プロローグ
愛のカタチは人の数だけあると言う。
誰の言葉なのかは知らない。俺が今さっき考えたしょうもない言葉なのかもしれない。まあ、確かに人の数だけ愛のカタチはあるかもしれないが、俺は人の数以上に愛のカタチはあると思っている。
愛という言葉からまず思い浮かぶのは何だ? 俺は男女の愛だ。世の中の創作物には男女の恋愛を描いたものが多いから、それに影響されているのかもしれないな。
同意してくれる奴だっているだろう?
同性愛は……まあ、置いておいてくれ。否定はしないけど、俺の趣味じゃない。
次に思い浮かんだのは、友人愛だ。
人間、友人がいないとダメになっちまうもんだからな。恋人がいないことより、友人がいないことのほうが、つらいと思う。
ちなみに、負け惜しみではないからな。
恋人と同じくらい、友人は大切にしなければいけないと思う。
他にも愛の種類はたくさんあるだろうが、俺が最後に思いついたのは家族愛だった。これには親子愛や兄弟愛も入る。
さて、ここで話は変わるが、自己紹介をしようと思う。名前は山城大樹。現在、公立の高校に通う二年生、十七歳。一応、進学校と言われるところに通っている。
進学校と言うわりにはたいしたことない学校だけど。
成績は学年三百人中百位くらい。部活は弱小のサッカー部。クラスの女子いわく、外見は中の上。中肉中背。趣味はラノベや漫画を読むこと。
どこにでもいそうな男子高校生だろ?
そんな俺だが、実はめちゃくちゃかわいい妹がいる。
年齢は一つ下。同じ高校に通っていて、学年も一つ下だ。外見は俺とあまり似ていない。百人中九十九人が、俺たち二人が兄妹だということを知ると驚く。
俺の妹は、一年生の間ではアイドル的存在なのだそうだ。友人情報によると、あいつのファンは一年だけではなく二年にも、そして三年生にもいるらしい。
でもまあ、それも不思議ではないな。
俺の妹、花蓮はイケメンの親父に似て目鼻立ちがよく、線も細い。身長は平均よりわずかに高い。胸だけは残念だが、外見は一年生でナンバーワンと言っても差し支えない。成績は学年で十位以内に入る。部活には入っていないが、運動部の連中と張り合えるほどの運動能力はある。生徒会に所属しているため、全校生徒の目にはいる機会も多い。
だから、他学年にもファンがいるってわけ。
告白されることも多いらしいな。全部断っているようだけど。
……俺は告白されたことなんか一回もないけどな。
俺は平凡な母親に似て、花蓮はイケメンな親父に似た。外見の差は人生の差。人は見た目が九割。よく言ったものだよ。
外見が良いのに加えて、花蓮は頭も良くて運動もできて人当たりもいい。
モテないわけがない。
なんでこいつが俺の妹なのか、どうして俺がこいつの兄なのか。何度もそれで悩んできた。まあ、すべてはどこかの少女漫画みたいな恋愛をした両親のせいなんだけどな。モテまくった有能なイケメンが、最終的には平凡な女の子にベタ惚れするってやつ。
現実にあるんだね、そんなこと。
ムカつくね。
……話が逸れたな。
まあいい。話は妹に戻るが、俺と花蓮の兄妹仲は一か月前までは最悪だった。あいつは俺をいないものとして扱うし、俺もあいつに同じようなことをしてやった。小さい頃は二人で泥まみれになりながら遊んだものだが、あいつが思春期を迎えてからは、あの時の面影なんて俺たちの間からは消え去っていた。
この前までの俺たちに、兄妹愛なんてものはなかった。
だが、最近は俺と花蓮の間に会話が戻ってきた。
重苦しかった家族の雰囲気も、温かみを取り戻している。
喜ばしいことだ。
これもすべて、夏休み明けに友人から受けた依頼のおかけだ。
その依頼のおかげで、俺は小遣いを手に入れ、学校は一部の生徒が活気づき、想定外の結果として、俺と花蓮の間に言葉が戻ってきた。
昔みたいに、兄妹でじゃれあうこともできるようになった。
そしてその依頼は、絶えることなく俺のもとにやってくる。
ありがとう、依頼してくれる人たちよ。
俺は心の中でそう言いながら、タンスの一番下の段に手をかけた。
「このクソ兄貴いいい! またあたしのパンツを盗もうとしてるなあああ!」
ばれたか。
「今日という今日は許さないからね!」
ふふ、面白いな、我が妹よ。
だが、お前のパンツを盗むことに関しては百戦錬磨の俺を、屈服させるには、百年早いんだよ花蓮!
俺は後ろを振り返り、迫りくる華麗な妹へ鋭い眼光を向けた。
愛のカタチは無限大。
ならば、俺たちのこの争いも兄妹愛の一つと言えよう。
これは、妹のパンツを盗もうとする兄と、それを阻止しようとする妹の攻防戦、すなわち『俺と花蓮のおパンツ戦争』の記録である。