ショート・ショート その6 続・女神の箱
(仮)実験的試み。 最終回
僕が『一晩で干上がった湖』のニュースを聞いて半年後、世界は滅んでしまった。
いや、人間だけが消えてしまったと言った方が正確だ。
最後に見たテレビニュースによると湖から天高く出現した光のカーテンが現れた。
それは地球上をゆっくりと移動し、触れた人間を光の粒と変えていると聞いた。
光のカーテンが出現した当時、偉い学者さんの計算によって僕の住んでいたアパートが最後に人の立っていられる場所だとわかった。
最初その偉い学者は自分で土地を利用しようとしたけどすぐに周りにバレてしまったみたいだ。
僕は大家から幾ばくかの金を貰いアパートを出た。
大家は政府から多額の金を貰っていたとアパートの住人はみんな知っていたが大家のようにがめつくことはしなかった。
最後の時くらい格好良く生きたいと思ったのだ。
アパートを放り出された後、実家に戻ろうとした。こんなときでも電車は動いていて律儀なのか現実逃避なのかわからなかったが助かった。
田舎に帰り、両親の趣味でやっている畑を手伝いながら過ごしていた。そんなある日、山の向こうに光のカーテンが見えた。
距離と発表されている光のカーテンの移動スピードを計算すると今日の晩から明日の朝までには通過するようだ。
その日は両親と寝ているときなら安心だね、と笑い合った。
そして翌日、両親は僕を一人残して消えてしまった。
もしかしたら僕だけが人のいない地球に飛ばされたのかもしれないけど、そんなのどっちでも同じだろう。
僕は父の登山リュックに荷物を詰め込むと住んでいたアパートを目指した。
僕以外の人を見つけられるかもしれないし、通っていた大学にはそこそこの設備があったはずだ。
結局誰とも会うことは無かった。
僕の住んでいたアパートはどこが入口かわからないドームに覆われて中を窺い知ることはできなかった。
仕方ないので大学のゼミ室を寝床とした。
それから食料品や発電機を探したり種を蒔いて畑を作った。
ある日、畑を耕しているとホームセンターから無断で拝借したクワに固い感触が当たった。
掘り出して見ると箱のようだ。最初はタイムカプセルかと思ったがこれには見覚えがある。これは海外旅行先で女神から貰った箱だ。
あの時女神は「あなたのこころに偽りのないほうを選びなさい」と言い、「そうしなかった場合、あなたは酷い思いをするでしょう」と続けた。
僕はどちらの箱も選ばなかった。確かに今の僕は酷い思いをしているなと思う。だけどこんな生活も続けていたら慣れてしまっていた。
「今開けたら人類を元に戻してくれるんだろうか」
もちろん箱から返答があるはずがない。僕は自転車の荷台に箱を放り込むと畑仕事に戻った。
夕方にになって僕は鼻に雨のにおいを感じた。畑作業を中断して道具をしまう。自転車をとばしてゼミ室へと急いだ。
坂道を下っている途中、カロンと物が落ちた音がした。女神から貰った箱が自転車より早く転がり落ちていく。
僕は箱を追いかけるべきか一瞬迷った。
「箱は後で取りに来れるけど雨は待っちゃくれないな」
僕は坂を下り終えると自転車の進路を大学へと向けた。
大学に着くと急いでゼミ室から倉庫の鍵を持ち出し、大学の裏庭にバケツを並べた。
冷たいものが頭に落ちて見上げる。
雲一つない黄金に染まる空から金が落ちて来た。僕は溜まらなくなって笑い出した。
「あははは! あはははは!」
雨粒が夕陽の光を反射し金に煌めくのだ。世界が黄金に染まる。
僕はバケツの間を縫ってくるくると周りながら天気雨の夕立を受ける。
明日、女神の箱を見つけたら畑の隣に埋め戻そうと僕は決めた。
一人っきりの世界で僕は――。
おわり
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