3話 天国より地獄より、いきたい場所。
「天国へも地獄へも行かない。私は戻るの。」
「いや、本当にそう言われましてもねーー」
案内人ハミュも困っているように見える。
この女は俺とは違って上手く成仏し、幸せの国、天国へ行くらしいじゃないか。
しかし、彼女は天国行きを拒んでいる。
「私は元の世界に戻りたいのよ!!天国になんて行きたくない。」
その女は、ちらっと横目に俺を見る。なぜ俺を見る??
きれいな目で俺のことを見るな!
俺になんとかする力などない。なんともできない。
そのため、俺は目を逸らす。
「こいつ、どうせ地獄いくんでしょ?こいつの地獄の切符と、私の天国の切符で、現世への切符2枚と交換してちょうだいよ。」
怒号。再び俺はその女の方を向く。
向かざるえない。
この女はいきなり俺のことを地獄行き呼ばわりした?
耳には自信があるから間違いではないのだろう。
人を見た目で判断するな!!と俺も言い返してやりたかった。
「そう言われましてもね・・・」
目新しいのだろう。ハミュは女の言葉に困惑する。その隙を狙い俺は間髪を入れる。
「お前、俺はなーーーー。」
「少しお黙り。クソボケナス。あなたごときが私になに話しかけてんの。本当にキモいから勘弁して。あと私は空歌フウカって名前あるから。お前なんて泥にまみれた汚い言葉で呼ぶな、〇んこ。」
汚い。圧倒的区別発言を俺はくらう。
何でいきなりこんなキレてんの?
フウカさん?
今この瞬間、会ったばかりですよね。 よくそんなに悪口言えますね。
小さな顔に大きな目。美人と言って申し分ないかもしれないが、口がいくらなんでも汚すぎる。
少しは謹んで欲しいと俺は思った。
「どうせ、地獄行きなんでしょ?」
おいおいおい。フウカは再び俺の尺に触れる。こいつ俺の何を見て、そんなこと言ってんだ?怒ってもいいですかね?
「えーーとですねーーー」
案内人ハミュが、上手いタイミングで俺たちの言い合いを遮りにかかる。ぎりぎり聞こえるか聞こえないかの声の大きさで、
「わかりました。この扉を通って現世に行っていただいて構わないです。
ただ、内緒にしてくださいね。」
女は両腕を真上にあげる。
「やったーーー。イェッス!!!!」
彼女はグッジョブのポーズをしながら笑顔をやまない。
喜びすぎだろというくらいに、喜んでいる。
なぜ再び元の世界に帰りたいのか、俺は納得がいかないが。
「ただ、もう一度確認いたしますが本当にかまいませんでしょうか。 天国は素晴らしい所です。それをあえて、現世に戻る必要はないと我々は考えますが。本当に、本当によろしいんですよね?」
「当然いいわよ。」
ニッコリ満点笑顔。仁王立ちで立っている彼女。うきうきるんるんである。
「ただ、現世に戻るといっても、元の世界に戻る訳ではありません。また1からです。どのような親様から生まれるかはわかりません。 裕福であったり、貧困であったりとランダムです。何歳から始まるのかも私たちにわかりません。」
えっ、まじですか。
初めからの人生のやり直し。
「ただ、その戻る時点というのは何か意味があります。
「オッケー。オッケー。全然大丈夫よ。現世に戻れるなら何でも良いわよ。」
はっ???今、大事なところじゃなかったか。
何歳に戻れるかわからないって。しかも、意味があるって、どういうことだよ。
「わかりました。再度確認させていただきます。空歌フウカさんは天国行きの切符を取り消して、現世への切符で構わないのですね。」
「はい。」
ちょっと待てよ。俺は戻りたくないよ。こいつの代わりに俺が天国に行くことは無理なのか?1つ席が余ってるんじゃないか。
天国へ、行けば幸せになれる。
夢も希望もない世界、わざわざ行く必要はないんじゃない。
「あのーーーー、彼女の代わりに俺が天国へ行くことは可能でしょうか?」
俺は唐突に疑問を投げかける。1つ天国への枠が空くのだから、俺が入ったって何ら問題はないはずだ。
「えーとですね、それはどうかと言いますと……」
「ダメよ。こいつも、連れて行くわ。」
うん??????
思わずフウカの顔を覗き込んでしまう。
「天国行き、どうかお願いできないでしょうか。」
フウカを押しのけて、俺はすがりつく。
「ダメよ。そんなルール違反。」
「なぜ、フウカさん・・・は、それほどまでに突っかかってくるんですか?」
「どうでもいいでしょー。私がダメって言ったらダメなのよ。」
なんと傲慢な少女であろうか。自分の思いどおしにしようとする発言、普通の人間には言えない。
「上のランクから下げるというのも基本的には禁止されている特例であります。ましてや、上げるというのはさすがに厳しいです。」
案内人ハミュはとても渋い表情で丁重に断ってきた。
悲しい。
「わかりました。しかたないですね。」
「よし、じゃあ現世に帰るわよ。」
彼女は右手拳を上にかかげ。えいえいおーのポーズを取る。
今から運動会がはじまるのかな?
案内人は、一礼をし、
「わかりました。それでは再び現世での旅を思う存分満喫してください。」
「はぁーい。はぁい、はぁい。」
女は小学生のような、ワクワクとワクワク感に溢れたかのような手の上げ方をしている。
おいおいまじかよ。死んだのに、もうこんなに早く生き返るんですかい。
うーーん。
「それでは行ってらっしゃいませ。」
そう言うと俺はあの時と同じように後ろから扉の中へと押された、
今回の犯人はフウカだが、自分のタイミングで行かせてもらいたいものだ。
「あーーーーーー!!!!!!」