12話 4人目の候補
その後、俺はフウカに連れられて、放課後選挙活動に校門前へ行った。
朝から夕方まで働かされるのはとても大変である。
ただ、フウカの言うことである。聞かないわけにはいかない。後で、何をされるかわからないからな。
「三森アカネを、よろしくお願いします。」
校門前には、既に先客がいた。2人の男性と女性。ポスター見た時に、4人ともが女性だったので俺と同じ立場の男性だろう。いわゆる応援演説という立場の人間だろうか。
フウカは既に選挙活動をしている所に躊躇なく行った。俺なら普通、遠慮をするところではあるが、ずたずたと何にも構うことなくそのまま行く。
「空歌フウカを、よろしくお願いします。」
いきなり現れた女が、突然選挙活動をする姿に驚きの表情を見せるが、
「あなた、空歌フウカちゃんだよねー。」
選挙活動をしていた男が、 いきなりフウカに話しかけにきた。
「はじめまして。わたくし、今永透と言います。空歌フウカさんですよね。」
かなりのイケメンだろう。背は高く足も長い、目、鼻は整っている。見て一瞬でイケメンと判断できる人物であろう。髪型はいわゆるマッシュヘアーという奴だろう。女子からみればイケメン+ミステリアスを感じることができ、いつのまにか好きにさせてしまうかもしれない。ただ、爽やかさまで兼ね備えているから、俺から見るといけ好かない。
「誰あんた?あんたも生徒会選挙でるの?」
「いえいえ、私はただの応援演説者にすぎませんよ。生徒会長になるのはこっちです。」
そう言って横からひょっこり現れてきたのは、小さな可愛いらしい女の子だった。
身長は俺の頭2つ分くらい小さい。150cmもないくらいである。
「はじめまして。よろしゅうお願いします。うちの名前は、三森あかねと言います。」
どこの方言であろうか、とても可愛らしい滑らかな話し方である。
身長が小さいからか可愛らしく見えるが、おっとりしているようにも見える。
「あんたが、空歌フウカちゃんか。可愛ええなぁ。羨まし
もう少しフウカはした方が良い。遠慮というものを覚えるべきである。
「あなたが4人目の生徒会長ね。」
「4人目かはわかりませんが、生徒会長に立候補しましたよ。」
右腕で手をあげる。私は生徒会長に立候補したとアピールしたいのだろう。
「なんで、生徒会長になりたいか教えてもらえる?」
そういうと、小さな三森は高身長イケメン今永の顔を見上げた。言ってもいいのか確認をしたかったのだろう。
「はい。いいと思いますよ。フウカさんなら、わかってくれますよ。」
コクリと2人は頷きあう。そして、三森が口を開く。
「私たちは、新しい部活、セパタクロー部を作りたいと思ったの。でも、部員は2人じゃだめ、5人いるからって言われたの。5人集めようとしたけど、集まらなかった。だから、新しいルールを変えるために生徒会長に立候補したの。」
はっ??
新しい部活を作るために、生徒会長に立候補しただと、それってフウカと同じではないか。
ただ、セパタクローって一体なんなんだよ?
「セパタクローって、足を使ったバレーでしょ。私それ知ってるよ。」
「えっ、ほんと。フウカちゃん分かるん?嬉しいわー。」
2人は意気投合している。
そんな…………生徒会長になる理由が新しい部活を作るってことで一致することなんてあるのだろうか。今、ここに起きていることなのではあるが。
「私も、神様部というものを作るために生徒会長に立候補したのよ。あの生徒会長に阻まれてしまってね。」
「一緒じゃないですか。」
「えーー、フウカさん達も。」
なぜかここで意気投合をする2人。全く違う人種のように最初は感じていたが、なぜか新たな部活を作るという点において2人は意気投合してしまった。なんとなく、新鮮な気持ちになる。
「いい光景ですね~。微笑ましいかぎりですね~。」
俺の隣にいたイケメンは、にこやかな目をしている。笑うだけで絵になる奴だ、いけ好かない。
「お前も、セパタクローやりたいの?」
しけった面の俺が、イケメンに話しかけることについて若干の劣等感を感じつつ話す。何だろうか、なぜ人はここまで見た目で差をつけるのだろうか。生まれた時点で、決まっている。ある人は、そうじゃないよ。人間はどんな可能性もあるというかもしれない。
嘘っぱちだ。どんだけ自信をもったとしても、このイケメンを目の前にすると劣等感を感じてしまう。
そんなちょっとした俺の劣等感に感傷に浸ってしまっていた。そんな時だった。
「ははっはっはは」
「何、そんな怖い顔してるんですかーー。」
これがいわゆる陽キャというやつなのだろうか。俺の怖い顔を見るやいなや、すぐさま後ろに回って脇をとり、こしょこしょをしてきたのである。あまりの、くすぐったさに俺は声を出して笑ってしまう。
「何やってんのよ、カミ。」
「いや、この男が・・・」
俺はなぜかイケメンの方をみながら、指さしてしまう。
「そんなこと言わないでくださいよ。私は新起君と仲良くなりたいだけなんですから。」
なにやら拗ねた表情をみせる今永。それすらもさまになっているからすごい。役者かなにかのひとなのだろか・・・
「あっ・・・・・なんかごめん。」
「泣かしたーー。泣かしたーー。先生に言ったろーーーー。」
フウカは俺をバカにするかのように言ってきた。うざい以外の言葉出てこなくて吐きそうだ。
しかし、
「新起君?だっけ。透を泣かすんはやめてくれへんか?」
独特のなまりの入った言葉で小さな女の子にも怒られてしまう。
悲しい人間である俺は。
「ごめんなさい。」
女子にも責められてさらに悲しくなってしまった。謝らざるえない環境をつくられてしまったのでしっかりと俺は深々と頭を下げて謝ることにする。
そのように俺が言って、数秒たったあと、顔を上げた時だった。
「仲良くしましょ。」
そう言って俺は、抱きしめられてしめられてしまった。なかなかの力強さになにも言い返せない。身体から力が抜けいていく感覚。
「すみません。これも仲良しの証です。」
そう言って笑顔を俺に振りまいてくる今永。どこからどこまでもイケメンなのである。
「ははは、男と男が抱き合ってんの、ははは。」
フウカの笑い声だけがあたりに充満する。放課後の、生徒の多くが帰宅したあとの校門前には男同士のハグに喜んでいるうるさい女がいるだけである。