第五話 余興の支度
「ご無沙汰しております。国王陛下」
旅人と白ワインを片手に語り合った次の日、シュトライトは王都に向けて出発していた。
彼の今回の目的は、ディアを預かっている者として、国王に会うことだった。
そして彼は今、国王のいる応接間にいた。
真っ赤な絨毯が部屋の入り口から玉座までを繋ぎ、両端には薔薇の模様が彫刻された白い大理石の太い柱が、規則正しく何本も建てられていた。
国王が座る玉座は装飾の施された金製で、所々に宝石もはめ込まれている。クッションは絨毯と同じ赤色で、とても柔らかそうなものだった。
「あいつは大丈夫なのか」
国王は不機嫌そうにシュトライトに話しかけた。
「ご心配なく。彼は元気にしていますよ」
「なら、とっととこちらに帰してくれ」
「お断りします」
シュトライトはさわやかな笑顔で言った。
「今ようやく準備が整ったのです。余興が終わるまで、もうしばらくお待ちください」
国王は眉をしかめ、顔に刻まれているシワがさらに深くなる。
「おっと、怖い怖い」と、シュトライトは困り笑顔を浮かべた。
「なにも殺しはしませんよ。事が済んだらすぐにお返ししましょう」
「……その言葉に偽りはないな」
「ノアルカ様に誓って」
シュトライトがそう言うと、国王は「ふん」と彼を睨み、部屋の奥へと消えて行った。
残されたシュトライトは、「困ったものです」とつぶやく。
「国王陛下は、坊っちゃんのこととなるとすぐ感情的になる」
シュトライトが王都から帰る頃には、空はすでに夕日で朱く燃えていた。
「おかえりなさいませ」
そういってシュトライト出迎えたのは、彼の屋敷で勤めているメイドだった。
「ただいま」
「お兄様っ!」
シュトライトが言い終わる前に、ティノが彼のもとへと駆け寄って来た。
ティノはぎゅっと兄に抱き着くと、不安そうな表情で兄に?%