ゴブリン退治編
この物語は言うなれば汎用性が凄い高い☆3の主人公が地味な活躍をする物語です。
チートはちょいちょい出る予定ですが俺TUEE!メインで見たい方は回れ右でお願いします。
よく言われることだが「冒険者」と言うものは何か。
華やかで、血生臭く、楽しいが、苦しく、敬われ、嫌悪される。
間違ってはいない。
力試しで、名声欲しさに、冒険をするため、銅貨一枚を持って用紙に名前を書きさえすれば、例え痩せ細った奴隷であってもでっぷり肥えた貴族であっても望む者全てに扉は開かれるのだから。
故に今日とて扉は開かれる。
と言っても今回のそれには物理的にが付いた。
時は昼前、太陽がすっかり昇り、旅人や町人が商人達との熱い駆け引きで盛り上がる街中でのこと。
「冒険者ギルド」と看板が付けられた両開きの扉が春の陽気で膨張したためかギギィと軋みながら開かれ、男が入って来た。
外の陽光は目が痛む程強く、中からではシルエットしか分からなかった容貌が室内に入ったことで明らかになる。
短めに刈られた黒髪にそう起伏の多くない顔、何かに切り裂かれたかのような右目の傷以外はごく平凡な東洋顔の男と言って差し支えない。
だが、身に付けられた要所を守る装備の数々、素人が見て分かる程に鍛えられた肉体は誰が見ても決して彼を卑下しないことだろう。
彼の名はエースと言った。
ここ、辺境の街ネマシーにて最強の戦士であり、階位A-の冒険者。
それが彼だ。
そしてブーツをカツンと、鎧の下に着た鎖帷子をチャリンと鳴らしながら子気味良いリズムで入るやいなや受付へ一直線。
卓上に置かれた備え付けのベルを鳴らすこと数秒で現れた受付嬢へと首に掛けていたプレートを渡した。
すると受付嬢の口が素早く動き、手に握る十字架に力を込めると目から光が放たれる。
それは聖職者が使う奇跡『判定』が使われ、物事の真偽を確かめる力が彼女に宿った証拠であった。
「はい、確認しました。おはようございますエースさん、指名依頼をお受けになりますか?」
本物か否かの確認が完了し営業スマイルへ移行する受付嬢とは対照的にエースは固い顔で一言「ああ」で返す。
冒険者が依頼を引き受けるのは常識だ。
そも、冒険者ギルドは斡旋所に買取所や酒場を加えた所謂複合施設である。
依頼が張り出される早朝以外に来るものは大抵右手の買取所で動物や魔物の素材の売買をしに来たか反対の方へ設けられた酒場で飲んだくれるか。
それか難易度のそう高くない依頼を受ける必要のない高ランクの者くらいだろう。
ある程度名の売れた高位ランク冒険者に多く発注される指名依頼を受けるのに相応しい。
今日の相手や陣形を話し合うまだ冒険へと出かけていない一団が見つめ、またエースが何を受けるのか酒代を賭けながらチビチビ酒を進ませる飲んだくれの非番冒険者。
「あの人、高位冒険者だよね」「うん、しかも金の識別板だからAランクだよ」「へぇー」
「一体何を受けるんだろな?」「俺は職持ちのオーガと見た」「おっ、じゃ俺は山賊退治」
そう言った野次馬達の声が彼の耳にも入るがそれと言って気にした様子もない。
エース程の冒険者ならば要人の護衛だろうか、それとも村を脅かす魔物の討伐だろうか、それとも危険地帯の薬草採取?少なくとも常人とは違う依頼であろうことが彼らには容易に想像できた。
近くにいた者が少なからずの意識をエースに向ける中、受付嬢は――――
「本日の指名依頼なのですが…洞窟のゴブリン退治です」
「分かった、今から行けば時間も丁度いい。すぐ発とう」
受付嬢の依頼にエースは二つ返事での了承をした。
少し遠くで「えっ」だの「はっ」だのと間抜けな声が響いてくる。
きっと彼らの心の中では「何でAランクの男がEのゴブリン退治などを……」と言う言葉で埋まっていることだろう。
だがその間にもエースはカツカツ靴を鳴らし、もう扉の所まで行っていた。
しかし、ドアノブに手を掛ける手前でピタリと止まり、180度転換するとまたカツカツと靴を鳴らしながら戻ってきた。
「場所と報酬は?」
「え、あっ、すみません。えーっと……グレミー村の奥にある洞窟で、報酬は4000ゴールドです」
「分かった」
年齢相応、階位相応の迫力に一瞬ビクついた受付嬢、だがすぐに持ち直し手に持つ紙束をペラリペラリ。
発せられた輝くような受付嬢の笑顔と声、反対にぶっきらぼうな顔で了承したエース。
彼はそのまま受付嬢から判を貰い、言った通りにすぐさま行動を開始した。
「到着」
走ること10分と少し、エースは目的の場所、へと
既に依頼主には話を済ませ、後は洞窟の中に潜む悪鬼羅刹を葬るのみだ。
そも、ゴブリンとは何か。
緑色の肌をした人の子供程の体躯の魔物とされている。
