霞と碧、そして謎の人物たち
あれから、約五分後のことである。
落ち着きを取り戻した碧さんと俺は、部室の真ん中ら辺にある長テーブルに向かい合って座っていた。勿論、碧さんは服を着ている。断じて裸ではない。そうであってほしいとは思うけれども。
テーブル上には、二人とも弁当が置いてあった。
何か会話しないとな・・・・・・。
気を使ってとかそういうのではない。
「何で上半身裸状態だったんです?」
違う話で忘れてあげてもよかったのだが、何となく気になったのだ。
「ああ、無理して答えなくていいですよ?」
「んーとね」
あ、話すんだ。
「実は・・・・・・ブラが取れちゃって」
・・・・・・あのー、どう反応すればよいので?
「あはは、それでね。ブラを着けなおそうとして服を脱いでたんだよ。そのときにかすみんが来てさ」
いや、何故その状態にあったにも関わらず、俺を入れたんですか。入りますって一応言ったんだけどなぁ。
「あはは、何でかな?」
知らねーですよ!
いやもう、言葉がおかしくなったし!
「ま、それはもういいですけど。あと二十五分程しか時間ないんで、食べながら朝の話をしましょう」
「そうだねー」
そう碧さんは相槌を打ち、弁当を開けた。
うまそうだな。
そんじゃ、俺も開けて・・・・・・っと。あぶね。蓋落としそうだった。
箸でご飯を食べる。
「それでですね、朝話してた魔術師のことを聞きたいんですけど」
そう言いながら、俺は玉子焼きを食べる。
碧さんは、なにやら口をもぐもぐしていた。ご飯を食べているのだろう──それを飲み込むと、話始めた。
「【不視の天手】アーミスト・ウェンベルって知ってる?」
「あ、はい、知ってます。えっと、どこにも属していない召喚魔術使いですよね?」
「うん、それであってる。
そのアーミストが影で動いているらしくてね。今、イギリス教会統括部が対処にあたってるんだよ」
イギリス教会統括部。それは、表向きの名であり、裏向き、つまりは、魔術側での名は、イギリス魔術正教会である。
イギリス教会統括部とは、イギリスにある教会の統括している団体さん、また、魔術結社のことである。
日本とイギリスは、条約を結んでおり、密接な関係である。
(日本は、魔術の普及はないが、魔術師がいない、魔術結社がないわけではない。日本の魔術結社とは、十師族のことを言う。)
「ということは、それって結構ヤバいことになってます?」
「うん、ヤバい!」
いやいや、そう元気に言われても。
「イギリス教会統括部が動いているって言いましたけど、どのくらいの規模の戦力です?」
「第五階級が五十人程に加えて聖人が三人だよ」
第五階級が五十人だと!?それに聖人が三人も!?
俺は驚きを隠せなかった。
イギリス教会統括部──イギリス魔術正教会には階級があり、第十階級から第一階級まである。第一階級魔術師の一人当たりの戦力は、第十階級魔術師の百人程とされる。
第五階級は、十まである階級の上位クラスで、つまり、五番目に強い魔術師がいるのだ。
第五階級魔術師一人当たりの戦力は、第十階級魔術師の二十人程になる。軽自動車を五人掛りで持ち上げられるくらいと思ってくれれば問題ない。わかりづらい例えだったか?
聖人とは、世界に十人しかいない貴重な人材、戦力だ。
聖人は、神の庇護を受け、邪悪に対する絶対な力がある。
神の庇護を半端な存在の人間は受けられない。そもそも人間界には、神の庇護は存在しない。あるとすれば、天界等だ。
「そんな戦力を導入して、何をするつもりなんですか。まるで戦争が起こる前兆みたいですよ」
碧さんは水筒を出して飲む。お茶かな。
「まるで、じゃないよ。前兆と言っていいのかな。まあ、それも含めて、戦争はもう始まってるよ」
碧さんは、そう言ったあとに水筒の蓋を閉めた。
ちょっとまて。この人は何て言った?既に戦争が始まってるだって?
