やってみたけど、わからない。
何だあいつ。
レイはソファーに寝転がって目を閉じていたが、眠気などまるで来てはくれなかった。
「バカぁ!!!!」
レイが宙を舞い、ミモザの目の前に体勢を戻したときだった。
レイはすぐに異変に気がついた。ミモザは目にいっぱい涙を浮かべ、レイの胸元に顔を突っ込んだ。
「?どうしたんだよ」
レイはそんなミモザを鼻で笑った。
「バカバカバカ...」
ミモザは両手でレイの鎖骨をパシパシ叩いた。そしてミモザの高い声は、徐々にトーンダウンしていった。
「は?んだよ、おま...」
レイはミモザの頬を掴んで、ぐっと顔をあげさせた。
「何泣いてんだ?」
レイはもう一度、目を瞑った。真っ赤に泣き腫らしたミモザの顔が何度も何度も浮かんでは消えた。
ダメだ。眠れやしねー。
時間を動かすか。そう思ったとき、ペタペタと廊下を歩く足音がした。
ミモザは軽やかに目を覚ました。
「....」
泣きすぎて頭が痛い。眼球のみを動かし、枕元にある目覚まし時計を見た。そこでまだ、レイが眠りについていることが分かった。時計の背の高い針も背の低い針も、ビクともしなかったからだ。世界中の止まった時計を動かせる人物は1人しかいない。ミモザはむくっと布団から体を起こし、その人物の元へ向かった。
「....」
何であたしは泣いたんだろう。
手を離したとき、
どうしてあんなに胸がつかえる思いをしたんだろう。
ミモザはソファーの前に突っ立ったまま、レイの寝顔を眺めた。
「うわぁっ!!」
ミモザは思わず後ずさりをした。
「何がうわぁっ、だよ!起きてたわ!」
突然レイがまぶたを開いたため、目が合った。そしてレイもすかさず上半身を起こした。
「じーっと見つめるな。なんだ、俺に見惚れてたのか?」
「そんなわけないでしょう。」
ミモザはキッパリと言い切った。
「もう見飽きたから。」
「お前今の自分の顔を見てから言えよ。目が真っ赤だぞ?」
「誰のせいだと思ってんだよ」
ミモザはクスクスと笑った。
「お前が俺のことが好きなのはわかったよ。」
とレイはつぶやき、
再びゴロンとソファーに寝転がった。
「自分で言って恥ずかしくないの?あーあ、あたしの顔合わせがこれかぁ。」
そうは言っても満更でもないようだ。ミモザはふふ、と笑った。
ん?
顔合わせ?
レイは首を傾げた。
顔合わせと言えば、結婚式の前に両家の親族が挨拶をすること。日本人のレイの感覚ではそうだった。
「顔合わせ?何だそれ?」
「え、知らないの?」
ミモザはもはや呆れ顔でレイを見ていた。
「あたし、18歳だよ!?」
「18歳だから何だ?若いですって言いたいのか?...でも聞いたことあるな。」
「もー...あたしに言わせないでよ...」
セノバでは、女性は18歳のときに、結婚の予習として親が見合いをさせるというしきたりが昔からある。とりあえずの結婚準備として、恋人のいない女の子達は男性を紹介され、同棲するのだ。
「何だ。それか。」
レイは適当に頷いた。
「何だって何よ!!」
カチンと来たミモザはレイの両肩を掴み、ブンブンとレイの頭を振った。
「わわわ...あのなぁ、自分の半分しか生きてない女に手を出せるかよ!」
「だ、誰も出してくれなんて言ってない!!」
何なのこいつ、ほんっっと最低!!
ミモザはレイのために泣いたことを、激しく後悔した。