ドーナツ、迷子、そして吸血鬼
・・・久しぶりの投稿、です。
◇◇◇
「ただいまー」
誰もいない家の中に向かってそう言った俺は、鳴海とともに、リビングへ向かった。
荷物をダイニングテーブルに置く。
キッチンで手を洗い、キッチンの奥にあるドアを開ける。
そこには、お菓子やらの食べ物があった。
俺はその中に入ると、手前側に重ねてある段ボールの山から、一番下にある段ボールを引きずり出し、漁る。その段ボールの中身は、一リットルのペットボトルである。
そこから、無糖の紅茶を出し、元あったように戻して外に出る。
キッチンのシンクの上にある食器棚からグラスを二つ取り出し、テレビがある居間のテーブルに紅茶とグラス二つを置く。
辺りを見渡すと、どこにも鳴海の姿がなかった。
ソファーに座り、グラスに紅茶を注いでいると、がちゃり、と音がした。
音がした方を見ると、キッチン脇のドアが開き、鳴海が入ってきた。どうやら、トイレに行っていたようだ。
鳴海は、ダイニングテーブルの方へ行き、俺が置いたドーナツが入った紙袋を持ち、此方に来た。
鳴海は俺の向かい側に座り、紙袋からがさごそとドーナツが入っている薄ピンクの箱を取り出した。
箱を開けてから俺を見て鳴海が一言。
「皿」
この場合、一言、と言うよりかは、一文字、と言った方が正しいのかもしれない。
俺は、皿を取りに行くため、ソファーから立ち、キッチンへと向かう。
シンクの頭上(?)にある食器棚から、二皿の四角い平らな皿を出し、戻る。
ソファーに座り、皿を置く。ドーナツを箱から取り出し、俺のと鳴海のとで分け、皿にそれぞれ三つずつ置く。
鳴海は、ゴールデンチョコレートとチョコのポンデとチョコレートスティック。俺は、抹茶のオールドファッションドーナツと苺のクルーラーと普通のトーラスドーナツ。
どれにしようかと悩んだが、その結果、このようになった。
しかし、どれもうまそうだ。
さてさて、どれからにしようかと考えながら、グラスを手に取ろうと、前に目をやると、鳴海がもう食べていた。
いつの間にっ!。
・・・ふむ。ゴールデンからいくのかね。
前から思っていたのだが、鳴海、ゴールデン好きだよね。
さて、と。俺も食べるか。まずは、トーラスドーナツから。
◇◇◇
「くそっ!見失っちまった!」
ザークスとユードは、住宅街を走っていた。
「どこに行ったんすかね・・・」
二人は、少年二人を見失ってしまっていたのだ。
見失うはめになった原因は、勿論、あの犬である。ザークスに関節技をかけてきたあの犬を退かすのに約五分を費やし、そのあと少年二人を追いかけようとしたが、犬が追いかけて来たため、それを追い払うのに約五分を費やした。計十分ほど時間を費やしてしまった為、見失ってしまったのだ。
「(くっ・・・・・・。これだけは、やりたくなかったが・・・・・・)」
少年二人はもう、家に着いているだろう。彼ら
の家は、ここからそう遠くない位置にある。あの人から、家の住所を聞いていたのが幸いだった。ザークスは、あれをしようとしていた。
「(・・・・・・、しょうがないからな。そうするしかない)」
彼は、少年二人の家に侵入し、力ずくでも捕らえようとしているのだ。
「(抵抗されたら、だが。スムーズに出来ればいいが・・・・・・)」
ザークスは、走りながらそう思う。
「ユード、家に行くぞ」
「家っすか?誰のっすか?」
「誰の家だと思ってんだよ」
「幼女のっす?」
「何故疑問形だ!しかも、幼女とは・・・・・・!。お前は馬鹿か!?あ、いや、馬鹿だ!」
「うっす!馬鹿っす!」
「うお・・・・・・!自分で言いやがった。
て、そうじゃねぇ!ターゲットのだ!」
「え?何がっすか?」
「素で忘れていやがる!
