拝火教(ゾロアスター)・太極
あまり筆がすすまず、よくわからなくなりました
□西暦2037年 ???《拝火教・太極》円卓会議
「……これは、どういうことだ?」
そんな声が、“大堂境理”の館内に響いた。
“大堂境理”は、拝火教の《太極(六大魔者のこと)》(六大魔者とは、六人の“魔の英雄”とも言えるべき存在のこと)が集まる会議室のようなところである。正確には、そいつらの基地とでも言おか。どこにあるのか知れず、ただ存在しているもの。施設は充実しているが、その六人以外は使用していない。そもそも、できない。
そんな“大堂境理”内にある一室に、大きな円卓を囲んで座っている六人の男女がいた。
順に、
【遊能者】アメーリ・パーソン(女)
【極偽者】ゲーリュット・シャーマレット(男)
【血命者】ムスリム・エキシビドル(男)
【形締者】マニプ・リーレン(女)
【界滅者】ベニマロイド・ムネキス(男)
【智炎者】ナオ・スターリンクス(不明)
彼らは、異名を持つ魔術師である。
一人は、遊びながら殺す者。
一人は、偽物を作り、極限までに惑わし殺す者。
一人は、血を使い殺す者。
一人は、人形を、相手を操り殺す者。
一人は、そこを壊し殺す者。
一人は、情報を以て殺す者。
彼らは、拝火教での最狂の魔術師。
この六人には、謎が多い。
異名の意味は、上記の通りである。故に謎なのだ。
それぞれ、違った属性の魔術を得意とするが、しかしそれは、異名である魔術なのだ。だから、彼らの異名の属性は存在しない。月属性、火属性、水属性、木属性、金属性、土属性、日属性、天属性、闇属性があるが、どの属性にも当てはまらない。
しかし、一つだけあるのだ。誰もわからぬであろうもの。存在がない故に異能力として存在するもの。
それは、闇属性。だが、その闇属性は上記した闇属性ではなく、第二の闇属性のことだ。正しくは、闇属性ではなく、『闇に葬られた属性』である。
葬られたというのは、使われなくなったということである。
闇に葬られた属性のほうが無属性よりも使える魔術は少ないが、一つ一つの魔術が可笑しいレベルなのだ。それ故に使われなくなったのであろう。
闇に葬られた属性は、基本的に、直接の攻撃魔術ではない。無属性とは違い、戦闘に役立つか否かの魔術なので、あまりすごいとは言えない。
無属性は、適合者があまりいないが、物を引き寄せる【アポーツ】や【瞬間移動】などの魔術があり、使いどころを間違えなければ、戦闘に役立つというものばかりだ。
しかし、闇に葬られた属性の方が、強い。なぜかと言えば、他の属性にはないものを秘めているからだ。無属性に人形を操る魔術があるが、闇に葬られた属性にも同じような魔術が存在する。そして、その魔術は、無属性の魔術の強化版であり、その魔術の劣化版が無属性魔術である。
故に考えれば、無属性を持つものがあまりいないのにその強化版とも言える闇に葬られた属性なんぞ持っている人はいない、ということだ。
厳密に言えば、少し違う。
他の属性は、その人の体質などによって属性があるかないかが既に決まっているが、闇に葬られた属性は、属性そのもの、魔術そのものが使用者を選び、適合者にする。
つまりは、闇に葬られた属性には、意識というものがあり、自分で、“パートナー”を選んでいるということだ。
「……これは、どういうことだ?」
一人の男──ベニマロイド・ムネキスは、一枚の白い紙を両手で持ち、見ていた。
その紙には、ただ一文のみ書かれていた。
〝任務失敗〟
ダンッ
と、ベニマロイドは、円卓を紙を巻き込み右手で殴った。クシャ、と紙がくしゃくしゃになる音が聞こえた。
「そうカッカとなるでない、ベニマロイドよ。ま、そうなるのもわからぬわけではない。あの【不視の天手】アーミスト・ウェンベルがミスをしたとは、意外である」
白と黄色の仮面着けた男──ムスリムが、腕を胸の前で組ながら、フムフムと唸った。
アーミスト・ウェンベルは、無敗で有名な魔術師である。無敗というのは、文字通り、負けたことがない。それは、ターゲットに逃げられたこともなかったということだ。
それに、
「【法の書】を持ち出していたですのよ?」
「【法の書】であるか。よく、盗れたものであるな。これは、才能だけではあるまいて」
「ははっ!オレでも無理そうなことを、やってのけたぁ?馬鹿にしやかって!オレも盗りにいってこっなぁ!!」
「落ち着け、ベニマロイド。誰も馬鹿にしてないだろ。それはそうと、なんだ。【法の書】は確かに強力だが、使い方によっては、弱い。【法の書】をもっと使いこなせれば、行けたかもしれないが」
任務を完璧にこなす。アメーリは、そんな真面目そうな社会人みたいな印象を持つエリートだった。
召喚術師のアメーリは、直接の戦闘はなるべく避けていた。
だが、【法の書】を手に入れてしまったがために、調子にのったのだろう──自分は、強いと過信してしまい、今まで避けてきた近接戦闘を行ってしまった。
相手が三流魔術師なはらば、問題はなかっただろう。実際、天河を圧倒していた。だからだ。相手が天河だったから、負けたのだ。
「情報不足」
筋肉ムキムキの男──ゲーリュットほ、ぼそりと呟いた。
