心配です。
テーブルの上には大皿に乗った大きなチャーハンがある。
各々には取り皿とスプーンとワカメのスープ。
本当なら、これは俺とばーちゃんだけで食べる筈だったのだ。
『わー、美味しそうね! いただきまーす』
つんざくような黄色い声は、俺の正面に座っている雪女の氷室のものだ。
『うん、なかなかじゃない』
鈴が転がるような可愛らしい声で偉そうなことを言うのは、猫だ。もっとも、今は少女の姿であるが。
「そうかい、それはよかったよ」
ばーちゃんも嬉しそうだ。
………って、おい!
「ばーちゃん、こいつら妖怪! いいの、仲良く飯なんか食ってて!」
「食事中に大声出すんじゃないよ、宮ノ佑。あと、立ち上がらないこと」
びしりと厳しいばーちゃんに渋々従う。
「あのね、妖怪だろうが人間だろうが、お腹が空いていたらご飯を食わせてあげるっていうのは常識とかじゃないんだよ。困ってるときはお互い様だよ、よく覚えときな。」
静かにそう言われると、それが正しいような気がしてくる。
しかもなんか年寄りの意見って妙に説得力あるんだよなぁ。
「ほら、宮ノ佑も食べな。早くしないと冷めちまうよ」
「うん」
取り皿に自分の分を取り、スプーンで口に運ぶ。パラパラのご飯がとてもいい感じだ。
「……美味しい」
「そりゃよかった」
ばーちゃんはにっこり笑うと、自分も食べ始める。
でもその取り皿に乗った量は、俺の半分の量もない。
「ばーちゃん、少な過ぎじゃねぇの」
そう言うと、困ったように笑った。
「最近食欲がなくてね。夏バテかねぇ」
はははと笑い飛ばしているが、心配になる。
元気だと言っても、やっぱり年寄りなのに変わりはない。
年寄りは飯の量が少なくなったら終わりだって、何かで見たぞ。
『でももうちょっと食べた方がいいわよ』
『そうねぇ、そのうち倒れるわよぉ』
氷室も猫も、同じことを思っていたようだ。
「ありがとさん。でも……やっぱりやめておくよ」
ばーちゃんの優しい笑顔に、何も言えなかった。