嫌な予感しか、しない。
今日のバリスの街は、いつもとは少し違うニュアンスで騒がしい。それはここ、コラゾンも例外ではなかった。街は警察官だらけで人っ子ひとりいやしない。
オリオンストリートは通行止めを食らったらしく、客足は止まった。そのため道路を少しでも開けるようレイは警察官に言われた。
だからペテロとパウロは店の外のバケツを中に戻していた。けれども、
「いいから手を動かせ。」
2人はレイに注意されても店の外を連なって歩く人々の二列横隊に目を奪われていた。男の子なら誰しも憧れを抱くに違いないが、レイにとっては見飽きたものであった。
その中で一際目立つ銀色の防護服で身を固めた屈強な男達は、特殊部隊の殺し屋であった。
「失礼します。」
特殊部隊のうちの2人は列を抜け出し、ペテロとパウロに軽く会釈をするとコラゾンの中にズカズカと押し入った。可愛い花など当然目もくれなかった。2人の目的は殺し屋の新橋のサラリーマンだった。
「あーん?」
レイは伝票を記入しながら、いつも通りのやる気のなさを滲ませて2人の殺し屋を見つめた。
「あ、久しぶり。」
「.....」
2人の殺し屋は一瞬、お互いを見つめ合った。そして首を傾げると再びレイと目を合わせ、
「初めまして」
と挨拶をした。
「何すか?」
レイはここへ来て、ようやくボールペンをテーブルに置いた。
「お忙しいところすいません。新橋のサラリーマン様でしょうか?」
「うん。」
レイは頬杖をついたまま、2人をボケっと見つめていた。
「今夜出場していただけないでしょうか。」
2人は緊張のあまり、氷柱のように棒立ちになった。それほど、レイに対してタジタジだった。それもそのはず、こんな成りだが伝説の殺し屋である。
「いーっすよー。ま、物騒ですしねー。んで何時?」
「7時にサンストリート、セノバ警察当局前にお願いします。」
「あーい。」
レイは2人が頭を下げているときに、ボールペンを握りしめ、伝票を捲り始めた。
「師匠...流石です...この厚かましさは師匠にしかできません...」
ペテロとパウロは感嘆したまま、呑気なレイを眺めていた。
「師匠、テレビつけてもいいですか?」
何があったんだろう?流石にペテロとパウロは由々しき事態を気にしたようだった。
「マラソン大会じゃね?花閉まったらつけてもいーよ。」
「はーい。」
2人は改めて作業を開始した。
「今日どーすっか。ブリザードフラワーでアレンジでも作る?」
この状態では客も来ないだろう。レイは持ち前の超能力のテレパシーで花の配達をしていた。
「はい。あ、やってますね。」
レイはレジカウンターの近くのテレビの臨時ニュースを横目で見た。
「ふーん...」
「フガッ!?」
「どうしたんですか、師匠。」
レイの表情は一変した。レイは固唾を飲んでテレビを見た後、指をパチっと鳴らした。