ゆとりって、言うな。
「今年は去年より倍率高いんじゃないっすか?」
採用委員会の職員達は、受験票の作成で大忙しだった。
「確かに多い。安楽科が増えているな」
ボルトはパソコンを開き、データと睨み合いをする日々が続いていた。
「みんな病んでるんすかねー。こんな連中とこんなこと毎日してりゃ病むけど。」
...おいっ!
事務室で爆弾を吐いたのはもちろんスティーブ他ならない。心の中で、職員全員がスティーブをど突きたくなった。
「あ、もうこんな時間か。少し場所をずらすか。」
時計を見たボルトは書類の山を動かし始めた。
「CA社がお見えになるんでな。」
「あぁ、そういえば。」
職員達はボルトに促され、一斉に書類を持って隣のデスクに移動した。
「何でしたっけ?」
「ローカルテレビ局。採用試験を今年も取材するんだって。」
周りにただ合わせて書類を運ぶスティーブの質問に答えがきた。
「スティーブ、もうすぐお客様来るそうだから、養成所のユング係長にFAXと電話を頼む。」
「はいー」
スティーブは書類の山を片付けた後、本棚から電話帳を取り出した。
「スティーブ君、わざわざご丁寧にありがとう。今年はすごいね。」
スティーブはユングに電話をかけた。ユングはあの優しそうな声で答えてくれた。
「FAX見たよ。係員の指定は、私が送ったものと変更なしだね。」
「はい。受験者数が多いので、今年は大変かと思いますが、よろしくお願いします。」
スティーブは電話越しに頭を下げた。
「大丈夫。私は去年も実務監督員をやっているから、流れはわかるよ。スティーブ君、よろしくね。」
「はい。」
スティーブはユングと一緒に係員を行うことになった。担当するブロックは、実務。ボクシングでいうところのスパーリングである。実際に、組手をして身体能力をチェックするのである。スティーブはタイムキーパー、ユングこと監督員は面談を行う。
....ユング係長、めちゃくちゃ強いらしいからなー。見てみてーな...
スティーブはぼんやり思った。
電話を切ると、スティーブは給湯室に向かい来客のお茶を用意した。CA社の職員の数を数え、真っ白なティーカップにハイビスカスティーを注いだ。白くて艶めくガラスはじわじわと真っ赤に染まった。なんか、人が死ぬときみてー...とスティーブの頭に不謹慎な考えが浮かんだ。
スティーブはボルト達が応接をしている部屋に入った。採用委員会の職員が3名で、CA社の職員も3名だった。
「リポーターのルナシス・ホドラーです。」
うわっ、すっげー胸でけー。
見るな見るなと意識しつつも、ティーカップをテーブルに置きつつスティーブはルナシスの体につい目がいってしまった。少し広めに空いたシャツの隙間からは小玉スイカのような胸が嫌でも見えていた。スーツのスカートから豊満な尻の形がくっきりと見えた。化粧はかなり濃く、香水のツンとした匂いがスティーブの鼻に襲いかかった。
女の塊みたい。スティーブはルナシスから目を離し、お盆を持って部屋を出た。