敵にまわしてごらん?
逃げなきゃ。
でも。
ミモザは玄関ドアを亀のようにゆっくり開けて、渡り廊下に出た。息を潜めて2つ隣の部屋のドアの隙間まで歩き、様子を伺っていた。
間違いない。泥棒だ。
2つ隣の部屋の中は激しく荒らされていた。靴はあちこち別々の方向にひっくり返っていた。男2人の後ろ姿が見える。おそらくミモザに気づいてはいない。 ミモザは無法地帯に足を踏み入れた。
「下の階から物音がするにゃ。」
ユングはベランダから鼻から上をひょっこりと出し、
「あそこに行くにゃ。一箇所だけ電気付けっ放しにゃん。」
「どこだ?」
レイはユングと同じように、下の階を覗き込んだ。よく気づいたな。物音なんて聞こえねーぞ?レイは首を傾げながら下の階を見た。
「急ごうぜ」
「にゃ?」
レイはユングを掴んで、慌てて下の階へ向かった。ミモザ、何をしているんだ?
「!?」
2人は7階の渡り廊下に着いた。電気のついた部屋は二箇所。
「物音がするのはこっちにゃ!」
「わかった、俺はもうひとつの部屋に行く」
2人は二手に分かれた。
レイは自分の部屋、ユングは2つ隣の部屋の中に入った。
「このアマ!!」
人の気配に気がついた男2人は包丁を持った。土足で足の踏み場もない廊下に立つミモザに包丁を突きつける。ミモザはぐっと拳を強く握った。
「おい!!」
ユングが部屋に押しかけた。
「来るな!!」
男は叫ぶと、ミモザの胸元を目掛けて、包丁を伸ばした。
「あ....」
「ミモザ!!」
レイは一歩遅れてユング達の元へ駆けつけた。
「お....」
「何だ...この子....」
レイとユングは立ち止まった。初めてミモザの能力を目の当たりにするユングはこの異次元の世界を食い入るように見つめていた。
2人の泥棒の男は時と動きを止めたまま、宙に浮いた。
そのまま、消えた。
「外へ出て。」
ミモザは指を咥えてただ眺めている殺し屋2人に指示をした。
「あ、あぁ...」
レイとユングはミモザに言われるがままに部屋の外へ出た。
「どうする?」
渡り廊下の外、すぐ足元は遥か下の石畳に大の男2人は空中に浮いていた。男達はミモザの掛け声と同時に目を覚まし、そのまま宙ぶらりんの状態を怖い怖いと泣き叫ぶ。
「生かす?殺す?」
ミモザは殺し屋2人に尋ねる。
「半殺し。」
「わかった。」
レイのつぶやきで、ミモザは拳をぐっと握った。
「ぎゃあぁぁぁっ!!」
2人は7階から真っ逆さまに落ちていった。
「はい。」
ミモザの掛け声とともに再び男達は、空中から7階の渡り廊下に瞬間移動し倒れていた。気絶したようだ。
「テレポーテーション、できるようになったよ。」
ふふふ、とミモザは時が止まっていないのに、止まったかのように青ざめるレイとユングに微笑みかけた。