膂力もそうあるわけでもなく、子供並みの知性と力の一体だけならば村人でも追い払う、退治できてしまう、その程度の魔物だ。
そう周知されており、その殆んどが事実の魔物である故、コボルト同様初心者の練習台としての代名詞と言われ存在自体侮られていることが多い。
しかし、群れ潜み悪知恵を働かせる。
更に言えば夜目も効き、先手を取りにくい洞窟や影深い森に住むことが多く、そんな暗がりから襲われれば人など容易い。
捕まれば男ならば食料にし、女ならば苗床に、こちらはもう「世にゴブリンと鼠が絶えることなし」と言われるのも納得の速さで増える増える。
さらに元々すぐに成長するゴブリンが洞窟などの魔力が溜まりやすい場所にいれば数日で成体にまで成長してしまうのだ。
これが列を成して襲ってくるとなれば村人などでは最早手が付けられるわけがなく……
こうして冒険者ギルドに、ひいてはエースの元に依頼が舞い込んできたという訳である。
これは速く根絶やしにしなければならない。
しかし、ゴブリン退治は初心者に最も多く回され、そして冒険者もそれを受けてしまう。
それにはゴブリンでもコボルトでもぬっ殺さなければ自分は冒険者となったと胸を張って言えないギルドの悪習の如き風習のせいでもあった。
悪辣さでは悪人をも上回るとさえ言われる初心者狩りとまで言われている魔物の一種なのだ。
群れぬ新人は死ぬ、もしくはほうぼうの体で逃げ帰るのが普通にある。
今では強者に属するエースもかつてはその一人に名を連ねてしまっていた。
一人で討伐に行き案の定袋叩きにされ、体中を軋ませながら街へと帰る。
門番が気づいてくれなれば死んでいただろう、彼自身の異能が無ければ死んでいただろう、とにかく彼は幸運だった。
そんな昔の、今では笑い話な物語を思い出しながら彼は肉を焼いていた。
今現在巷で噂となっているピーンラビットの肉である。
逃げ足速い魔物であったがエースにかかればなんのその、ものの数秒で捕まり今その肉をこうして炙られていた。
油がぽたりと垂れるごとに炎がパチっと音を立て、さらに匂いが立ち込める。
それをエースは洞窟の中へと送っていた。
食欲に弱く、鼻の良いゴブリンに対する古来から用いられてきた策の一つである。
最後に盾で顔を潰して終了である。
「合計八体、入るか」
呟いた声は誰に拾われることなく空に霧散した。
そこには一体のゴブリンがいた。
「なんだんだよ一体、ゴブリンになってるしいきなり巣穴襲われるし……」
しばらくそこで蹲っていたそのゴブリンは一度立ち上がる素振りを見せるが腰が抜けたのかまたすとんと座り、今度は胃の中のモノを吐き出した。
汚らしい、何かの脂と血肉が混ざったその液はゴブリンに正気を戻させるのには十分だった。
そして意識をするのと同時に口に広がった鉄の匂いと獣臭い味が喉奥からせり上がり、再びそれを吐き出した。
「ぐぇ……ごボボ……ぷァ、ハァハァハァ…本当に何なんだよ……」
そう言葉にしたゴブリンの目は他のゴブリンと違って青く、まるで空色のように透き通っていた。
後に人に初めての与したゴブリンロードが各地で奔走するのは別のお話だった。
エース
この作品の主人公、ギルドの階位A-の秀才タイプ人間で孤児院出身。
現在27歳、この年齢でここまで行けるのは正直凄い部類に入るが世界を動かすような実力、カリスマ性、巻き込まれ性がある訳ではない。
人付き合いがちょっと苦手でそろそろ嫁が欲しかったりする徹夜ができない系男子。
ゴブリン
緑色の肌を持ち、普人の子供程の背と力の魔物。
危険性E、10体以上の群体はE+。上位種が入ればD程にまで。
武器は悪辣さと数、個体では村人でも追い払うなり退治するなり出来るが群体になると相応の準備と力量が必要となってくる。
魔力溜まりで生活している場合は普通の個体だけでもDにまで危険性は上がるが、肉欲食欲に弱く、頭も良くない、そして体の構造は人間とそう変わらない為殺害は比較的容易。
大王や王が群れに出てきた場合、数によってはA相当の力を出すことも。
王からある程度の戦術も入れてくるが、それ以外は仲間を壁にしての特攻が多い。
新人冒険者は最下級だからと油断することなかれ。
冒険者ギルド、本部・支部保有書物4番『魔物大全』
第8章ゴブリン(及び緑鬼、小鬼)
ピーンラビット
四六時中耳をピーンと張っている事から名付けられた兎。
魔物だが逃げることに特化している為危険性自体はE以下だが、捕まえるとなるとやや手間が必要。
肉は大変美味、ギルドにて高価買取中。(見つければ直ちに持ってくるべし、評価もあげよう)
冒険者ギルド、ニガタ支部保有書物4番『魔物大全』
第87章ピーンラビット(及び耳張り兎)
ギルド長ルメーグル・ボーノ加筆
この物語は
ルビ振りは今のところ適当である、決して深く考えてはいけない。