言わない。 俺に話しかける素振りも見せないので、そのまま帰路へと向かった。 途中で、方向も違ったので一応
「じゃあな。」
と一言だけ残したが、無視された。ずっとニヤニヤしていた。 ただ、明日何か起きるであろうことに不安しかなかった。 いや、何かは起こる気がした。