たまにはこーゆーのも、あっていいでしょ?
レイは顔を上げた。
海水が目に入って滲みる。手で目を擦りたくてたまらなかったが、生憎その手も潮まみれだった。
「早いよ。」
ミモザはびしょ濡れになった顔を指でなぞりながら笑っていた。
「次はあたしが息を止めるからね。」
「あぁ。」
レイはミモザの肩をぐっと手で引き寄せた。
突然だった。
ミモザは水面に顔をつけないのに息をすることができなかった。
「お前の負けだ。」
レイの顔が離れて、ミモザはゆっくりと目を開けた。
「何で?先に顔を離したのはレイだよ?」
「......」
レイは黙ったまま、顎で砂浜の方を指した。近所の幼い子ども達が、2人を食い入るように見つめていた。レイが子ども達を睨みつけると、
「ヒューヒュー!!チューしてる!!」とケラケラ笑いながら走り去っていった。
「...どうすんだよ、これ。」
レイは砂浜を見ながら笑っていた。服を着たまま海に飛び込んだ2人を、ちょくちょく通る通行人は珍奇なものとして視線を浴びせていた。
「知らない。」
ミモザは笑った。
「は?じゃあ、俺も知らんがな。」
レイはミモザに釣られて笑った。そして先程よりも力を入れて、ミモザの肩を引き寄せた。
レイは敢えて時間を止めなかった。
時間が流れていくのが惜しい、そう思いたかった。
「残念だけど、そろそろ帰るか。」
レイはミモザの肩からそっと手を離した。
「バリスが物騒でな」
「仕事?」
「花屋以外の。」
レイの一言に、ミモザが頷いた。
「そう。」
「ここに犯人がいるんだけどな。」
レイはミモザの頭にポンと手を叩いた。
「お前、テレポーテーション、失敗して違うところ行ったろ?」
「んんっ」
ヤバい。バレた。
ミモザは顔を引きつらせた。
「お前な、暴れ過ぎだ。どーすんだよ!俺、参集かかったぞ!」
レイはケラケラ笑った。
「んで、何回ミスった?正直に言え。」
「...2回...」
「どこ行った?」
「サウナと...スーパー銭湯...
どっちも男湯で...」
「こんのドスケベが!!はーはは!!」
レイは息ができないくらい、吹き出して笑った。
「.....」
ミモザは穴があったら入りたかった。
そしてふと、
「え、は、犯人を殺せって!?」
もしかして、あたしを殺せってこと?
そう言いたいのか、ミモザは寝坊した朝のように慌てふためいた。
何だ、死にたい病が治ってんな。
良かった。
死にたくないんだな。
そんなミモザの様子を見て、レイはとりあえず安堵した。
「まー今回は犯人を捕まえろってだけだよ。んまっ、幸いなことに、お前に便乗しているのもいるから、そいつを捕まえりゃいっか。しっかしなー。変態にも程がある。欲求不満なのか?あーひゃひゃ!!!」
レイは嫌味たらしく大声で笑った。
ミモザはとにかく悔しいが、全くもって言い返せなかった。
「欲求不満かぁ、もっとキスしてほしいのか?あーん?」
「うるさいうるさい!!バカーー!!」
ミモザは日に焼けた顔を更に真っ赤にして叫んだ。