ターゲットの家に行くぞ!そこで捕まえる」
「了解っす!」
ザークスたちは、さらに走るスピードを上げた。そう、人とは思えないほどに。
「「迅流の神、脚は此処に有り。我、魔の力を以て音と並び立つ。──【ソニック】」」
二人は音速と同等の速度で駆ける。
白魔術【ソニック】。対象を音速と同等までに速くする魔術である。
彼らの姿は、歩いている人間には見えない。ただ、風が吹いているようにしか感じないのだ。
【ソニック】は、魔力を著しく消費するため、並みの魔術師でも長時間の発動はできない。しかし、【ソニック】或いは、【ソニック】を含む【身体強化】の魔術に対して適性がある魔術師の場合は、基本的に長時間の発動ができる。
【身体強化】の魔術は色々あり、速度を強化する【ソニック】、筋力を強化する【ブースト】、防御力を強化する【キャッスルトール】等が一般的で、聴力を強化する【ヒィアリィング】や視力を強化する【サイト】等もある。探せば、結構な数があるだ。
その中で難しさ上位にザークスたちが使っている【ソニック】がある。難しさの理由は、筋力に頼らず、魔術のみで速度を上げるという問題があるからだ。
筋肉を使わないとなると、魔力を他の【身体強化】の魔術に使う魔力よりも強く練り合わせ、体を支えなければならない。しかも、筋肉に加わるのは体の重さだけではなく、蹴るという瞬発的な力もある。それが行えるようにしなければならず、足全体に魔力を行き渡らせるように、魔力を練らなくてはならないのだ。
流石に魔術だけに頼ることは不可能で、必ずしも少しの筋力を使うが、それは、硝酸イオン(マイナスイオン)の式量を求めるときに、一にもみたず、計算に影響が出ないほどの量しかないマイナスイオンのようなものなので──説明は行ったものの、結局のところ──魔術に頼るしかないのだ。
その魔術を何故、ザークスとユードが使えるかというと、それはまたの機会にということで。(いや、ただ単に設定を考えていないだけ──────ちょ、今のなし!)
兎も角、そういうことである。
「ユード!次の角を左だ!」
「了解っす!」
ただの人間からしてみれば、何かがものすごい速度で通っていったように感じるというよりかは、突風がそこ一部だけ吹いているように感じているだろう──が、ザークスたちからしてみれば、自分達の周りが風のように見えている。
どちらも、その原因として、目の──いや、脳への情報伝達速度が遅いため、認識力に支障がでているというのが挙げられる。
単に存在し得ない能力だから、というわけではない。現に、既に、この世界にあるのだから、そういった゛物理法則を捻じ曲げた゛──゛歪ませた゛という事実にはならない。
いつからか──いや、当に、と言ってしまおう。当に、この世界は、それが可能な世界に改変されてしまっているのだから。
◇◇◇
ドーナツを食べ終わった俺らは、週末課題をしていた。
あるときとないときがあるが、面倒なことに今回はあった。
高校に入る前は、課題面倒臭そうだなと思っていたが、しかし実際、思ったより少なかった。プリント一枚とかがほとんどでたまにワークやらなんやらを一ページから数ページ。本校が総合科だからなのだろうか──一年はそういった課題はあるが、二年からは、ないという。二年から選択がメインになるからか。
今回は、生物基礎の課題が出た。ワークを二ページしろという非常に簡単なものだ。
まあ、俺の場合、授業中にちょくちょくやっていたから、そんなに問題数はない。鳴海は、全問しなければならないようだ。そこは心配していないけど。
課題はものの十分程度で終わり、じゃぁ、何しようか、という話になった。
というのも、家には、ゲーム機がないのだ。いや、あるにはあるが、俺がするゲームといえば、数名でしたりするテレビゲームとかはなく、一人でするものばかりなのだ。
鳴海が家に戻ってQSQとかのゲーム機を持ってくれば、通信できるのだが、であるならば、鳴海の家に行けばいいではないかということになり、つまり、俺が言いたいことは、今は無理だということだ。
「まぁ、別に遊びたいってわけではないが」
鳴海が呟く。その言葉を俺は紡ぐ。
「・・・暇だよなぁ」
そう呟いて、ぼーっとする。
あー、ねみー。
そう思い、手と足をソファーに投げ出し、寝転ぶ。
ふう、今日もつ・・・か、れ・・・──────。
────────────
─────────
──────
───
─
「──────はっ」
って、あれ?俺寝てたのか?
体を起こし、背伸びをする。
「おう、起きたか」
声がした方を向くとそこには、首にタオルをかけ、上半身裸になっている鳴海が立っていた。
「ああ、ちょっと疲れてたみたいだ。と、そんなことはどうでもいい。なにしてんだお前」
「なに、とは?」
「いや、惚けんな。何で上半身裸になってんだ」
俺は、ジト目で見る。
「ん?ああ、それのことか。なーに、汗をかいたんでな」
はあ?汗かいたってんで上半身裸になったってのか?ってか、何故汗をかいたんだ。
「いんや、風呂に入ってきたんだ。借りたぞ、お前ん家の風呂」
「え、なに、風呂入ったのか?」
「だから、そうだが」
まあ、いいや。そういえば、俺、どんくらい寝てたんだ?時計は・・・って、あれ?なくね?
