4.5話 フウカの1ヶ月
それから1ヶ月。
フウカは、前の席に座っている俺に対しては何も言ってこなかった。
俺から話しかけることはない。厄介なことに巻き込まれたくないからだ。
平穏に暮らしたい。その願いは叶っていた。
ただ、フウカは高校1年生の5月。入学してから約2ヶ月しか経っていないというこの時期にもかかわらず。空歌フウカは天海高校の有名人になっていた。
なぜ有名になったか??
なにかでバズったとか、悪事を働いたとかいうことではない。
今の時代には少し遅れた、地道な営業活動にあった。
フウカは毎日、毎日、学校のある月曜日から土曜日の時間、ありとあらゆる時間を使って、
見知らぬ生徒1人1人と話し合ったのだ。
見知らぬ人に話すことなどあるのか?挨拶か?と思うのが普通なのかもしれない。
しかし、実態は違った。
フウカは出会う生徒、出会う生徒に次のように声をかけたようである。
「あなた、神様???」
挨拶や雑談などをすることもなく、
いきなり「あなた、神様???」と尋ねてくるのである。恐怖でしかない。
生きてきた中で神様か?と尋ねてくる存在など1人としているだろうか。いないのがが普通であり一般的だろう。
しかし、空歌フウカはそれをした。1ヶ月で全校生徒に聞ききったのである。
朝は校門前で生徒指導の先生とともに、あいさつ代わりに
「神様ですか?」
と聞きまわっていたようだ。しかも、フウカの凄いところは1度声をかけた人には聞かないことである。しっかりと一人一人の顔を認識し覚えているという素直にすごいと思う。
昼休みも、フウカは食堂や教室などあらゆるところで人に聞いていた。
食事中であろうと関係ない、フウカは「神様ですか?」と聞きまわっていた。人の迷惑などをフウカは顧みず、自分が聞きたいという欲望を抱いたならば、それに従うというものだった。
放課後は、部活動で少しの休憩をとる人にも声をかけていた。それで、陸上部の顧問などに怒られることもあったが、フウカはそれでめげるような人間ではない。繰り返し繰り返し聞いていた。
どこからこのようなモチベーションがでてくるのか、俺から見ると不思議でしかなかった。
ここまで神様を探している理由はなんなのか?神様を探すなら天国で探した方が良いのではないか?
ここでもう1つ疑問を抱くかもしれない。
なぜ、俺がフウカのことをこんなに知っているかだって?軽く補足しておくと、この1か月俺はフウカのことを知りたくて調査していたからである。けっしてストーカーをしていたわけではない。
それだけはきちんと理解してもらいたい。
なにはともあれ空歌フウカという女は異常だ。
確かに、フウカは、現世でやりたいことがあるから戻してくれと、案内人ハミュに懇願したことで成仏での天国行きを断ったわけであるが、フウカがやりたかったことというのは神様を探すということなのか。
ただ、フウカはこの1カ月で全ての生徒に周知される存在となった。