「・・・・・・どういうことです?」
「どういうことも何もないよ。イギリス教会統括部と日本に侵入してきた魔術師の戦争がもう始まってるはずだよ」
「何故!?ということはつまり、侵入してきた魔術師は集団、もしくは、組織何ですか!?」
「・・・・・・拝火教って知ってる?」
「知ってますよ。三頭龍アジ・ダハーカの伝承のやつですよね。それが何か?」
「それが相手なんだよ」
碧さんは、深刻そうな顔つきでそう言った。
「・・・・・・え?
ゾロアスター教が、侵入してきたという魔術師なんですか!?目的は何なんですか!?」
「朝に話したこと覚えてる?魔術を詠唱しないで発動できる魔術師が街にいるって」
「ってまさか!」
「そう、拝火教たちの目的は、無詠唱魔術師だよ」
「捕獲ですか」
「いいや、殺害だよ」
殺害だと?しかし、無詠唱魔術師を捕獲すれば、戦力として膨大なものになる。それを殺害?何を考えているんだ。
「拝火教は、この世界に不必要な、或いは、存在すべきではないものを排除しているんだ。
今回、その対象となったのがその魔術師なのさ」
何を言っているのかが理解できなかった。いや、できているのだが、それが正しいのかそうでないのかが頭の中でごちゃ混ぜになっているのだ。
碧さんが言っていた、この世界に不必要なもの、存在すべきではないものを排除している、が妙に引っ掛かる。
「それって、魔術も含まれないのかっていう疑問なんじゃない?考えてみれば、魔術もこの世界に存在すべきではないものだと思うよ」
と、碧さんが言う。
なるほど。それが妙に引っ掛かったんだな。
しかし、そうだな。魔術ってのも考えてみれば、存在しているのがおかしいよなぁ。
魔術って、どういう理屈で発動してんだよ。
「よく聞くよね。世界に術式がその他もろもろが干渉してどうこうみたいな。でもそれもおかしいよね」
「あれですね。そんなことを言っても、きりがなくなりますよね。よくありますよね」
「あー、よくあるね」
どうやら、碧さんもあるようだ。
「ま、それはどうでもいいんですが。
そういえば、拝火教の魔術師が侵入してきたことと、【不視の天手】アーミスト・ウェンベルが侵入してきたことってのは、関係があるとみていいんですか?
さっきの話を聞くと、どうもそれしかないと思うんですけど」
俺の質問に碧さんは、あったりぃ!みたいな顔で答えてきた。
(しかしどんな顔だよ。よくわからないが、そんな顔ぽかったんでそう表現した。伝わりましたかね?って、誰に言ってんだよ、俺。)
「あってるよ。
アーミストが拝火教に協力してるみたい」
やっぱり?
あ、でも仲が悪いって聞いたことあるんですけど。デマだったんすか?
「それは私も聞いたことあるよ。だから、協力してるって聞いて驚いたんだよ」
碧さんもか。
・・・・・・んと、取り敢えず聞きたいこと聞こう。よく見たら、時間がそこまで余裕ないみたいだ。
「碧さん、無詠唱魔術師の正体はわかっているんですか」
「そう、それ!
名前だけわかったよ。えっと・・・・・・、天河音って名前」
天河音か。日本人なのかよ。
「ああ、それと。
鶴乃っちのことなんだけどさ」
碧さんの声のトーンが下がった。
え?何ですか。
「言うつもりはなかったんだけど。
今回の件に関わっているみたい。気をつけて」
・・・・・・・・・・・・は?
「ちょちょ!どういうことですか!?鶴乃が関わっている?」
「うん、そうなの」
「あ、え、でも。あいつ、魔術師じゃないですよ?一般人が何で・・・・・・」
「あー、うーとね。よく聞いてね。
鶴乃っち、どうやら魔術師みたいなの」
そう聞いた瞬間。
ありえなあーい!
