暗いところから、こんばんは。
「アサマさんのお宅ですかー?」
「出ないな」
ミモザが寝息を立てているときに、2人の男は玄関ドアの前で待ちぼうけを食らっていた。2人は顔を見合わせて、
「避難したんだな、きっと」
「電気つけっ放しでか?」
「いないだろうが、やめとこうか」
と踵を返した。
「にゃ?ここはレイの家なのかにゃ?」
「そ、そうだ!」
やべえ。ユング、ミモザのことを気がついているんじゃ...
「新婚の愛の巣にお邪魔するにゃん!」
ユングはにやつきながら、プークスクスとレイをあざ笑った。
やかましい、この化け猫がっ!!
レイはそう目でユングに訴えつつ、団地の玄関をくぐった。
誰もいない。電気もついていない。そこはもぬけの殻だった。
大型の団地は不気味な廃墟のように、暗闇にぬっと顔を出していた。
「避難命令が出たのか?」
「にゃに?1時間前に出てるにゃんよ?」
「ミモザ」
レイは風に言葉を乗せた。
何だ、ちゃんと夫婦してるにゃんね。
ユングはレイの嫁の名前を聞いて、ふっと笑った。
ユングはエレベーターのボタンを押した。
「あれ?」
2人は目を見つめ合わせる。どうやらエレベーターは運転を取りやめているようだ。
「上から順に見て行くか。」
レイは指をパチっと鳴らした。
「あれ?今...」
ようやくミモザは体を起こした。
「誰かいた?」
目を擦りながら、ミモザはソファーから離れて玄関へ向かった。
「......」
どうなってるんだろ?
深い深い眠りについていたため、何が起こっているのかまるでミモザは理解ができていなかった。
「でもあたし、1時間しか寝てない...」
廊下の壁にかかった時計をチラチラ見ながらミモザは玄関のドアを開けて外へ出た。
「ユング、お前の野生の勘はどうだ?」
2人は団地A棟の屋上に到着した。
「あんまり良くないにゃ。胸騒ぎがするにゃ。」
2人は屋上を底の厚くて重い靴で歩いた。防護服は中々の重装備である。個人に支給されるライフル銃はレイの痩せた肩に食い込む。忍び足で歩きたいが、この靴ではどうしても足音がしてしまう。何とかならないかな?とユングはいつも言っていた。
降りるか。
2人は錆び始めている屋上の螺旋階段を軽やかに下った。
誰?
ミモザは玄関ドアを持ったまま、闇に包まれた団地の2つ隣の部屋の様子を伺っていた。暗くてよく見えない。でも。
空き巣だ。
ミモザは目を見開いた。