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6話 祓野新起、襲名式

「神様部を作ればいいんだ!!!」


昼休憩の誰も来ない屋上で、一声トーンの高い声が鳴り響く。俺の耳にはとてもうるさく響いた。

俺が引き金を引いたせいとはいえ、いくらなんでも食いつきがよすぎないかこの女は。


「そうと決まったら、早速部室を作るわよ。」

「はい。頑張ってください。」

「なにいってんのよ。あんたも来るのよ。」


うん?俺は案を出したじゃないか。もういいだろう。昼飯が俺を呼んでいる。小豆パンの甘さにつつまれたい。にもかかわらずフウカは俺に、鷹が獲物に向けるような視線で、慄きを与える。


「お腹が空いたのでね・・・これで。」

「はぁ?あんたが神様部っていったんでしょ。しっかり最後まで手伝いなさいよ。」


 昼飯を食うこともできないまま、フウカに手を引かれてしまった。考えるエネルギーがない。10分休憩にカロリーメイトを食べておくべきだった。チョコレート味は苦手だが、フルーツ味は本当に美味しい。ただ、フルーツ味とはなんなのか。北極と南極の違い並みに難しくないか?

 脳は既に疲弊しつくしていた。フウカも昼食は食べていないはずだ。それなのに、この元気エネルギーは一体どこからやってくるのだろうか?いっそのこと、ジャングルにでも修行してきたらどうだ。と、口に出すことはできない。

 この女は絶対的に粘着してくる女だ。ここで逃げたらあとで何をされるかわからない。俺の昼飯をすべて裏ロッカーの奥に隠されるかもしれない。俺はついていくしか方法がなかった。


屋上を出ていき、階段を降りる。フウカは颯爽と動く。行先は決まっているらしい。1階まできちんと降りて今いた西側の校舎をぬけて、東側の校舎へと移る。


「ここよ、ここ。」

「ここは、使っていない校舎か?」

「そうみたい。ここは30年前子供が多かった時は使われてたみたい。だけど、今は必要ないみたいなの。」

「使っていない校舎…………」


まさか勝手に使おうという魂胆か。勝手に使うのはいかがなものかたいう真面目な俺の部分がでてしまっている。


「ここの3階に、空いてる教室があるらしいのよ。」


フウカはそう言うと共に、いきなりポケットから取り出した。またまた鍵だ。


「お前さっきから、どこで鍵を手に入れてるんだよ。」

「ふんふん。ちゃんと校長から鍵もらってるもんね。公式よ公式。」


公式呼ばわりをする必要があったのかは疑問を呈するが、フウカが笑顔で話しているからまぁ良しとしよう。


「いや、校長のいかがわしい写真何枚も抑えてるから。へへへ。」


へへへではない。ニヤニヤとケラケラと笑うフウカ。

校長もこの女に弱みを握られるとは大変だ。心の底から同情します。



「神様部〜~♪神様部〜~♬」


やけに機嫌がいいフウカ。いように神様部という響きを気に入ったのか。口ずさみながら階段をスキップして歩く。なぜ、フウカがここまで鍵を既に確保しているのか。準備の良さに驚く。フウカは自分が神様部のようなものを思いつくと、己を信じていたのだろうか?こいつの行動力、未来を予知する能力というのは俺も勉強しなくては。


「何してんのよ。早く行くわよ。」


「はい。」


フウカは軽々3階まで上がるが、俺の足取りは重い。なんとか3階まで階段を登りきる。そこは掃除も行き届いておらず、ホコリが多いところだった。


「なんで、掃除されてないのよ。ほんと、汚ったないわねー。」

無性の苛立ちを包み隠さず、オープンにしてくれるフウカだが、そのようなものを俺は求めていない。そこの共有はやめてほしい。


フウカはいつ何時も、その場面に生じる感情に正直な奴だ。少しは自重してほしい。口にすることはできない俺ではあるが。


「ここね。ここ。」

フウカは到着したと思うと同時に、鍵を開く。3Fの奥の教室だった。ピキピキっとした音、扉が錆びついていて中々開かないようだ。さすがに長らく使われていないだけある。


「手伝いなさいよ。カミ!!」


「カミ??」


フウカは俺の方を向いて、そう呼んだ。俺の名前であるかのように呼んできた。しかし、俺の名前は祓野新起という。どこかで名前をかんぢがいしてしまったようだ。正しておかなくてはならない。


