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9 不覚

おまえを眠りに

いざなった

子守唄も

あの『オセロ』なら


私の仮面を

剥ぎ取る隙を

おまえに与えた

憎っくき仇も

また『オセロ』


一生の

不覚だった


寝ても覚めても

怯えつづける

おまえを誘って

二重唱した

件の『オセロ』


我を忘れて

のめりこみ


おまえは半ば

憑かれたように

私の仮面に

手をかけた


この私が

気配も覚らぬ

一瞬の隙


背後から

あっという間の

早業だった


素顔をさらす?


我が意に反して?


小娘ごときに

不意をつかれて?


何たる恥辱!


「小悪魔め!」


おまえを睨んで

罵った


「満足したか?

感想は?


想像したのは

やけどの痕か?


皮膚の病で

ただれた痕か?


いくら何でも

仮面の下が

骸骨なんて

まさか夢にも

思うまい」


稚気溢れる

おまえを呪い


気を許しすぎた

自分を呪った


何もかも

侮りすぎた


明日は

5日目


自由を返すと

約束した日


だがしかし

地上に帰して

やる気は失せた


約束を

反故にしたのは

おまえが先


決して仮面に

触るなという

私の頼みを

無視した報い


自業自得だ

もう遅い



(2)


怒り狂った

私の目にも


我に返った

小悪魔の

取り乱しようは

見るに見かねた


目を閉じても

目を開けても


仮面の下の

正体が

この世のものとは

思われず


自分の手にある

奇妙な面が

なぜそこにあるか

合点がゆかず


わめく髑髏に

打ち震え


見る影もなく

青ざめて


その場に崩れて

息をするのも

苦しげだった


泣くのに

涙も出てこなかった


「ごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい」


おまえは何度

繰り返したろう?


いや

謝るには

及ばない


私の仮面に

手をかけるほど

肝の据わった

人間は


知る限り

おまえ1人


大した度胸だ

褒めてやらねば


「仮面の下が

見たいんだろう?


思う存分

眺めてくれ


心ゆくまで

鑑賞してくれ


目を逸らすなんて

許さない」


泣きじゃくる

おまえに

息がかかるほど

目の前に顔を

突き出した


「おいそれとは

信じ難い

見て呉れだろうが

勘弁願おう


私の方が

おまえ以上に

この骸骨とは

長いつきあい


愛想が尽きて

困り果ててる


この際だ

おまえの

その手で

むしってみてくれ


もしかしたら

この死肉だって

剥がして

むしれる

皮かもしれない


死肉の下から

ひょっとして


人並みの皮膚と

まともな目鼻が

出てこないとも

限らない


試してみたって

損はない」


そう言いながら


頑として

嫌がるおまえの

両手をつかんで

乱暴に


空洞の

目や鼻と

思しき穴に


突っ込んで

引っ掻き回した


逃げようともがき

おまえは叫び


逃がすものかと

私は捕らえ


思い出すだに

悪夢の一幕


可愛さ余って

憎さ百倍

むごい仕打ちも

平気で出来た


まったく

女は厄介だ


血や痛さには

強いのに


おぞましいもの

奇っ怪なものに

めっぽう弱い

正視もできない


この顔を

晒した以上


おまえは

2度と

私のそばには

寄り付かない

当然だ


--仮面さえ

外さなければ


早晩

おまえは

私に馴れる--


そんな浮かれた

夢も断たれた


私は半分

狂ってた



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