プロローグ
「では、そろそろ出棺の時間とさせていただきます。」
中年男性が告げる。彼の前には14歳くらいの可憐な少女が錦の布団に包まれ、棺の中に横たわっていた。
「あと少しだけ待ってくれ!!棺の中に入れたいものがある。」
彼女の父親が叫んだ。彼は持っていた箱から石でできたベルト状のものを取り出した。その中心部には赤い宝石が埋め込まれている。
「お前さん、そのきっかいなものはなんだい。」と、父親の傍らにいた母親が怪訝そうな顔で尋ねた。
「これはな、南蛮からの渡来品で遠い異国のリントという国で亡者の棺に入れるものだそうだ。」
「そんなものどこで?」
「実はな、通夜の時に来てくだすった甲斐屋さんが香典と一緒に置いてったんだ。」
「ずいぶん綺麗なものだけど、不気味だし、故人とはなんの関係もない品だから、あんたが棺の中に入れたいというのはがてんがいかないよ。」
「これはな、そのリントの言い伝えでは死者を甦えらせる力があるらしい。」
「あんた、良子が死んで悲しいのはわかるけど、気がおかしくなってるよ。最近では火葬が当たり前なのに土葬にするって言い出して、今度はまがまがしい石まで持ち出して。そんなことしても良子は戻ってこないよ。」
「大切な一人娘が死んでおかしくならない親がどこにいる!なぁ、かえってこないのはわかっているがせめてもあがきだと思ってわかってくれ!」
父親はそういうと、ベルト状のものを娘の遺体の腰のあたりにはめた。
「今度生まれる時は、自由に絵が描ける世に生まれてこいよ!」
それから蓋が閉められ、棺は何処かへと運ばれていった。