閃きです。
午後、番台で料理本を眺めていた。
和食に洋食、中華……分厚い本にはたくさんのレシピが詰まっている。
『丁子は何でも食べるわよぉ、きっと』
猫がそう簡単に言ってくるが、どうせなら食べたいものを作ってやりたいじゃないか。うーんと唸りながらまたページを捲る。
栄養のことを考えつつ、カロリー抑えめ、胃もたれしない程度に食べごたえがある料理って、なんだ。
食べるのはばーちゃんだけじゃない。俺も、猫も、きっと氷室も、もしかしたら赤織様も食べる。
皆の要望も少しずつ取り入れて、となるともう頭を抱えるしかない。
なんだか母親が晩ご飯のリクエストを訊きたくなる気もわかる。で、「なんでもいい」って答えるとそれが一番困ると怒られる。
今はそれがとってもよくわかる。
ごめん母さん。これからリクエストはちゃんと言う。だからどうかこの状況に誰か助言をしてくれ。
「うー……」
『何唸ってるのよぅ、うるさいわねぇ』
猫が迷惑そうに眉毛に皺を寄せて振り返った。
いつまでたっても返事をしない俺に呆れたのか、溜息を一つつくと投げやりに言った。
『そんなに悩むなら全部作っちゃえばいいじゃない』
「え?」
『だから、そんなに困るなら作れるもの全部作ってみたらいいじゃなぁい』
………おお! 成る程、その手があったか!
目を輝かせた俺に、余計なことを言ったと思ったのか猫はさっさと昼寝に戻ってしまった。
だが俺はそんなことお構いなし。早速買い出しリストをノートに書き始めた。
そのノートが数学の宿題ノートで、後で大変な事になるなんてことも知らずに。