「いや。俺は祓野だけど。お祓いの「祓」に、野で、祓野。新しいことを起こすで新起である。」


「・・・・・・・」


フウカは俺の顔を見つめながら、黙る。

そして、時間の経過とともに頰が赤らんでくるのがわかった。


もしかして俺の名前の漢字を間違っていた・・・昔から祓野というのは、紙野という風に間違えられていたが、それは小学校でよく間違えられた話である。最近はそのような間違いはされてこなかったが。

いきなりフウカは俺のことカミと呼んできたのである。


フウカは少し俯き加減で、口つぐむ。5秒後あたりだろうか、いきなり俺の目を睨みつけるようにし、


「私が、カミって言ったらカミなのよ!!!あんたの名前はカミ!!それ以下でも、それ以上でもないわ。」


語気を荒げて威圧してくるフウカ。俺に有無を言わせぬ構えである。

自分の名前に関連のない呼び方をされるのは、なんとなくやるせない気持ちになってしまう。

祓野新起という名前で、なぜカミという名前をつけられるのだ?

ただ、文句を言っても始まらないことも、そろそろ気づき始めていた。


フウカは俺に文句を言わせるつもりはない。


「はいはい。じゃあ、それでいいですよ。」


「うん。じゃあ、カミね。」


フウカはにこやかな表情になっていた。俺の名前はなぜかカミになった。フウカはにこやかだからいいだろう。でも、その名前だと俺が神様みたいで、恥ずかしい。


扉を開ける。部屋の中も汚れていた。長い間、使われていなかったのだろう。


「あんた、掃除しなさい。」


フウカはどこかで見つけたほうきを俺に差し出す。フウカは俺に掃除をしろと指示を出す。

自分は何もしないつもりだ。



キーーンコーーーンカーンコーーン


チャイムが鳴りどうにか一命を取り止めた。この教室を掃除するの掃除するのは少し大変すぎる。


「じゃあ、放課後掃除しなさいよ。」


すでに予約が入ってしまった。昼からの授業が余計に憂鬱になっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




疲れた。

その言葉しか今の俺には産むことができない。

数年間掃除されていなかった教室を、死にものぐるいで掃除したのだ。


「よく、頑張ったわね。よしよし。」

俺は犬扱いである。犬に似ているなんて、生まれてこと方一度たりとも言われたことがないのに秋田犬を撫でるかのような優しい手触りでフウカは俺の頭を撫でてくる。


「やめろよっぉ」

拒んでるのか、喜んでいるのか判断しにくい声を出してしまう。女子に触れて喜んでいるとでもいうのか。はっ!俺の身体は喜んでいるというのか。女子とのボディータッチをすることによって、俺の身体にエネルギーが注入されたというのか。いつから、俺はこんな変態になってしまったんだ。


