やってないけど、何かわかるかも。
まさか。
俺、なんちゅーところへ。
キリクは口をポカンと開けて、花屋の店内を眺めていた。
「へー。俺って有名なんだ。」
レイは両手を頭の上で組み、くーっと背伸びをした。
「師匠、有名どころじゃないですよ。新橋のサラリーマンとマウンテンゴリラは殺し屋界の伝説ですよ。」
「あーん。そうなんか。さて、殺し屋講座でもしましょう。」
レイは革靴を鳴らしながら、キリク達の元へ向かった。
「おっと。」
レイはキリクの右の手のひらを掴んだ。
「俺にまだ反抗するつもりか。」
「すげーな」
キリクは感嘆した。レイはキリクの右手から、爆薬をもぎ取った。
「ペテロとパウロ、詰めが甘い。」
「あんた強い。」
キリクはもう、レイに抵抗するのを辞めた。大人しく首を垂れて、レイの後をすごすごと付いていった。
「はい、全員着席。」
レイは3人を店の奥に連れて行った。更衣室にはロッカー以外に冷蔵庫やテーブルと椅子がある。そこに3対1に分かれて各々は座った。
「はいまず、これを見て。」
レイは仲良く?並んで座る3人の目の前に、冊子を置いた。紫色の紙である。
第36期特殊部隊養成所 入所生選抜試験募集要項。
紫色の紙にはそう大きく書かれていた。
「これ、今年のですか?何で師匠、持っているんですか?」
「まーいろいろ。」
レイは適当に話をはぐらかした。
「んで、お前の名前は?」
「キリク・ハリトーノフ。実は俺の兄が今回、その紫色の手紙をもらっているんだ。」
「だったら見せてもらえばいいじゃん」
ペテロはキリクに言った。
「そんな気安く頼めるかよ!特殊部隊推薦者だ、化け物並みに強い。」
キリクは首をブンブン振り回した。
「あのー。今、もっとヤバい人に見せてもらってるんだけど。」
パウロはキリクを横目で見つつぼやく。
はっとキリクは息を飲んだ。
「..ごめんなさい。あなたの方がよっぽど強いです。..」
キリクはレイに頭を下げた。
「ま、いーよキリン。」
レイは募集要項のページをペラペラめくり始めた。
「キリクです...」
キリクは囁く。
「あーん?まーいいや、キリン。安楽科はどうだ?座学は一番難しいが実技は一番少ない。治安科は無理だね。」
「安楽科って、あまり派手じゃないですよね。」
ペテロがつぶやいた。
「アホか。安楽科が一番難しいぞ。派手に人を殺すなんて誰でもできる。それにマスタングは安楽科出身だ。」
「マスタング?」
キリクは首を捻った。
「マウンテンゴリラ。」
「あ、あの!」
3人は息をぴったりと揃えた。
「あーん?お前ら、俺のこと知らねーくせにマスタングは知ってたのか。いいけどさ。」
レイは募集要項をめくった。
募集人数、安楽科1名、治安科2名、総合科3名。
別に推薦者若干名。
「やっぱり伝説になるのは、推薦をもらわないと無理なんですかね。」
キリクはレイに尋ねた。
「いや、そんなことねーぞ?マスタングは一般入試枠だ。俺は推薦だから一般入試で何をやるのかは知らん。学科と体力検査じゃね?んでキリンとペテロとパウロ、今回受けるか?」
「受けます!!」
3人は再度、息を揃えた。
「ふーん。前年の倍率出てるぞ。」
レイは募集要項を更にめくった。
「何だ。一次に何をやるか出てるよ。
実質倍率。安楽科37.8倍。治安科56.4倍。総合科75.2倍だってさー。」
「考え直します。」
3人は今までで一番息を揃えた。
「えー受けろよ。つまんねーな。」
レイはぶーぶー文句を垂れた。
「ま、学科は自分でやるしかねーけど、実技なら教えるよ?」
3人は見るからにその学科がダメそうだった。だが、
「え、稽古して貰えるんですか!?」
3人は椅子から身を乗り出すほど興奮した。
「うん。3人まとめてかかっておいで。じゃあちょっと、移動しますか。」
レイは指をパチっと鳴らした。
「到着。」
「あれ!?何だこれ!?すげー!!」
レイのテレポーテーションを初めて体験したキリクは、絶叫マシンに乗ったかのように興奮していた。
こいつ可愛いな。ペトロとパウロは目を合わせて笑った。
ここは砂浜。小豆をならすような音は子守唄みたく心地よい。そして青々と生い茂るヤシの木。
「あそこにあるのが養成所だ。」
レイは白い建物を指差した。
「懐かしいなー。相変わらずボロいな。さて」
レイは真っ直ぐに右手を太陽に向けてあげた。
「手段は選ばん。本気でかかってこい。」