「なあ、鳴海。時計がないんだが・・・知らねぇか?と言っても、どっかにやったのは俺ぐらいなもんだけど」
そう鳴海に聞く。聞いたとしても知らないと言うだろうが、まあいい。一応ということで。
「時計?もとからなかったと思うが」
そんなことはないはずだが。
「いや、確かになかった。ここに入ったときに思ったんだ。時計がないって。でもてっきり知ってると思ってな。壊れたとかじゃないかと結論付けてしまったんだ」
じゃあ、ほんとになかったというのか?しかし、昨日はあったぞ。
「今日の朝はあったか?」
鳴海が腕を組ながら聞いてきた。
朝、か・・・。朝、朝、朝・・・。朝、俺は時計を見たか?見たよな?しかし、その記憶は、ない。だが、待て。見てないとは言い切れない。朝に時計を見ないでどうする。見なければ学校に遅刻してしまう。するとも限らないけど、現に遅刻しなかった。
「・・・んぅー。わからん」
「は?わからん?」
鳴海が呆けたように聞いてきた。
「ああ、わからない。朝に時計があったかが」
「でもなかったとしたら、お前、遅刻してた、或いは、遅刻しそうになっていただろ。前に時計を壊したときに時計がなくて遅刻したじゃないか。つまり、今日の朝はあったんじゃないか?」
そうなんだけど。今の段階じゃ、なんとも言えない。けれど、
「けれど、なーんか、引っ掛かるっていうか、なんというか。兎に角、頭の隅っこに“なにかが”がある気がするんだ」
なにそれ?と鳴海は、さっぱりだと言うかのように言った。それも当然の反応である。自分自身すらわからないことを他の人が知る余地もなのだから。
「なあ、スマホ今あるか」
そういえば、と思い、鳴海に聞く。勿論、時間を知るためだ。俺のは部屋にある。今日学校に持っていくのを忘れたからだ。
「あるぞ。ほれ」
鳴海は、ズボンの左ポケットに手を突っ込み、スマホを此方に投げてきた。・・・落としたらどうするつもりだったんだ。
電源を入れ、時間を見る。十八時四十二分、か。
「鳴海、ほれ」
スマホを投げ返す。
「わっと」
鳴海がスマホを落としそうになったが、壊れることにはならなかった。
「そういえばさ。お前、何で帰らなかったんだ?自分の家の風呂に入ればよかっただろ?」
「おー、そうだった。霞、今日泊まらせてくれ」
いや、何で。
「親がな、急な用事で青森に行かないといけなくなってな」
「え?なに、両親?」
「父母共々、な。それで、家に一人ってのは何かなーと思い、ここで泊まらせてくれないかと」
何かなー、の辺りが気になるが、まぁいいか。
「いいけど、何日?」
「いいのか!えっとな、今日と土日だ」
何日泊まろうが、迷惑にはならないし、聞く必要もないけど。
「よし。これで飯を作らなくてすむ」
・・・だと思った。いや、いいんだけど。
「霞!久しぶりにお前の飯が食いたい!」
こっちが本音か?
「ああ、食わせてやるよ。俺の飯を」
んー。何言ってんだ、俺。
そんなことを思っていた俺は、同時に、このあとに何かが起こりそうな気配を感じていた。それが果たして本当なのか、気のせいなのか。
「できれば、鳴海を巻き込みたくはないが・・・」
そう呟く。
「お?何か言ったか?」
・・・どれだけ耳いいんだ。
「あー、いや。今夜は、ハンバーグにしようかなと」
「ハンバーグだと!?俺の好物を出してくれるのか!?」
そこまでは考えてなかったが・・・鳴海、ハンバーグ好きだったっけか。
「土日の晩ごはんもお前好物にしてやるよ。考えとけ」
さて、飯作り始めるか。
キッチンに向かい、キッチンに置いてある椅子にかけてあるエプロンを着る。
居間では、鳴海が喜んで・・・いるのか、あれ。吠えている、と言った方が近いな。
「はて、挽肉あったっけ?」
そんなことを呟いて、水道の蛇口を捻った。
◇◇◇
「(迷ったあああぁぁぁぁ!!)」
ザークスは叫んだ。心の中で。
ザークスたちは、ターゲットを追っていたのだが・・・いつの間にかどことも知れぬ場所へと辿り着いていた。ターゲットの家に向かおうにも、どこだかわからなければ行けない。
ちなみに、ザークスたちは、ターゲットの家から南の方角に三キロ程進んだ地点──住宅街からそれた商店街にいた。勿論、そんなことはザークスたちは知らない。ここが住宅街ではなく、商店街であるということしかわからないのだ。
「何で迷っちまったんすかね・・・」
ユードは、両手をだらりとぶらぶらさせていた。
「ほんとだ、こんちくしょう!」
◇◇◇
霞は晩ごはんを作り、鳴海は服を着、ザークスとユードは迷子になっている──そんなことが起きている時間帯。