という言葉が頭を埋め尽くした。
「!?どういうことだぁぁぁぁぁ!!」
そう叫んだ瞬間、予鈴が鳴った。
あ、ちょうどいい。・・・・・・って、話聞きたかったんですけど!?
◇◇◇
はあ、どういうことだ。というか、何てことだ。
鶴乃が魔術師だと?
ふざけるな。
なにがって、隠してたことだよ。
あー、いやまてよ?
俺も隠してるんだから一緒か。
そう思ったら、気が楽にな──────ってねぇーよ!!
放課後である。
なんとか授業をこなし、やっと解放された。
部活に入っていない俺と鳴海は、トコトコと坂を下っていた。
昼休みの出来事。それがまだ脳に焼き付いている。
碧さんのはだk──ではなく、鶴乃が魔術師だったってことだ。
「まあ、だからといって、何が変わるわけでもないと思うけど・・・・・・」
そう、呟く。
辺りは、帰宅部の生徒で溢れかえっていた。
生徒の大半が部活に入っているが、それでも帰宅部は多い。
三分の一もいるのだ。
基本的に部活に入るやつが多いと思ったが・・・・・・帰宅部結構いるなあ。
俺は、碧さんに文芸部に入れば、と誘われたが断った。なんなら、早く帰ってぐーたらしてた方がいいからな。
鳴海の場合、仕事があるとかどうとか。あいつ、小説家なんだよなあ、思えば。
なんという設定!主人公ではなく、その友人が小説家!
いやまあ、だからなんだっていう話だけど。てか、俺主人公なのかよ。知らねーよ。主人公じゃなくていーよ。
兎に角、何か、鳴海の本が人気らしい。読んでないけどね俺。
友人の書いた小説を読まないなんて、なんという人だ!と思うなよ。別いいじゃねぇか。鳴海が書いているのは、一般文芸なんだよ。一般文芸を読まないってわけじゃないけど、何故か鳴海のは読む気になれない。いや、面白くないってことじゃなくて。・・・あーもう!鳴海何も言わねぇし、いいんだよ!
・・・ふう。まあ、いいや。
風がほのかに何かの匂いを纏わりつけている。
この匂いは・・・・・・
「肉じゃがか?」
鳴海が言った。
考えていることが同じだった。ま、それが肉じゃがの匂いなのかは不明だが。
坂を下り終えたところでその匂いが消えていることに気付いた。ま、肉じゃがの匂いなのかは不明だが。大事なところなので二回言いました。もう一度言います。二回言いました。
・・・・・・いや、なんなんだよ俺。阿呆だな、俺。
そんな帰り道だった。
◇◇◇
「ザークスさん、ここらでいいんですかい。ほんとに来るんで?」
ある住宅街の一角で。
黒と赤の色を強調した服を着ている角刈り頭の男と白いマントを着ている黒の長髪の男がいた。
白いマントの男──ザークスは、角刈り頭の男──ユードの問いに頷いた。
「ああ。あの人の情報によれば、ターゲットの男二人はここを通るらしい」
ユードは辺りを見渡す。
「学校はあっちなんでこっちからっすかね」
ユードは学校があると思われる方角、東を指差した。
ザークスは双眼鏡を取り出して、ターゲットが通るであろう道を見る。
ザークスたちがいる地点からターゲットが通るであろう道までは百メートル程ある。
何故そんな遠いところで待っているかというと、単に慎重なだけなのだ。ただそれだけ。
ザークスは、慎重過ぎるが故に本隊から降ろされ、この任務についている。
ユードといえば単に、本隊にいても戦力にならないからだ。
「しっかし、あの人は何で男二人を連れてこいなんて言ったんすかね。どういう関係なんすかね」
「知るか。俺には関係ねぇ。
・・・・・・と、来たようだぞ。あの二人だ」
双眼鏡を覗きながら、ザークスはユードに言った。
ザークスが言った通り、百メートル程先の道を二人の男が歩いていた。男というより、少年だ。
ターゲットは、男子高校生二人。
「それじゃ、行きますかね」
ユードはそう言うと、歩き出した。ザークスもそれにつづく。
「慎重にな」
ザークスは前を歩くユードに言った。
「わーってますよっと。見失っちまう。走りますか?」
「ああ。走って角まで行こう」
二人は軽く走って角まで行くのだった。
◇◇◇
へい!腹が空いたぜ!
