花いちもんめ、あの子が欲しい。
そして、無事に?インターンシップの組み合わせが決定した。36期は、
「わー、選定委員の仕事が見えるなんて、楽しみだよ!」
食パンをかじりながら、いかにも期待に胸を膨らませているようにソラが笑った。
「そっか?みんな知ってんじゃん。今更感動とかねーな。」
スティーブはパリパリのレタスに、ザクっと歯ごたえの良い音をさせてフォークを刺した。眠たそうに目を細めながら、マヨネーズのついたレタスを大口を開けて頬張った。
「師匠と誰が組むんだろう。」
「....」
ふとキリクがつぶやいた言葉を聞いて、全員の動きがピタリと止まった。動いているのはコーヒーから立つ白い湯気だけだった。
「え、みんな、嫌なの?」
「嫌じゃないけどさ」
ビオラに言われて、ソラは首を横に振った。
「マジできつそうだなぁと。」
そう。全員はあの、階段昇り降りを思い出してしまったのである。
「でも、さすがにミモザさんはないでしょ!?」
「だろうなー。」
キリクはコーヒーを一口飲んだ。すぐに熱っ、とぼやいて、口からカップを離した。
「おはよう。今日は待ちに待った、インターンシップの組み合わせ発表だ。」
朝のホームルームはあっという間に訪れた。教壇に立つユングはソワソワする6人の顔を見て、クスリと笑った。
「今から黒板に、スケジュールと組み合わせを書くから、メモしな。」
「はい!」
6人は威勢の良い返事をした。
インターンシップは一ヶ月行う。これは成績はつかないが、インターンシップを行うこと自体が進級要件となる。ユングはサラサラと、黒板に次のように書いた。
第36期特殊部隊養成所入所生インターンシップ
第1組 ミモザ・アサマとガルシア・シガネル
第2組 ナチ・ハリトーノフとアレックス・ガメロ
第3組 エンリコ・ビオラとフラン・アギレラ
第4組 クリスチャン・ソラとサトシ・アサマ
第5組 スティーブ・スピノザとレオナルド・カレーラス
第6組 キリク・ハリトーノフとロッテンマイヤー・ユング
ユングは一旦、チョークを黒板の隅に置いた。
やばいぞ、これ。
組み合わせが決まった会議室で、ギョッとしてユングとレイは目を合わせた。2人が思ったことは同じだった。第2組のことだ。ガメロとジャカランダの因縁対決。
「スピノザかぁ、楽しみだな。」
そんな2人を差し置いて、残りの猛者たちは明るく話していた。
「あれ、知り合い?」
楽しみと言うカレーラスに、アギレラがボールペンをカチカチ鳴らしながら尋ねた。癖なのだろうが、その音は少し会議室では目立ってしまっていた。
「人事と採用なので、よく一緒に仕事をしましたよ。まー生意気ですねー。誤解されやすいけど、根は素直ですよ。養成所で打たれて、大人しくなったと思いきや。」
「全くそんなこたぁないです。」
カレーラスの代わりに、ユングが答えた。
生意気と言いつつも、カレーラスはスティーブと仲が良かった。あいつ、女が出来たんですよーと弟のようにスティーブを可愛がっていた。
「ナチって、カナルの子だろ?」
ガメロが話を変えて、痛いところを突いた。ユングとレイはとっさに耳を塞ぎたくなった。
「ネクロマンサーですよ。先輩の苦手な。」
アギレラが更に話を掘り下げた。やめてくれよ、ユングは心の中でそう叫んだが、
「どんな子?」
とシガネルがユングに隙を与えなかった。
「はい。至って温厚な子です。欠点は少し臆病で優柔不断。けれども、ひた向きに努力をする子です。」
ユングは早口で答えた。お前も慌てふためいているのか。レイは思った。
「ほぉ、36期だからそこまで目立たないが、他の期生なら首席レベルだな。」
ガメロは手元にあった、ナチの成績表を見ながらつぶやいた。
「ネクロマンサーといっても、呪術だけに頼るタイプではない子だな。学科もできるし。ま、良さげだな。」
ガメロはナチの成績表をしまった。
あーよかった。レイとユングがホッと一息ついたのは、言うまでもなかった。
組み合わせ発表の日の夜。
「夜分にすいません。」
ミモザは真っ直ぐに家に帰らずに、寄り道をしていた。街灯の灯りを浴びた石畳。人々の騒ぐ声。女ひとりではあまり芳しくないところだ。ふと流れ着く肉の焼ける匂いがミモザのお腹を鳴らす。
「いらっしゃい」
まだまだ夜の更けない、満開のバルをふさぐように、ミモザの前にお目当ての人物が立っていた。
「あら。」
「ご挨拶に来ました。よろしくお願いします。あと、持ち帰りでタコスをふたつ下さい。」
ミモザはにっこり笑った。
「いいわよ。楽しみにしているわ。中に入って、待ってて。」
ミモザは混み合う店のカウンターに通された。椅子に座るとその大きな背中を眺めた。