「・・・何をしておるかと思えば、狙われておったとは・・・」
霞の家からさほど遠くない位置にあるとあるマンションの屋上。そこには、フェンスに寄りかかっている一人の可愛らしい少女──いや、これは幼女と言った方がいいだろう──がいた。
黒色と赤色のゴスロリを着、左手にはこれまた同じく黒色と赤色をした傘を持っていた。
「主様は気が緩みすぎじゃの」
風が後ろから吹き、少女の長い髪の毛がふわりと舞う。
夕焼けの背景と少女は、絵にしか見えない。
「さて、少しばかり手助けをしてやろうかの」
少女は歩き出した。
カツンカツン、とヒールの音を鳴らしながら、フェンスに沿って左に歩く。数歩進んだところで、軽くジャンプ。着地の際、トン、と音が鳴る。そして──トーン、と音がした。その瞬間、少女はフェンスの上に立っていた。ジャンプをしたのだ。
風で髪が靡く。
「吸血鬼を侮ってもらってはこまるぞ。・・・と言っても、だれもいないのじゃが」
少女は目を見開いた。
「(ふむ。あやつらか。カカッ。現代の魔術師かの。魔力所有量は・・・思ったよりもありそうじゃな。とは言っても、攻撃系はあまり使えないじゃろうな。至って平凡な三流魔術師か」
少女の目の先には、男二人が走っていた。
「・・・。どこに向かっておるのじゃ、あやつらは。むくが手を出さんとも問題ないじゃろう。絶賛迷子中じゃし。じゃが、念のため、結界を張っておくかの・・・」
少女は、面倒臭そうに呟くと、左手を前に突き出し、掌を広げた。
「──D Zalre」
そう少女が呟いた。その瞬間────変化が起こらなかった。
いや違う。起きたからこそ変化がわからないのだ。
「これでよいじゃろ。人払いの結界は正常。外部からの干渉はない」
少女は、息を吐いた。
「ちと、まだ肌寒いのう。これじゃから外は嫌なのじゃ」
白い息は出ないが、しかし、最近の気温は、暖かいとは言えない。ものすごく寒い、まではいかずとも、鳥肌がたつくらいの寒さはある。
そんな中をゴスロリだけでいるのだから、寒いのは当然と言えた。
「さぁて、主様は気付いてくれるかのう?」
そう誰に言うでもなく呟くと、前に身を傾け──落ちた。
「なあ?我が主様よ?」
少女の身が空中へ放り出される寸前、そんな台詞が聞こえた。
◇◇◇
「はてさて、どちらへ転ぶのやら」
同時刻、とある部屋──寝室にて。
陸山碧は、ベッドに腰掛けながら、そう言呟いた。
◇◇◇
さらに同時刻。
そこは、薄暗い部屋だった。広い会議室のようなところで、しかし辺りには、机、椅子などがなかった。
そんな部屋に一人の男が立っていた。そして、その男の前には、横並びで長方形の薄い板のようなものが浮かんでいた。数は五つ。色は黒だが、部屋の暗さの黒色とは違っているため、ハッキリとはしていないが見える。
「そろそろですな」
どこからか男の声がした。この部屋にいる男ではなく、長方形の薄い板からの声だ。
「・・・は。現在、目標は南東を歩行中。周りには結界反応が」
立っている男が言った。
「何の結界だ」板からの男の声。
「・・・申し訳ございません。只今、解析中です」
「規模は」板からの男の声。
「魔術師を中心に半径五メートルです」
「ふむ。では、その周りで何か不審な人物は確認できたか」板からの男2の声。
「いえ、特には」
そうか、と男2が言う。
「・・・別途でお願いした二人の保護の現状は、こちらにも連絡は来ていますが・・・未だ達成していないとのこと。そちらに情報はありますか?」
と、先程から聞こえてきていた男の声ではなく、丁寧に喋る女の声が板から発された。
「はい。どうやら、犬に間接技をきめられたりしたとかで、見失ったと。それと、迷子中とのことです」
「そうですか」と女。
「長、どうするんすか。そろそろとか言ってたけどよ。相手は、【ブラック・テンペスト】をもろに受けたはずなのに生きていやがるんですぜ?」と男3。
「問題ない。わかっていたことだ」と長らしき男。
「ならいいんすけどね」
「では、会議は終わる。他に何かある者はいるか」
長らしき男は、長らしくまとめる。
「ない」
「なし」
「ありません」
「ないっす」
「ございません」
「よし。──解散」
その一言が終わると、部屋が明るくなった。そして、さっきまであった長方形の薄い板がなくなっていた。
一人になった男は(さっきからこの部屋には一人しかいなかったが)、踵を返し、トコトコと部屋を出ていった。
無理矢理終わらせました!
やっと吸血鬼ちゃんが出てきましたよ。名前は──あります。ちゃんとあります。次出てくるかな?・・・まだわからず。
そろそろ、戦闘に入りたいところです。