只今の時刻、十六時過ぎ。
まだ晩御飯の時間には早い。
いつもなら、この時間帯はお腹空かないんだけど。どうしたよ、俺。
兎に角、何かを食べたい。そう思い、鳴海を誘ってドーナツ屋でも行こうかと考え中である。
でもなー、太るかなー。いや、そんなこと考えるな。女子じゃあるまいし。ならば!
「鳴海、ドーナツ屋行かね?」
俺は鳴海に聞く。と。
「いいが」
との返事が来た。
小説の方はいいのか?と誘った俺が言うのもなんだけれど、一応聞いてみた。
「大丈夫だ。もう書き終わったから」
書き終わったぁ?確か、締め切り、来月の頭だったよな?早くね?
「あー、いや、先月に終わらせた」
・・・・・・あー、もうつっこまないぞ。
いつも曲がる道を通り過ぎ、国道に出る道に曲がる。
八十メートル程進むと国道に出た。
あっちこっちに学生がいる。俺の学校の生徒だけではなく、他の高校、或いは、中学生なんかもいた。
ほへー、と一点を見ながら歩いていると。
「おい、あれって、長山じゃないか?」
鳴海はそう言って顎で右の歩道を歩いている女子高生を指した。
あ、ほんとだ。
そこには、中学時代、男子だけでなく女子までもが好意を抱いていた、抱かざるをえなかった美少女──長山遥水がいた。
ま、俺はそうは思わなかったし、今も思わないけど。
二次元LOVEだし。
鳴海は、タイプじゃないと言っていた。
お前のタイプってどんなだよ。と、聞いたことがあるが、教えてくれなかった。
「あいつ、第二高校に行ったんだっけ」
俺は鳴海に聞く感じで言った。
「そうだな。第二高校は、この街で三位の学力だからな。だからなのかはわからないが、それも含まれるだろう。長山は、結構成績良かったからな」
あら?お前が人を誉めるの珍し。
「そうか?普通に誉めるぞ?」
そんなこんなでドーナツ屋へと向かう。
◇◇◇
「どういうことっすか!?少年二人が違う道に行きやしたぜ!?」
ユードは慌ててザークスに聞いた。
聞かれたザークスもわからなかった。
もしかして、ばれたのか?とザークスは思った。だが、そんなことはないだろうと思い返す。
あの二人はそんな素振りを見せなかった。いや、見せないのが当たり前なのだが、しかし、ただの高校生がそんなことをできるわけがないと思ったのだ。
「(だが、だとしたら何故、いつもの道を外れた?気付かれたわけじゃないとしたら・・・・・・。単なる買い物とかか?)」
取り敢えず、行動を見張ろう。そう思い、ユードに指示を出す。
「取り敢えず見張っておけ。一応、あの人には連絡しておく」
「了解っす」
◇◇◇
「おー、空いてる空いてる」
俺たちは今、学校から十分程のところにあるドーナツ屋の前まで来ていた。
ウィンドウから見える店内には、数名の客がいるだけ。
・・・・・・あー、気分が悪くなったわ。あれなんだよ。客全員、恋人同士で、男女ペアになってんだよ。これってあれか?リア充爆発しろ的なやつだろ?しかも、学生さんこんにちはですよ。これはちょっと、入りづらいな。
「お前が女装すればいい」
と、鳴海が言った。
何突然言っちゃんてんですか。嫌でいやがりますよ。
「お前がしろよ」
俺は言い返す。
「しないぞ」
いや、わかってる。言ってみただけ・・・・・・って、鳴海は本気だったろ?
