11話 おやっ、生徒会長候補は相対す。
午前6時45分。
雨が降りしきる中、俺とフウカは校門前に陣を取った。
それは戦国時代の武田信玄を彷彿とされる。フウカは自前の椅子に座り、俺に傘をささせる。まさに戦国武将と言って問題ないだろう。圧倒的な存在感だけを放っている。いや、逆に怖いだろ。
武将の鎧の代わりに、カッパに身を包み。雨を完全防御する。
なら、傘いらないと思うだろう。しかし、フウカは俺に傘をさすよう指示するのである。
疲れるだけである。
午前7時。
まだ、登校する人は少ないが。そぞろにやってくる生徒。高校3年生であろうか。受験勉強のために
これは、部活の朝練と言うよりは、朝勉に来た生徒だろうか。賢いものである。
「空歌フウカをどうかをお願いします!」
カッパを装着し、自転車に乗って通学する人達も一斉に止める。それはまさに、信号そのものである。あまりにも大きな声すぎて自転車に乗っていた人たちは自転車を止めざるえない。
そして、あらゆる方向から視線が向けられる。その視線を確認してからフウカは口を開く。
「私は今回の生徒会選挙に立候補しました空歌フウカと言います。どうか清き一票をお願いいたします。」
フウカはその言葉とともに一礼をする。雨音に負けないような大きな声。また、カッパを着ていて耳がふさがれている生徒達にも届くようフウカは大きな声を張り上げる。
しかし、それを聞いた後でも生徒達は視線を元に戻し、自らの行動へと戻る。
流石にこの時間は、真面目な人が多のだろうか。フウカにわざわざ一礼をする人がいた。
午前7時30分になった。まだ、生徒達の集団というのは現れていない。
ただ、嬉しいことに朝から降っていた雨は止み始めていた。仕方のないと思っていたが、ラッキーだと思った、神様も、フウカに早朝から連れ出された俺のことを哀れんでくれたのだろう。
と、なぜ思ったのだろうか。雨が止んだ理由は、他にあった。俺の視線は自然とその人にいってしまう。
「空歌フウカを、どうかお願いします。」フウカがそう挨拶した人に、俺は見覚えがあった。
「あなた、何やってるの?」
―――――1年B組浅倉千聖現生徒会長。
なんとなく危険な悪寒が走ってくる。向こうからしたら同じクラスのフウカが生徒会長に立候補したというのは気の良いものではないはずだ。なぜなら、神様部の申請を通さなかったことに対して腹を立てて、生徒会長の座を奪おうとしているように感じているからであろう。
さらに言えば、昨年中学3年生で生徒会長になった浅倉千聖。
その1年間の活躍ぶりから、自分でも選挙をするまでもなく、ライバルは現れないだろうと踏んでいたかもしれない。少なくとも俺ならそのようなスキを見せてしまう。
だからこそ、今この瞬さ間に俺は恐怖を感じている。
「フウカちゃん、何してるの?」
「私は、選挙活動をしていますが。今日から大丈夫と書いてあったので。」
お互いににこやかな表情とともに、視線がバチバチとぶつかっているように見える。
「まさか、生徒会長に立候補したっていうの?」
「はい!」
元気よく答えるフウカ。この2人の周りだけは晴れているんじゃないかという、気持ちにさせられる。
しかし、雨は降り続けているから面白い。
「えーーーーーーーーーーー」
その雨音を切り裂くように、浅倉千聖の叫び声が響き渡る。まさか、同じクラスの、変人神様娘が生徒会長に立候補するとは思わなかったのだろう。
「ふーーーーん。生徒会長になるんだー。」
「何か問題でも?」
急に女同士が仲が悪くなるというのは、今までにもよく見てきたが、この2人に関して友達を奪われるとかそういう醜い嫉妬心ではない、お互いを敵だと思っているかあらこその仲が悪くなる感じ。
「問題あるでしょ。私は、この学校が良くなることを誰よりも思ってる。あなたみたいに自分のエゴで、生徒会長になろうとしている人と同じにしないでもらえるかしら。」
その言葉に対して、すぐに反応するのではなく。一回飲み込んだ。
喜ばしい場面ならば、パチパチパチと拍手をしていたかもしれないが俺も空気を読む。
そして、心の内で一度温めてからフウカは再び口を開く。
「私もこの学校が良くなることを思ってますよ。誰よりも思ってます。」
火星の中心のマグマのように、真っ赤に眼差しを輝かせて浅倉生徒会長の方を見る。その目は嘘を付いてない。おそらく。
「私が神様部を作りたい理由は、この学校の生徒を助けたいと思ってるからです。1人1人悩みは違う、恋の悩みを持つ人間。金銭的な面に困ってる人間。友達がいない人間。家族関係が良くない人間。
私の知らない所で、知らないことで困ってる人はたくさんいると思います。」
うん。なにか俺はフウカの話に惹きつける。
「神様部は、私が困ってる人に対して無償の愛を配る部活です。」
えっ、そんな深い部活だったのか。初めて俺も知ったのだが。
フウカの愛など誰もいらないだろう。
空歌フウカが神様という位に君臨して、俺たちに文句をいう部活だと思っていた。
「無償の愛を配る部活?具体的には何をするのかしら?」
「・・・・・・・・」
フウカは口を紡ぐ。どうやら、具体的にすることはまだ決まっていないようだ。
さすが、浅倉である。フウカの痛いところをついてきた。
「わかってますよ。浅倉さんにいくらいっても神様部は生まれない。だから、私が生徒会長になるんです。」
一種の八つ当たりみたいなものである。言い方に対して俺をイラつかせるものがある。
フウカは少し冷めたような表情で、煽るように語る。
「まぁ、いいわ。ここで言い合ったって仕方ないからね。」
生徒会長も、中々の勝負師なのだろう。引こうとはしない。
「まだ、選挙活動してない人に文句言われたくないんですけどね。」
フウカは勝ち誇ったような表情で浅倉さんのことをニコッと見つめる。これがマウントという奴か。
浅倉もフウカにニコッと笑顔を返す。
しかし、もうそれ以上は何も言うことなくその場を立ち去ってしまった。
これはいけない、完全に浅倉の心に火をつけてしまっような気がした。浅倉はそのまま校舎へと歩みを進めた。
午前8時。そろそろ全校生徒がやってくる時間になっていた。
「私はこのたび生徒会長に立候補した、空歌フウカです。どうか、清き一票をお願いします。」
フウカは勢力的に選挙活動をしていった。