天河の情報は、そんなになかった。まだ調べていた最中だったのもあるが、肝心な強さがわからなかったのだ。
判断を間違えたのだ。いつもならば、そんな間違えなど問題もしないレベルだった。逃がすことなく、どんなことが起きたとしても、果たした。
しかし今回は、逃がしてしまった。そして、召喚者である情報体も負けた。
ある人物が乱入してきたせいで。
「まあ、それは単なる言い訳でしかないのですのよ?」
アメーリは、右手に持った扇子を広げ、口元に当てながらニヤリと口を歪めた。
「そうは言うが……問題はそこではないと思うが」
ゲーリュットは、腕を組み、唸る。
「それは、どういうことですのよ」
「問題は……その、乱入者だ」
「……うむ。そのようであるな。あの【不視の天手】が情報体を下がらせるほどであるからな。二度失敗したことが問題なのではないのである。一度目に逃がしてしまったのは、然程問題はないが……二度目に一番弟子である情報体を下がらせるまでの実力を持ったやつが乱入してきたということが、問題である」
「つまりは、その乱入者が脅威になると言いたいのですのよ?」
「なぁるほどなぁ、だが、だとしても、アーミストの野郎には罰が必要じゃねぇか?」
「厳しいな。だが、そう言うのも無理はないか。計画が台無しになったからな」
「ですわね。その乱入者とは、どのような方なのですのよ?」
「それがわからないのである。【不視の天手】から聞いた話では、モザイクがかかったようにわからなかったと、情報体からきいたと言っていたのである」
「モザイクだとぉ?はっ、そいつぁ、ほんとかねぇ」
「そうですのよ?魔術では、姿を消すことはできても、モザイクがかかったように認識を阻害することはできぬことよ?」
魔術は、万能ではない。魔術師ではない一般人からしてみれば、万能と見えるが、それは極一部にすぎないのだ。
魔術を作り出すのは、簡単と言えば簡単だが、失敗する方が多い。なにより、現在魔術師が使っている魔術は昔に作られたものしかなく、作ろうとしても、思い通りの魔術が完成するかは、運でしかない。
そして、固有魔術はそれを覆すものであり、それを持っていたアーミストが敗れるほどの力を持った魔術師がいるという事実は、非常にあってはならないことであった。
「アーミストの固有魔術はなんと言ったか」
「あれじゃなかったかしら?【生命召喚】」
「生命体を、生きているものならば何でも召喚できる魔術、だったけか?」
召喚魔術は、触媒を必要とし、触媒となった元の生物だけが召喚されるものを指す。触媒がなければできないので地球外生命体など無理である。
しかし、アーミストがつくった召喚魔術は、自分が召喚したい生物を触媒なしで召喚できるというもの。つまりは、
「召喚生物によって、世界を滅ぼすこともできる、ということであるな」
「たく、そんな魔術師さんが、のこのこと負けてきたんだから、笑いもんだぜ。同盟なんぞ結ばない方がよかっただろ」
「たが、固有魔術が戦力となるからと、お前も言っていただろう」
「あ、いや、ま、そうだが!何か文句でもあんのか!」
「落ち着くのである。何にせよ、どうターゲットを殺すか考えなければである」
「賛成だ」
「ちっ、わーったよ!」
「そうですわね。わかりましたですのよ」
ムスリムの言葉に賛同する三人。
……三人である。
計四人。
「……おい、何を寝ているのですの!?」
「何をしてやがる、お前!」
ふんがっ
と。マニプ・リーレンが座りながら、寝ていた。
コクコクと、首が動く。完全にねていた。
「起こさない方がいいと思うのである。後が怖い」
「あら、弱気ですのよね?」
「そう言われても仕方がないのである。男は女に勝てぬのである」
「戦闘能力でいえば、アナタの方が上でなくて?」
「それはそれである。それより、ナオはどうであるか」
「あー、ダメだこりゃ。脱け殻だぜ。魂が肉体に入ってねぇ」
ナオの炎は、魂に近いものだ。魂は、炎のように、時に顕れ、時に消える。しかし、ナオ以外が使う炎は、そうはいかない。なぜならば、智恵がないからだ。
知恵と智恵は、ちがうものだ。知恵は、ただの情報に過ぎず、それ以上でも以下でもない。故に実現できない。対して、智恵は、知恵で受け取った情報を実現にしてしまうのだ。
だからナオは、魂という炎を智恵によって肉体の外へ出せたのだ。
「マァ、こればかりはしょうがねぇんじゃねぇか。別に、全員出ろってことじゃぁねぇわけだしよ」
ベニマロイドは、そう言って頭をかいた。
その言葉に意外そうな顔をするアメーリたち三人。
「アナタ、病院に行かれた方がよろしくなくて?」
「なんでだよ。変なこと言ったか?」
ベニマロイドは、自分が言ったことのどこが変だったかがわからないようだった。
普段のベニマロイドは、相手に責めはするが、手を貸すことは絶対にしないはずなのだ。故にさっきの言葉は、意外だったのだ。
いや、ナオにだけ優しいのかもしれない。それはただの推測でしかないが。
「いや、それならそれでいいのであるがな」
「成長か?」
うんうんと、唸る二人。
「え?なに、どういうこったぁ?」
なにを言っているのかわからないベニマロイドは、そう言った。
最後無理矢理