「当たり前だ。本気で言わないでどうする」
どうもしねぇーよ。何言ってんだよ。
それはいいとして、だ。
「これ、どうしようか。あん中を男二人でってのは、きついよな」
「まあ、そうだな。じゃ、店内で食べなければいいんじゃないか?注文して持ち帰って」
あ、その手があったか。
「帰ってから食べよう。うん、それがいい。
んじゃ、入るか」
いやー、入るのも嫌なんだけど、しゃーないか。
俺は諦めて、店内に入った。
◇◇◇
少し離れたところを歩くザークスとユードの二人。
辺りを見渡しながら、ユードはザークスに聞いた。
「ザークスさん、ここどこなんすかね」
ザークスは、知らん、と仏頂面な顔で応えた。
彼らは、この街の地図を知らない。このためだけにここに来ているのだ。故にわかるはずもなく、そして彼らが言うあの人という人は、彼らに頼んだにも関わらず、何も教えてはくれなかったのだ。
「(どこだ、ここは。元いた場所から十分くらい歩いたはずだ」
十分程歩いているわけだが、しかし、少年二人の歩調に合わせていたため、速く歩いてしまい、(通常の速度であれば、そこまでの距離は歩けないが)結構な距離を歩いていた。(少年二人の歩く速度が速いのだ。)その為、どれくらいの距離を歩いたかもわからず、そして、本当に十分しか歩いていないのかだろうか、と思ってしまっていた。
「ザークスさん」
突然、ザークスにユードの声がかかった。
「何だ?トイレか?」
と、冗談を言うザークス。
ユードは、違うっす!と、言った。
「見てくださいよ、少年二人を!」
そう言われたザークスは、少年二人を見た。
「あれは・・・・・・ドーナツ屋か?」
「そうすね。ドーナツ屋の前にいますね」
ザークスとユードの目の先では、少年二人がドーナツ屋の前で止まっていた。
「あれが目的だったのか。これで道を逸れた理由がわかった」
ザークスは納得した。
「オレも食べたいっす。行っていいっすか?」
ユードのやつに限っては、こんな調子だった。
「駄目に決まっているだろう。この任務が終われば、休みに入れるんだ。それまで我慢しろ」
ユードは、わかったっす、としょんぼりとしながら言った。
ザークスは、さて、と呟いた。
「(あの人に連絡しておかないといけないな)」
ザークスは手にスマホを持ち、メールを打つ。
「(あとは、あの二人を連れていけば完了か。容易いな)」
メールを送信し、再度、少年二人を見る。
すると、ちょうど、二人が店に入って行った。
「ユード。出てくるまで見張ってろよ。あと少しだ」
と、ユードに指示をした。
「了解したっす!」
あと少しで終わると思ったら元気が出たユードは、腕をブンブンと回して言った。
「あぶねぇぞ!」
ザークスに迷惑がられたが。
◇◇◇
「うげっ、」
うわー、吐きそう。
俺と鳴海は、ドーナツを買って店を出て、家に向かう。
いやもう、死にそうだった。忘れてたけど、人混みが嫌い──というか知らない人が嫌いだったんだよな、俺。
「お前は、人付き合いが駄目だしな。コミュ障だからな」
うっせーい。
コミュ障で何が悪いか!友達だって、お前らとかいるし。そんなにいらないし。
・・・・・・まあなんだ、社会に出ると、コミュニケーション能力は必要不可欠なスキルだもんなあ。
「うげっ」
余計に気持ち悪くなったわ。
「少し、あっちに行ってもらって構わないだろうか」
「いや、吐かないから!」
「吐くとか吐かないとかの問題ではなく、俺のSAN値が下がる」
何でお前のSAN値が下がるんだよ。失礼な。
「しかし、お前、よく平気でいられるな。酔わなかったのか?」
何にって、そりゃあ、人にだよ。
「流石に酔わん。酔うお前がおかしい」
おかしくないだろう?
