27話 「カミ君」
その日の夜、俺は殴られすぎて身体のありとあらゆる部分を痛めていた。
我慢することが出来ず。ドラッグストアに行き、絆創膏や消毒液を購入する。
部屋の中に、そういうのも設
置しておいてくれよ思ったが、まぁ仕方ないとしておこう。
500円で購入し、おつりを28円もらって、その場を離れる。
きっちりと懐に入れたややらやのを確認し、
外へと出て行く。
夜だから少し肌寒い、そんなことを感じながらも夜道を歩く。
そんな時だった、どこからともなく聞こえる言葉に俺は耳を傾けてしまう。
「カミくん。」
そう呼ばれることに違和感を覚えてしまう。
その呼び方をする奴は、俺の知っている限り1人しかいない。
しかし、そいつは「くん」呼びなんてものはしない。
その呼び方をする奴は、空歌フウカとかいう奴しかいない。
しかし、フウカは「くん」なんて呼び方をするわけがない。
そんな呼び方をしようものなら、俺への吐き気に繋がるだろう。
フウカにそんな呼び方はされる筋合いはない。
「カミくん」
恐る恐る俺は声のする方を振り向く。
その姿見は、最近頭の中に記憶をした存在だった。
「丸 香澄。」
俺はしっかりとその名を記憶していた。
さっきまであんなに覚えれなかったのに。
「何してんのよ。こんな夜遅い時間に。」
不穏な空気が漂っている。
さきほどの意味のない会話をしていたとは違う。
一言、カミくんと呼ばれただけで気持ち悪い感じを受けてしまう。
たとえ、その呼び方をフウカが言っているのを聞いていたとしても、
なぜ丸香澄がそのような変な呼び方で呼んで来るんだ?
違和感と気持ち悪さしかそこにはない。
なぜ昨日知ったばかりのやつが、そんなに馴れ馴れしく話してくるんだ。
「いや、カミ君と話しておきたいことがあって。」
「話しておきたいこと・・・」
わざわざこんな夜遅くに言わなければいけないこと?
さっき話していたときに何かの不満がたまったのだろうか?
俺の心の中に、自然と不安みたいなものが溜まっていく。
あたりには誰もいない夜道。
「あのー。気分悪くなってきたので、今日は帰らせてもらってもいいですかね。」
とるべき選択肢は、逃げる。
「待ってください。私はあなたの味方です。私も人間です。」
見た目は人間の方なので、人間だとは思ってましたよ。
ただ、彼女はわざわざそのようなことを言ってきた。
人間の見た目をしている人間が、わざわざ自分のことを人間とは言わないだろう。
最近、俺は人間の見た目をした、天使やら悪魔やらに会うことが多かっため、そのような事実確認をしていただけるのは大変ありがたいことではあるんだけれども。
「人間ってことは知ってるよ。そりゃ人間の・・・見た目をしている。」
「私は、WHO所属の丸香澄と申します。空歌フウカ様の監視役として祓野新起さんにお話にあがりました。」
WHO?世界保健機関ですか?そんなところがフウカを監視してるんですか?
ってか、この眼鏡の女の子はいったい何を言ってるんだ。
「あっ、すみません。WHOというの「私のフウカを押し倒せ」の語尾をとってのWHOであります。」
「私のフウカを押し倒せ??」
何の語尾をいったいとってるんだよ。
と思わず、WHOについての文句を言ってしまいそうになったが、
「すみません。少しご理解しにくい名前かもしれません。ただ、私たちの目的は明確に決まっております。」
「なんなんだよ、その団体は?変な宗教団体じゃねーのか?」
丸香澄は笑いながら、手を振りながら否定のポーズをしめす。
「私たちは、この世界を守るための団体です。カミ君も思ってるんじゃないですか、フウカさんがこの世の神様や、大魔王になることは良くないと。」
胸が焼き付けられるほどの気持ちにさせられる。
俺はフウカが神様にも、大魔王にもなるべきではないと、記憶を取り戻すべきではないと思っていた。
「フウカさんは素晴らしい方だと思っています。あんなに自分のことだけを考えれる人はいないと思いますよ。ただ、それでは世界が壊れる」
フウカは天性のリーダ気質がある。だからこそ、まずいとは思っていた。
「1つ聞いていいか。なぜ、フウカが特別な存在だと知っている??」
俺は、天使と悪魔にその話をされたから知っている。フウカの前世が、元神様であり元大魔王であると知らされた。それは、なぜか俺がフウカに気に入られたこと。
そして、天使、悪魔、両方から協力関係を求められていることが知った理由だ。
「・・・・・・。すみません、それはお答えしかねます。」
「なんでだよ?」
そこが1番気になる点であるのでくわしくお聞かせ願いたいと俺は思った。
「もし、WHOに入っていただけるのであれば、お教えできますが。」
こういうのよくあるよね。知りたい、知りたいと思わせといて、最後に条件を示してくるやつがいるよね。そんなの良くないよねーー。
「入らない。なんか入る気なくした。」
俺は眼鏡の女の子からそっぽを向く。なんとなくいやな気がした。
「なんでですか?私たちは人間世界を守るために、記憶を取り戻そうとたくらんでいる天使や悪魔から、フウカ様を守ろうとしているんですよ。カミ君もそのような考えではないのですか?」
「浅倉千聖も、そこにかかわっているのか?」
「いえ、浅倉はかかわっていません。私だけがWHOです。」
浅倉・・・呼びつけなのか。
同級生とはいえ、こいつは浅倉の応援演説だろ。
さっきまで、呼びつけなどしていなかった。
「お前、なんで浅倉千聖の後ろについているんだ?」
空歌フウカが生徒会長にならないためには、自分が戦えばいいのではないか?
そう思った。浅倉が関係のない人間であるならば、わざわざ後ろにつく必要はないのではないか。
「それが一番楽であり、簡単だからよ。浅倉は良いリーダーシップをはれている。」
「たしかに、浅倉はリーダーに向いてるな。」
浅倉千聖は人間ということで信じて良さそうではあるが、
ただ彼女についているのは中々、賢い判断だといえよう。
「私が、やるよりもよっぽどフウカさんに勝つ見込みがあるんだもん。」
俺は納得してしまう。適材適所。自分が例えどれだけ願ったとしてもなれないものにはなることができないと思う。自分に合ってるもの、性格に適したことをするのがするのが、1番効率的であり、正しい判断だと言えるだろう。
「私は、フウカさんを生徒会長にはさせません。」
もうお前ら、全部本人に言ってくれよと毎回思う。
なんで仲介業みたいな形で、毎回毎回俺に言ってくるんだよ。
と、イライラが募っていくのが
まぁ2回目の人生だから許してやろう。
「まぁ、好きにやってくれよ。俺は俺で自由にやらせてもらうからさ。」
WHOに入ることはせずに、俺は俺でフウカの監視をさせてもらう。
「そうですか。じゃあ、仕方ないですね。」
丸香澄はうっすらと笑う。
その変化に俺は気づいたかもしれないが意識を向けることができなかった。
「じゃあ、無理矢理ですが来てもらうしかないですね。まぁ、損はさせませんから。」
その言葉を最後に、俺は気を失ってしまう。




