18話 祓野新起は気づく
「フウカさん。何言ってるんですか?」
俺も戸惑いを隠せない。そんなこと言って大丈夫なのだろうか。
突発的に決まった勝負とはいえ、俺に選ばれるかどうかを競う勝負だろ。
それなのに、この女は暴言を吐き出したぞ。
「いいえ。私は今何も言ってないよ。」
フウカはとぼけたように首を横に降る。
俺はそれをどう受け取ればいいのか?わからない。
なぜなら、明らかに嘘だからである。俺からフウカを見れば、鼻がピノキオのように伸びているよう見える。
「わかりました。まぁ、フウカさんのことはいいでしょう。」
これ以上フウカのことをいじったところで何もできない。
フウカはそういう人間なのである。それをきっちりと把握する必要がある。
「それでは、祓野くん。どちらか決めていただけるでしょうか?」
今永は進行役として俺に答えを求める。
いや、こんなものの答えは簡単である。やるまでもない。
簡単に答えを出して構わないというの風に思う。
「えーーと、ですね。」
俺は一呼吸置き、しっかりと息を吸って間を取る。
それが俺のために頑張ってくれた彼女達への最低限度のお礼というものだろう。
フウカであっても、白霜さんであったとしても、俺に応援演説をしてもらいたいという思いを持ってくれること自体が凄いことなのである。
「フウカの応援演説を俺はします。」
「あったりまえよね。」
周りの者は一瞬静けさみたいなものに包まれる。
しかし、フウカだけは腕を組みながら、偉そうな態度をしている。
それがどうも許せないが、俺がフウカを選んだのだから仕方ないだろう。
「なぜフウカを、今の流れからでいうと、絶対に白霜さんでしょ。」
俺も当然そのように思ったが、セオリー通りにいかないから人生は面白い。
超能力などで選んだのではなく、紛れもなく俺の意思でフウカを選んだのだが、
フウカを選ばざるいけなかった。無言の圧力みたいなものだろうか。
「私を選ぶなんてあったりまえでしょー。」
フウカはよほどの自信があったらしい。この女はこれだから凄い。
無性の自信、そのようなものを俺にもおすそ分けしてもらいたいものだ。
「新起さん。なぜ私を選んでくれなかったんですか?」
思わず俺はギクッとしてしまう。
2択の問題だ、選ばれなかった方はそれはそれなりの文句というものが浮かんでくるだろう。
私が悪かったのか、何がダメだったのか?なぜ選ばれなかったのか?
そんなマイナスのことを考えるのが普通だろう。
負の感情を考えないなんて、本当にフウカぐらいだと思う。
俺は白霜アカリに対して最大限の敬意を払わなくてはならない。
それが最大限しなくてはならないことである。
「もちろんね、白霜さんはとても可愛い人だと思うよ。」
俺は自分ができる最大限の笑顔で白霜アカリに向かい合う。
それが最大限の敬意だからである。
「白霜さんはとても可愛いよ。優しいし、面白いし、素敵だと思う。」
1回目の人生ではなかった光景だ。遊び半分とはいえ、俺がこのような立場に立つなんて。
中々面白い光景である。少しだけ、2回目の人生を全うすることができてよかったと思得る瞬間だったかもしれない。
「ただ、俺はどうしてもフウカの助けになった方が良いんじゃないかと思っただけ。フウカのパートナーにふさわしいのは俺だけだとそう思ったんだ。
俺の気持ちの中にあるものを全て彼女にぶつけた。
「わかりました。そうですね。」
とても悲しそうな顔をする彼女に、俺はそれ以上何も言えない。
人を選ぶということはそういうことになるのだろう。
それは悲しいけれど事実なのである。
「では、白霜は応援演説を探すように。」
「はい。わかりました。」
俺の心も痛い。これが選ぶということなのか。
今までそのような選択肢から逃げてきたことの付けなのか。
痛みというものは、
「何悲しそうな顔してるのよ。もっと喜びなさい。私の応援演説ができるんだからさ。」
そう言っても、1人の女の子を悲しませたつけが俺にはある。
フウカの空気を読まない感はいつ見ても凄い。
それからは岡本先生が選挙の話をしていたが、俺の耳には聞こえなかった。
自分のメンタルの弱さに悲しみを覚える。




