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天狗です。

 次の日の朝。

 スーパーの朝市で安く大量の食材をゲットした俺は、それをうんせうんせと家まで運んでいた。

 それにしても暑い。まだ昼前なのに……。早くしないと食料が熱で駄目になってしまうかも。

 そう思って、あと少しの道のりを乗り切ろうと思ったら、

『おーい、灯子さん!』

 上から声をかけられて、驚いた。

 は、俺、ばーちゃんじゃねぇんだけど。

 見上げると、電柱の上に下駄を履いた小さな男の子が立っていた。

 背中に生えた黒い烏のような羽根をバサリと広げて俺の前に降りて来る。

 そして下からまじまじと俺の顔を見て溜息をついた。

『あれ? 灯子さんじゃないじゃん。もう、紛らわしい顔して歩かないでよね!』

「おい、理不尽だろそりゃ。つーか何の用だよ、ばーちゃんなら家にいるけど」

 俺ってばーちゃんに似てるの……? まだ中三だぞ、一四歳だぞ、いや来月で一五になるけども!

 でもそいつは俺が孫だと知って妙に納得したらしい。

『なるほどぉ。だから似てるんだね、お兄さん。孫だったら助けてあげないこともないかな、うん』

 はぁ? 何言ってんの、一人で。

 不思議に思っていると、男の子が胸を張る。羽根が得意げにぶわりと広がる。

『頼んでくれたらソレ、運んであげないこともないよ』

「誰が頼むかっ!」

 なんでそんなに威張るんだよ、これくらい運べるっつの。

 噛み付くように返すと、男の子の目にはみるみるうちに涙が堪っていく。

「え、何、どしたの」

『人が折角親切にしてやってんのに……』

「いやお前、見るからに人じゃないだろ」

『僕っていらない子ぉお!?』

「誰もそんなこと言ってねーだろ!」

 あーもう、面倒くせぇ!

 ひっくひっくとしゃっくりを上げ、泣き出したその子。なだめるには、どうするべきだ?

 ああもう!

「重くて困ってたんだ、もしよかったら運んでくれないか?」

 精一杯、笑顔と優しい声を意識してその子に頼んでみる。

 すると瞬く間に涙が引っ込み、口元には笑みが浮かんだ。

『なーんだ、やっぱり困ってるんじゃん。特別に、運んであげるね!』

 そう言って右手を真上から一気に振り下ろす。その風圧はものすごいものだった。その風の力で荷物を持ち上げ、家へと進める。

「すげぇ……」

 思わず呟くと、男の子の鼻はひょろりと伸びた。

『当たり前でしょ。この天狗の風凛(ふうりん)様にかかったら、こんなことなんでもないよ!』

 あ、やっぱり天狗だったのか。

 家の前まで風凛に荷物を運んでもらい、振り返る。

「ありがとな、たすかっ……」

 た、と言う前に目を剥いた。

 風凛はばたりとアスファルトに倒れ込み、動かなくなった。

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