密かに動き出す影《壹》
ある雨の日。やっと休みだー、と思ったら天気が雨で、何か少し憂鬱である。
特に何もすることがないので此処まででいいかナー?あ、駄目?残念。
しかしまあ、課題がないのは、いいことだ。此れは非常に有難い。せっかくの休みなのに課題で疲れちゃあ、気が遠くなる。
一週間があっという間に──過ぎず、何かもう
一年間過ごした感覚があり、どっと疲れた。誰か肩揉んでくれねぇかなー?はい、いませんね。
今の時刻は、12時9分。なのだが、俺は今起きたところだ。特に用事も無いし、せっかくだからと、昼まで寝ていたわけだが。今起きたとしても何もすることが無い。かといって寝ることも出来ない。眠くないからな。なら、何をしようかと悩むのだが、しかし一向に案は出ない。
「とりあえず、着替えるか」
誰もいない空間に言う。只の一人言──自分に言い聞かせているだけだ。
着替えを済ませると俺は、下に降りた。顔は、洗わなくていいや。ということで、飯でも食うかな。
話が変わるが、俺は今、独り暮らしである。しかも一軒家に。母親と父親、姉、そして俺、という家族構成で両親、姉は三人とも健在である。親は共働きで二日前に海外出張に行った。姉の方は、「ふらふらぁ~と世界を周ってくる」とか言って昨日家を出ていった。何処まで信頼しているのか判らないが、俺一人で何でも出来ると思っているらしい。いや、実際出来るのだが。というか家事の大半を親が居てもやっていたからな。俺ってば、ちょーえらい。
簡単に飯を作る。ご飯は炊いてあるし、卵焼きとかでいいか。
俺はリビングに入ると、テレビを点けてキッチンへと向かう。いつもテレビをBGMにご飯を作っているのだ。此処で十◯を思い出すのだが、勿
論いない。
冷蔵庫から卵と昨日の夕食の残りを出す。
『昨日、午後2時半過ぎにセルリンの北部に位置するガル山の麓で4月1日から行方不明となった河桐帆乃里さん(15)が遺体となって発見されました。警察によりますと・・・────』
・・・朝から物騒だった。しかも、同じ高校生か中学3年生のやつだった。
最近、事件が多い気がする。この前は、連続殺人件があったし、幼児誘拐・殺人事件もあった。日本は平和じゃなかったのかよ。戦争無くなって一安心と思ったら、普通に国内で事件事件事件。
ご飯を作り、食べた後は──何もすることがない。ちょうどいいし、散歩でもしてくるかな。小説界で初の1人散歩イベントじゃね?
いつも俺は、こんな感じである。よい子は真似するなよ。しても止めないからな。止める理由もないからな。
テレビを消して部屋に行く。
・・・・・・あ?
入った途端、放置していたスマホが急に鳴り出した。何処かにカメラでも有るのかい?こえーよ。
相手は、鳴海だった。
「もしもし、何だよ」
『別に何もないんだが、暇でな。いや、暇ではないのだが。そして用がある』
どっちだよ。矛盾してるぞ。
『というわけで、俺ん家に来い。んじゃぁな』
ちょいちょい、待てよ。きるなよ。きっちゃったよ。話勝手に進めやがって。まあ、いいけど。
文句を言いながら、支度を済ませると、俺は鳴海の家に向かった。
俺の家から鳴海の家までは、1分。いや、数秒で着く。隣だから。なら、鳴海が来ればいいのではないかと思うのだが、其処まで気にはしない。
「邪魔するぞー」
チャイムやらノックやらも無しで入り、勝手にあがって、鳴海の部屋に行く。
鳴海の家族は、父親、母親の3人である。どう
やら今日はいないらしい。
「来てやったぞ」
部屋のドアを開けて入る。中は───暗かった。カーテンが閉めきられ、電気もついていない。
「おい、鳴海。呼ばれたから来たんだが、来なくてよかったんじゃね?と思っている俺ですが。ギャルゲーしていないで俺と会話しろ」
暗い部屋の片隅にて鳴海なる生物がパソコンをいじっていた。まったく、俺、来なくてよかったよな、此れ。ほんとに。
「俺、ギャルゲーなんかしてないぞ」
してないのかよ!?
「お前じゃないからな」
そうかよ。というか、俺もしねぇよ。
「それよか、何んだよ、俺を呼び出して」
とりあえず鳴海の前に座る。正確には、鳴海の前に置かれているパソコンの後ろにだが。
「ちょっと待て。鶴乃も来る」
は?彼奴も来るのか。・・・と待てえい。いつも誘うとき断るじゃねぇかよ。
「まず、前提が違うのだ。お前は、俺が呼んだと思っているだろう?」
ああ。そうだな。
「しかし違うのだ。鶴乃が俺を呼び、俺がお前を呼んだのだ」
「面倒な方法で俺を呼んだんだな」
鶴乃自ら俺を呼べってんだ。
しかし、何の用なのだろうか。
「わからん。ただ、重要なことではないことは確かだろう」
同意見だね。呼び出されるときは、面倒事しか持ち込まない。俺等にとっては重要なことではないが、彼女にとっては、重要なことであって。俺等は損を得て、鶴乃は得を得るという状況なのだ。
「まったく、あいつときたら・・・」
鳴海から溜息が溢れる。
見ると、スマホを持っていた。
「どうした」
「ん?いや、な。鶴乃からなんだが、少し遅れるそうだ。自分で呼び出しておいて、なんだこれは」
まったくだ。
なんだかんだで時間が過ぎ、結局鶴乃は来なかった。何故来なかったのか、俺達は知るよしもなく、電話をして聞こうにも通じなかった。
〇〇〇
その頃、日本の北にある、とある山中にて。一人の少女がいた。辺りは暗く、電気の一つもない。かろうじてうっすらと見るが、見える範囲は狭い。月は雲に隠れ、役にたたなかった。
少女は、何をするわけでもなくそこに立っているだけだった。
時はどれくらいたったのだろうか。少女の後ろに一つの影が現れた。暗いため、誰なのか不明である。だというのに少女は、影の名前を言った。
「遅かったわね、バーテル。それに指定場所悪いわ。暗くて見えないもの」
話の内容からすると、少女と影の二人は知り合いなのだろう。
「ライトを点ければよいでしょう?そしてなにより、この場所を指定されたのは貴女様ではありませんか」
影は、凛々しい男の声で応えた。
「あら、そうだったかしら?まあ、いいわ。それより大事な話をしなくてはならないわ。敵が近くにいるかもしれないから、手っ取り早く済ませちゃいましょ」
「了解いたしました。それでは、すぐそこに結界を張っておきましたのでそこで」
「あら、準備がいいわね。それじゃ、いきましょう」
そう言って少女は、歩き出した。