「いや、おかしいと言える。何せ、俺がそうではないからだ」
だからとしても、そうとは限らないだろうよ。
「お前というやつは・・・・・・」
な、なんだよ。
「いや、なんだ」
なんだってばよ!
「・・・・・・現実を見ないよな。と言おうとしたんだ」
そう言って、俺を哀しい目で見てきた。
おい、何だその目はよ。止めてくれよ。
「ま、それはどうでもいいが」
と、前に向き直る鳴海。
というか、どうでもよくなぞ。
そう、心の中で呟いた。
「なあ、ドーナツ、俺ん家で食べるか?」
「ああ、そうする」
まだ明るく、しかし、ほんのり橙色に染まりつつある空の下。
そんな会話が確かにあった。
◇◇◇
「出てきやしたぜ、ザークスさん」
そんなユードの声で意識が覚醒する。
いつの間にか寝ていたザークスは、両方の頬を両手で叩いて、目を覚ます。
「(いつ寝ちまったんだ?てか、この体勢・・・いつ座ったんだ?まあ、いいか)」
少し記憶が抜け落ちていたザークスだが、任務遂行には、支障がないと判断した。
ザークスは起き上がると、左に付けてある腕時計を見た。
時間は、対して経っていなかった。少ししか寝ていなかったようだ。
それを確認したザークスに声が掛かった。
「ザークスさん、お疲れですかい?」
ユードが、ザークスを見て聞いた。
「(ユードのやつ、わざと、ギリギリまで起こさなかったんだろうな)」
ザークスは、そう考えた。
だが、だからといって、何を責めるというのか。
ザークスは、ないな、と考えて、ユードの問いかけに返答した。
「いや、わからん。そんなに寝ていたか?」
時計を見て、少ししか寝ていないことを確認したザークスだが、何故か、どういうわけか、そう聞いた。
「いいや、数十分っすよ」
「すまんな。お前に任せっきりで」
「いやぁ、いいってことっすよ。
それより、少年二人が出てきたんすよ」
そう言って、指をドーナツ屋の方に向けた。
「さて、ここから、気を引き締めていくぞ」
「了解っす」
◇◇◇
はぁー。
なげっ。
歩いてどれくらい経っただろうか。ここがどこか、わからないでいた。いや、そうじゃないな。ただ、前が見えないだけなんだ。辺り一面白く染まっている──────。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
「って、何言ってんだ、お前。大丈夫か?死んでないよな?」
おい、鳴海さんよぉ。俺が、せっかく、よくわからない雰囲気を出したっていうのに・・・
「よくわからないって言ったな」
言ってないぞ。
「言ったな」
言ってないからな!
それで、だ。俺が、せっかく、よくわからない雰囲気を出したっていうのに、何故邪魔するんだ!・・・って、あ。
「確信犯」
何がでーすか?そんなん知らへんでやんすよ。
「言葉、おかしくなってんぞ」
とわ。
取り敢えず、この世界の言葉ではなさそうな言葉を言っておこう。それで気を反ら
「すことは不可能だ」
ちょ、おまっ。何台詞とってんだよ。というか、台詞一部違うし!
「どうでもいい」
よくねぇし!