「ありがとね。感謝する。感謝する。」


フウカがとても軽いアクセントで俺への感謝を述べてきた。逆に気持ち悪い。

抹茶入りの麻婆豆腐を食べてる感覚だ。

甘さと辛さのコラボレーションは不快を与えてくれるだろう。



ガラガラ


錆びついた扉の開く音がいきなり聞こえた。扉が開き。教室には突然の来訪者がやってきた。

教室を綺麗にすることで現れたのだから、掃除の神様か何かかと一瞬思ったが残念ながらそれは違った。


「あなた達、誰の許可でこの教室を使っているの?」

廊下に悠然たる姿で立っているのは、見たことがある存在だった。


「あれ、委員長じゃないですか?」

俺がそう言うと、はっとした表情をする委員長。


「あっ、祓野君とフウカちゃんじゃない。」

この人は1年B組の委員長、浅倉千里だ。

俺の苗字をきちんと呼んでくれることに喜びを覚える。しかし、フウカのことをフウカちゃんと呼ぶことに対しては多少の気持ち悪さを覚える。


「誰、このきれいな子?」

うん?思わずフウカを見てしまう。お前はたしか全ての生徒に話しかけていただろ。

ただ、フウカの口から誉め言葉がでるのは意外だった。


「何度か話したけどなぁー。あらためて自己紹介するわね、浅倉千里といいます。1年B組の学級委員長兼生徒会長をさせてもらっています。」


うん?生徒会長って言ったか?あれ、その情報は知らなかったぞ。

学校のトップということか?嘘だろ。


「1年生なのに、生徒会長なの?」

「天海高校は中高一貫校で、中学2年生から高校2年生まで、生徒会長に立候補できます。それで、私は昨年勝利したので生徒会長をやっております。2人とも高校から天海高校に来られたので、知らなかったかもしれませんが、入学式の時、私話しましたからね。」


入学式の時、休んでいたから許してほしいが、中学3年生で高校の分まで生徒会長になるのは凄い。高校生のライバルに勝った浅倉はすごい。


「生徒会長なんだーーーー。で、なんか用ですか?」

「ここの教室は、勝手に使ってはいけないことになっています。許可ありますか?」

「校長の許可あるわよ。ほら、鍵もらったもん。」


フウカは自信たっぷりに校長からかっさらってきた鍵を浅倉に見せびらかす。その鍵を一応確認する浅倉であるが、公式のものであるので何も言い返せない。あっと、納得するしかない。


「あっ、ごめんなさい。」


「いや、困りますねぇー。そんな、疑いをかけられてしまっては。生徒会長さんにそのように思われてしまうとは。」


フウカは、淡い町のチンピラかのように生徒会長浅倉に絡みにいく。


「ちょうど話したいことがあったんですよ。お願い聞いてもらえます?」


フウカは浅倉に身体を近づける。お互いに美人であるためかよく生えている光景である。フウカが美人であるということに対しては、苛立ちしか生まない。なぜ、こんな唯我独尊、他と人間を全て、将棋のコマとしか考えていないような奴に美貌を与えてしまったのか。我ながら悔しくて悲しい。

その美貌を有効に使える人に渡して欲しかったと思う。

浅倉千聖は、可愛いというよりは美人だ。目がきりっとしていて、鼻立ちは高く、顔も小さい。

それでいて、スタイルが良く自身に満ち溢れた姿見だ。


「お願いとはなんですか?」


「神様部を作らせて欲しいの。部室はここ。」



フウカはストレートに言った。浅倉の顔を真っ直ぐに見て。この教室の時間が止まったように、数秒間、何の音もしなくなった。浅倉も困惑したのだろう。いきなり神様部と言われてもわけがわからないだろう。日本語を解釈するのに時間がかかっている。なかなか返答がない。


「いやいや、いきなり失礼しました。意味わからないことを言って申し訳ないです。」


俺が仲介に入るしかない。我ながらナイスなタイミングだったと思う。浅倉に対して申し訳ないという気持ちよりは、この空気に耐えられなくなったという方が正しい。


「なに?新しい部活を作りたいの?そういうのはたしかに生徒会でやってるけど。」

生徒会長浅倉は、俺の方を一度ちらっと見ただだけで、すぐにフウカのの方へと向き直す。

効果はいまひとつだったようだ。


「そうそう。部活。部活。私たち部活作りたいのよね。」

私たちと言った点に、なぜもう既に俺が入っているんだ?

浅倉に自分の意図が伝わったことに対してフウカはほっと息をつく。


「ダメよ。ダメダメ。」


一刀両断に生徒会長兼1年B組浅倉千里は拒絶する。




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