19話 空歌フウカは元大魔王
その日のフウカは、いつも通りだったため。
俺はそれなり業務をこなす。ただ、時間も時間だったためか人はあまり通らなかった。
その間もずっとあれでよかったのか考えていた。
白霜アカリへの対応があれで良かったのか。
恋愛漫画に少しだけ酔いすぎていたのではないかという、この顔で言っていいのかというものがあった。
「今日は仕方ないわね。野球部くらいにしか宣伝できなかったけど。まぁ、いいわ。」
フウカは不満気ではあったが、承諾したようだ。それでいいだろう。
その日、俺は1人で家路に着いた。
なんとなく、フウカと話、気力にはなれなかった。
普段もさらさらといっていいほどないのだが。
もう既に暗くなった夜道を、のそのそとしたスピードで歩く、
満員電車の中の憂いさと共に、俺の心は共鳴しているようなものがあった。
「祓野くん。」
俺がぼーと歩く中で、ふと後ろから声をかけられた。
俺は身体を回転させ振り向く。
「白霜………」
なんでお前がここにいるんだという疑問。
それを振り切るかのような恐怖が浮かびあがってくる。
「私、けっこう悲しかったんですからね。」
どうやら、白霜自体はそんなに落ち込んではいないようなのは助けではある。
しかし、彼女がなぜここにいるのか。
「なぜ私がここにいるのか。知りたいですか?」
白霜は少しはにかんだ表情で俺のことを見る。
その姿は、まさに心を見透かしているかのようだ。
「君がヤンデレだからだ。俺が君を選ばなかった逆恨みで、俺のことを。」
白霜は薄ら笑いをしたまま口を開かない。
暗い夜道。誰も通らない。
いろいろ恐怖を感じざる得ない状況だ。
「違いますよーだ。もし新起君が私を選んでたらどうしようかと思いましたよ。」
あれっ?
俺の不安とは裏腹に、白霜アカリは何も感じていないようだ。
「えっ、だって悲しそうな顔をしてたんじゃ。」
「あっ、演技なんですよね。えへへっ。」
演技……………………
これだから、女性は怖い。
いや、人間が怖いのか。
「なんで、演技なんかしたんだ??俺をもて遊ぶためか?」
白霜アカリは終始笑っている。俺のことを手玉に取っているのだろう。
「あなたが空歌フウカ様に相応しい人間なのかを調べるためよ。」
「相応しい人間かどうか?」
わけがわからないとは、このようなことを言うのだろう。
「新起君は中々、理解しにくいかもしれないけど。空歌フウカさんは人間ではありません。」
「人間じゃないってどういうことだよ?」
たしかに、空歌フウカは普通の人間とは異をかいする。
空気を読まないし、自分のことしか考えていない。人間というものを分かっていない。
自分の思い通りになることだけを考えている、とてつもなく変わった女の子だ。
そして、1度死んだ…………おそらくそうだろう。
あの死後の世界で俺とフウカは初めて出会ったのだからな。
そういう意味では、俺もフウカも少しおかしい。
だが、俺は1度目の人生も人間だった。紛れもなく人間だ。
だから、フウカのことも自然と人間だとなんとなく思っていた。
「空歌フウカ様は、元大魔王様です。」
「えっ??」
何やら中2病感のある言葉が聞こえた。
大魔王って単語が、俺の頭の中を通る。
小さい時は、そんな遊びをよくしたものだ。
俺は大魔王であることをうれしがっていたが………
「フウカ様は、悪魔界の頂点であったお方です。」
「悪魔界??」
「はい。私、白霜アカリは悪魔です。」
俺にさっきまで告白してきた女は、実は悪魔だという事実に………
流れの中でそのように感じでいたかもしれない。
「なんで悪魔がここに?この世界はなんなんだ?」
「ここは普通の世界ですよ。私が悪魔界からここに来たんですから。空歌フウカさんは悪魔界の元大魔王です。ただ、今は記憶を無くしています。」
記憶を無くしている。フウカは記憶を無くしている。
「だから、フウカは神様になるとか言ってるのか?」
「……………そう。だから、フウカ様は生徒会長になるって言ってるのね。」
白霜アカリは少し怪訝そうな顔をする。
何か引っかかるところがあったのか?
「まぁ、一応謝っておくわ。思わせぶりにしてしまってごめんなさい。」
振られた感じにされるのはやはり辛い。
ただ、白霜アカリのことが可愛いと思っていたのも事実だし。
先程、俺は彼女よりもフウカを選んだ。その仕返しをされても仕方ないだろう。
「いきなりこんな所で呼び止めてごめんね。ただ、明日は向こう側の陣営から何かの話があると思うから。気をつけてね。」
「向こう側??」