─────────
─────────
─────────
とまぁ、こんな感じで、家に向かっている途中である。
何だろう、会話が続かないっていうか、ネタが尽きたっていうか。兎に角、暇である。今、何か面白いことないかなあーと、考えながら、歩いているわけだが、何一つとして、考えが浮かばない。
「歩いているだけだしな。そりゃ、思い付くわけないだろ。座ってるわけじゃないんだ」
助けて、なーるーみーどーん。
「変なあだ名つけるな。何が、どん、だ。どこの何人だよ」
えー?よくなーい?(ちょっと、ギャル風)
「キモい」
えー?なにその反応ぉー。マジうけぅー!(完全にギャル風)
「キモし!」
ぐさり、と刺さりましたよ!ほら、ここ!刺さりましたって!
「いや、知らねぇーよ」
真顔で、鳴海が、言った。
真顔だと、どう反応すりゃいいのかわからなくなるんだよな。
「おい、どこ行くんだ」
「ぐえ!」
そう言われて、襟元を捕まれる。
「首がぁぁぁ!」
お、お前!首しまるぞ!?
「止めてやったんだ。感謝しろ」
そう言った鳴海は、手を襟元から離した。
で?何だよ。どこに行くんだーとか何とか言ってたな。
「あーいや、このまま行きたいんだったら、行けばいい。その代わりと言っていいのかわからないが、ドーナツは貰っていく。お前のを」
「いや、何故!?」
「何故!?はこっちだ」
まあ、いい。
それより、どうやら俺は、曲がるところを過ぎようとしていたらしい。どんだけぼーっとしてんだよ俺。
「ふうぅー。ようやく、家につくー」
背伸びをしながら、俺はそう言った。
「おい、あそこ、あの犬がいるから気を付けろ」
ん?ああ、ここら辺に門を構えている感じがする大きな犬か。
「お前が通ると、タックルしてくるからな」
んー、まあ、大丈夫だろ。
「何でだよ?」
あいつ、ドーナツ嫌いだから。
「・・・なにそれ?」
「いやね。俺にタックルしてきてたのは、俺が使ってる洗剤の匂いが、あいつの好みのやつだったからで。まあ、変えれば問題なく解決するんだが、しかし、家にまだあるのに、買ってまで変える必要がないなということで、じゃあ、あいつの嫌いな匂いは何んだろうかと調べたら、ドーナツの匂いが嫌いだということが判明したんだ」
俺がそう説明した後、俺と鳴海との間に風が吹いた。
「・・・そ、そうか・・・」
いや、何だよ。
「あ、あ・・・。寒い」
いや、何で!?ギャグじゃないから、寒くないはずだろ!
鳴海は「あー・・・、そうだな。うん、そうだな」と一人言のように言うと(呟くと)、ぽん、と手を俺の肩に置いた。
おい、止めろよ!
なんなんだよ・・・。
「まあまあ、気にするな」
そうは言うけどさ。
「犬にタックルされないなら、いいんだ。そう、うだうだあーっと、言わないでくれ。早く帰りたい」
うだうだあー、とはしてないけど。
俺がそう言うと、まあまあ、と手をひらひらと振ってきた。
はぁ・・・。何か疲れた。
俺と鳴海は、くだらない話をしながら、帰路を歩く。途中、例の犬がいたが、なにもしてこなかった。効果出たな。良かった、と安堵した。
この時間帯になって、ちらほら帰っている学生が目につく。基本的にまだ部活をしているはずなので、部活以外で用事があった人たちだろう。俺の高校の生徒だけでなく、第二高校の生徒や中学生の顔も見られる。男女比だと、女子の方が多いかなぁ。
知り合いはいなかった。残念、ということはないけれど、知り合いがいたらいたで、久しぶりだなあ、的な感じに話したかった。
「いや、お前、友達少なかったろ。そんなに話すやついなかったはずだが」
鳴海が口を挟んできた。いや、挟んでないのだけれど。
というか、失礼だな。少なくなかったぞ。
「ほう?何人だ?」
フフ。聞いて驚け。五に
バシンッッ!!
いってぇ~!何すんだ、鳴海!ハリセンで叩くなよ。てか、どっから出したよ。
「少ねえじゃねぇか!」
え?なに、五人って少ないの?多いでしょ。
「バカ野郎。少ないわ!
