ちょっと待ってよ!?
うーっ眠い。
わぁぁ...すげぇ...と遠くから子ども達がこちらを見ているのがわかった。
まさかあの3人がいるんじゃねーだろうな?レイは敬礼をしながら、ヒソヒソ話の声に耳を澄ました。
「せいれーつ、休め!!」
殺し屋達は一斉に同じ動きをした。
そこに小柄で頭の薄い、セノバ人の老人が現れた。
サンストリート、午後7時。日はまだ沈んでいない。
「バリス中央警察署長にー敬礼っ!!」
「なおれ!!」
「せいれーつ、休め!」
足音は散らばることなく、ひとつになって辺りに響く。
あいつだ。
カーツ。
レイは顔を強張らせる。
くっそ。偉くなりやがって。
隣に並ぶユングはレイの表情がスコールのように急降下するのを見届けていた。
ユングには2人の間に何があったのか、わかるからだ。
「相変わらずつまんねーな。あいつ。」
「まぁ、落ち着くにゃん。」
ユングはレイの肩をポンポン叩いた。
何だ?もう「ギャッツ」になったのか?
気づけばユングの様子はいつもとは違っていた。
ここで今回の街頭パトロールの構成を説明しよう。基本に殺し屋こと隊員は2人1組で行動する。
まずは特攻こと1番員。辺りをパトロールする。次に戦闘こと2番員。パトロールをしつつ応援支援も行う。1番忙しいところだ。最後に3番員の防護。住民の保護対応を行う。また別に幹部クラスによる統括がある。
ユングとレイはペアになって戦闘に当たっていた。
久しぶりだな、ユングと組むのは。まー頼りになるし、強いからいーか。
2人は銀色の衣装に身を包みつつ、薄暗い石畳を歩いた。
「毎回思うけどさー。この尻尾、邪魔じゃねーの?」
ユングの銀色の服から、ニョロっとピンク色の尻尾がはみ出ていた。おまけに可愛いピンク色の猫耳までついている。ご丁寧に手にはアイアンクロー、猫爪が着いている。別名ギャッツ。スペイン語でネコ。その名に恥じぬネコオヤジである。
「邪魔とは失礼にゃん!バランスを取るのに重要な役割を果たすにゃ!」
ユングはムキになった。
その語尾のにゃんは何なんだ...レイは長年の疑問を聞けずにいた。
ミモザが使ってもキレるな。レイは思った。けれども身体能力はネコ以上。軽やかに飛び回り、鋭く獲物を仕留める。嗅覚や野生の勘も人間以上である。
「事件の概要をざっとお浚いするにゃーん。」
「はいはい。」
うぐっ。耳が痛いな。レイはにゃんにゃんとうるさいユングの言葉を適当に聞き流した。
「まず最初、朝の8時15分にゃん。バリス市ノーザン町のスーパー銭湯2階男湯で発生。突如疾風が吹き荒れて、その後に爆音がしたにゃん。朝の8時45分、同様の手口で今度は2km先のクアトロ町のサウナで発生だにゃー。」
うぐぐ...あいつ全然ダメだな。時間かかり過ぎだ。レイはため息をついた。
「その後、9時50分にバリス第二消防署にてボヤ発生。その後も酒屋、宝石店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアでボヤと強盗殺人、火炎瓶による爆発。」
「あれじゃね?」
レイはその辺りを適当に聞き流した。
「殺し屋志望だろ。入試前の腕ならしだべ?」
「うーん。」
ユングはどこへ向かっているのだろう。野生の勘は、いつも当たる。そんなユングとレイが向かっていたのは、
バリス市オリオン6丁目8番、タワーバリス市営住宅A棟。
「ここ、俺の家じゃねーかよ!?」