あいつと私の人生の選択
シリーズ化しました。
「ちょっといいかな?」
高校3年の夏、ようやく見つけた暇を有効活用しようと馴染みの喫茶店に入った、はずなのに…。
「ちょっとも良くない。 っていうか、そこ私の特等席なの」
「えー、俺の特等席でもあるの」
へらへら笑っているあいつは林明大といい、私の中学生時代の同級生。 高校進学にあたって、成績優秀で公務員タイプなあいつは学区でトップを誇る市立の進学校に行ったから今生の別れだと思っていたのに、何故か高校生になってもちょくちょく見かけるのだ。
あ、私はあいつの高校には内申も偏差値も届かなかったので2番手の高校に行きました。 本当は美術科に進学したかったけれど、他の学区だったので泣く泣く諦める羽目に。 何故こっちの方には美術系の学校が無いのだ?
「みきちゃんが俺の膝に座ってくれるならいいよ」
「お断りします」
茉莉也は花の17歳、いい年こいた女子高生が他人の膝になんて座るわけないでしょ、と呆れて私は林の向かいの席に座った。 ちくしょう、特等席は窓からの景色がよく写生できる絶好の場所だったのに。
「そういえばさ、大学どこ行くの?」
裏メニューのママ特製ピザをかじりながらスケッチしていると、急に話しかけてきた。 大学? そんなのあいつになんて関係無いでしょ。
「京都の芸大」
「じゃあ一人暮らし?」
「そうだね」
「ふーん」
何だ、この単調な会話は。 何故そんな事を聞いてきたんだ。 私が京都の大学に行こうと、一人暮らししようと、あいつには関係無いのに。
「あんたはどうなのよ、大学」
「ん? みきちゃんが芸大に行くならK大に行くよ?」
「……はっ?」
今、何と言った? K大に行く? K大ってあの、西日本最高峰の?
「でさー、工学部に行こうと思ってるんだ。 確か芸大の近所だったよね、キャンパス」
「ああ…そういえば駅からバス出てたっけ」
「うん、だから一人暮らしじゃなくてさ、二人暮らしにしない?」
「いいよ」
この時、私がスケッチしながら話を聞き流していたのが悪かったのだろうか、それともあいつが突飛な話をしたのが悪かったのだろうか。 私は絶対後者だと信じているけれど、絶対ここで人生の選択を誤った。
「うん、じゃあ4月から同棲だね」
「へー、あんた同棲するんだ。 じゃあ私より彼女さんに構ってやらなきゃねぇ」
「そうだね、構ってやらないといけないね。 みきちゃん」
「…は? 同棲相手に構ってやるんじゃないの」
「だから構ってやっているんだよ。 君に」
「あんたの同棲相手って、誰よ?」
ここにきて、話が変な方向にずれていく音に気づいた。 ちょっと待て、あいつの同棲相手って…。
「君だけど?」
「何でー!?」
本当に何で? 何でこうなったの? もう茉莉也分からない。
「二人暮らししようよって言って、いいよって言ったのは誰?」
「い、言ってない!」
「もう遅ーい。 年上を少し敬いたまえ、俺は18歳だけど、君はいくつだ?」
「来月18歳! 数え19歳!」
忘れていた、あいつは新年度早々誕生日を迎えてしまうのだ。 2学期に入ってから誕生日が来る私なんて論外なのだ。 そして数え19歳というのは同じだ。
「数えなら俺も19歳! 君はまだ満17歳! 俺はもう満18歳!」
「あー、あー、何も聞こえなーい」
「家賃も水道代も電気代も折半なのに?」
「折半!? 半分出して!」
「じゃあ決定だね!」
くそ、罠にまんまと嵌まった。 嵌められた!
「みきちゃんちにちゃんと許可取らなきゃね。 いつ空いてる?」
「……もう、どうでもいいよ…」
私の来年4月から始まるはずの、キャンパスライフ。 一体どうなることやら。