思い出、ボロボロ。
ミモザの耳はドライヤーの熱を受けてほんのり赤くなった。
「本当に思い切ったね。どうしたの?」
「ふふふ。内緒。」
すっかり変身を遂げたミモザは鏡に映る新しい髪型にご満悦の様子だった。
「でも黒髪、似合うよ。目立つし。」
「やってみたかったんだ。」
マリンは指先にワックスをつけて、手のひらになじませ、ミモザの髪を指先でくるくると遊び道具にした。
「はい、完成!どう」
「流石、マリンはセンスいいね。」
ミモザはガッツポーズをした。
女というのは不思議なものだ。髪型ひとつでその日の気分が左右されてしまう。髪型だけではなく、服や靴、肌の調子、その時々を気ままに生きる。
でも、それが楽しかったりするんだよね。マリンとミモザは頷く。
「あ、これ持ってきたよ!」
ミモザは財布を終いつつ、手にしていた紙袋をマリンに渡した。
「あ、この前言っていたの?」
マリンはミモザから紙袋を受け取り、カウンターに置いて中に入っていた箱を取り出した。
「可愛い!これ、ミモザが作ったの?」
スケルトンのプラスチックの箱には手作りのリースが入っていた。リボンとブリザードフラワーの組み合わせが甘くてまろやかな、女の子らしいリースだった。マリンの手の中にすっぽりとはまったリースは、オフホワイトを基調とした美容院によく溶け込んでいた。
「ありがとう。店に飾るよ。」
ミモザはスキップをしたくなるような気分で、美容院を出た。
「あの子が幼馴染?」
ガラス戸越しにミモザの後ろ姿を眺め、マリンの同僚の美容師が床を履きながらつぶやいた。
「そう。」
「明るくていい子そうだね。」
「うん。親友。」
マリンは両手で抱えていたリースを、店内の壁に掛かっているコルクボードに引っ掛けた。
ミモザは駅に戻ってバス乗り場に向かった。踵がペタンコのサンダルを履いていたため、直射日光を浴びた白い石畳は熱を帯びてミモザの足はじんわりと熱くなる。真っ白なミモザの肌は日に焼けてヒリヒリしていた。歩くこと数分、近くのジューススタンドでアボカドスムージーを買った。よくマリンと友人のセバスチャンと一緒に飲んでいた時と同じ味がした。濃厚なコクがミモザの口の中いっぱいに広がった。
「ご乗車ありがとうございます、こちらはF14番、ジェフ南東病院行き20分に発車します。」
ミモザはストローを咥えたまま一番奥の窓際の席に座った。ミモザはこれから一番行きたいと思っていたところが終点だった。
母さん。ミモザは窓の外の腹が立つくらい明るい空を見上げた。なのにミモザの気分は、レイと歩いたまだ明けていない空の色とおなじだった。
ここでは普通の女の子でいたい。少しだけ...
バスは走り出した。スムージーをストロー経由でゆっくりと口に運びながら、海沿いを走るバスの窓に顔をつけた。この道はもう何百回と通る道だった。この道はまるで変わらない。街路樹のブーゲンビリア、白い砂浜、甘い匂いを運ぶ風。
それなのにあたし達は変わってしまった。
母さん。あたし...
ミモザは瞳を閉じた。