はぁ・・・、お前ってやつは・・・」
何だよ、そのため息。
では、ここで一つ。駄洒落を言おうかな。
「何突然」
「バスはバスタブに入らない!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
しばしの沈黙。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ザークスさーん!?大丈夫っすか!?」
あ、どうやら、誰かがあの犬にタックルされたな。
と、思っていると、
バシンッッ!!
またか!?またなのか!?ハリセンで叩くな。痛いぞ。
「何が駄洒落だ!駄洒落ではあるが、ただのスベる一発ギャグじゃねぇか!寒いわ!」
何だと!?寒いだと!?スベっただと!?なぜうけない。なぜツボらない。
「バスがバスタブに入らないのは、当たり前だ!」
ベシンッ
ちょ、叩くな!?
俺は鳴海に、家に着くまで、駄洒落を言い聞かせようと思ったのだった。
◇◇◇
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ザークスが叫ぶ。
「ザークスさーん!?大丈夫っすか!?」
ユードがおろおろする。
今、ザークスは、ある犬にタックルされ、関節技をきめられていた。
何故、こうなったかというと。
それは、少し前のこと。
ザークスとユードは、電柱の陰から少年二人を見ていた。
まわりには誰もいなく、ザークスとユードは、こっそりと追うことができていた。
そう安堵しながら、ザークスは、双眼鏡で少年二人を見る。すると、人影ができ始めてきていた。どうやら、人が増えてきているようだった。特に学生が多く、こちらに向かってきているようだった。
「(うむ。これでは、確保できない)」
ザークスはそう思った。
確かにこの状況下では、人を一人として確保できないのにもかかわらず、少年を二人も確保するのには無理があった。
だが、この任務は、中止することはできない。してはいけなかった。故に、ザークスとユードは、任務を遂行しなければならないのだ。
しかし、どうすればいいのか、というのが二人の脳内に浮かぶ。これは、無理ゲーではないかと、そう思う二人。
「(だとしても、この任務を果たせねばならない!)」
ザークスは気合いを入れる。
兎に角、少年二人を追う他なく、こっそりと進む。
数分した頃だろうか。
ユードが声を出した。
「ザークスさん。あれ犬っすよね」
ユードは、犬がいるところを指差す。
右側の家の塀と電柱の隙間辺りに踞っている犬がいた。
ザークスはその犬を見て、
「(不細工だな)」
と、思ったとか思わなかったとか。
ザークスは前を見て、ユードは犬を見て、歩く。
ザークスは右側、ユードは左側を歩いていた。
だからなのか。はたまたそうではないのか。それはわからない。が、結果はわかっている。
ザークスが犬にタックルされた。
ザークスは、異様な声をあげ、ユードは、その声に体をびくっ、とさせた。
そして、犬は、ザークスに関節技をきめる。
「くっ・・・!いだだだだだ!この犬!どけ!っ、ユード!こいつを退かしてくれ!」
ユードは、了解っす、と言うと、犬を引き剥がそうとする。
「いでぇ!」
剥がそうとするたびに、ザークスが声をあげる。関節をきめられているため、痛いのだ。
「は、はやく・・・はやくしてくれ・・・」
犬の力は、馬鹿みたいに強い。だとしても、鍛えて筋肉男になったザークスよりも弱いはずなのだが。実際は違う。筋肉男のザークスを越える強さをもつ犬。
「早く!」
ザークスが言えるのは、ただそれだけだった。
To be continued
上手く書けません。進まない。
暇潰しにと思って書き始めたのですが、暇潰しになっていませんよ、これ。頑張っちゃってますからね。
それに、微妙なところで終わらせてしまった。
で、思ったのですが、まだヒロインが出てないんですよ。(※鶴乃はヒロインではありません。)
いつでるのでしょうか。