勇者の事情 (第三者視点)
虐待など倫理的によろしくない内容が含まれます。
…書き方が雑になってしまいました。
読みにくかったらすみません…。
佐伯ゆうきはいたって平凡な家庭に生まれ、平凡に生きてきた少年だった。
父親は一流企業に勤めるサラリーマン。
母親は専業主婦。
今は亡き父方の祖父母が住んでいた一軒家。
今時珍しくない核家族。
広い庭があるがペットはいない。
それなりの都会に暮らし、そこそこに整った容貌となんでもそこそこに出来る器用さがある少年。
街中にあふれ返っているような人種だった。
両親の仲は良く、喧嘩しているのを見たことはなかった。
記念日や祝い事は盛大に。
半年に一回の旅行は静かな場所でのんびりと。
世間一般的に見れば、平凡ではあるが理想的ともいえる家庭だ。
だが、それが崩壊した。
ゆうき本人の、何気ない一言で。
「どうして、僕の髪と目は黒くないの?」
両親は日本人として一般的な黒い髪と瞳をしていた。
だが、ゆうきは淡い栗色の髪と灰色の瞳。他人より色素が薄かった。
現代において、多少色素が薄い程度はどうということもない。
突然変異による変色、または隔世遺伝で劣性遺伝子が現れることとてある。…稀ではあるが。
だから、子供の間では気にされることはない。
グローバルな社会だから、どっかで外国の血が入ってる、ということだってなくはないのだ。
だが、大人は違った。
父方の祖父母の家、ということは父親の故郷であり実家、ということだ。
周囲の人達は短くはない付き合いをしてきているだろう。父親の家に、外国の血が入っていないことも理解している。
これで母親の家が遠方、極端に言えば北海道や沖縄ほどに遠ければ問題なかったかもしれない。
しかし、市内の隣街が実家だった。
御近所づきあいの延長で分かってしまう。
隣街なら、中学や高校で知り合った者がいてもおかしくない。
だから、大人達は無責任な言葉を子供がいる公園で言ってしまった。
どちらにもあんな色を持った人はいない。
外国の血が入ってるなんて聞いたことがない。
…よその子をもらってきたんじゃないの…。
母親はこの街でゆうきを産んだ。
近所の人なら誰だって知っているだろう。
だから、最後の言葉は性質の悪い冗談なのかも知れない。
子供にとっては、冗談や噂で済ませられる内容ではないのだけれど。
ゆうきは両親が好きだから、その話を聞いてショックを受けた。
常々疑問には思っていたけれど、自分は両親の子だと思っていた。
だから、否定してほしい気持ちで、何気なさを装って言った。
納得できる理由を聞けば、否定につながるから。
だが、ゆうきの望む答えは返ることがなかった。
両親の顔から笑顔が消える。
親の仇を見るように睨みつけて、父親が煙草を手に出て行った。
母親が、エプロンを握りしめていた手を解いてゆうきにつかみかかって来た。
そこから先を、ゆうきはほとんど理解できなかった。
ただ、首を絞められたことは覚えている。
首を絞められながら、罵倒された言葉を断片的だが覚えている。
お前なんかいなければ良かったのにっ。
お前なんか生むんじゃなかったっ。
お前なんかのせいで…っ。
存在を否定され続ける。
その言葉と声が耳の奥にこだまして、消えなかった。
気絶して、目覚めた時には夜で、両親はいなかった。
体中が痛くて動けず、そのまま眠った。
翌朝になって、世界は一変した。
その理由が分からなかった。
当時、八歳の子供に理解しろという方が無理だった。
以降、両親が笑顔を浮かべることはなかった。事務的なやり取り以外の会話もなくなった。
二人で同じ空間にいることすらほとんどなかった。
たびたび、ゆうきに暴力をふるい、暴言を吐くようになった。
だが、外に出れば以前のように仲の良い家族だった。
痣や傷は服で隠れる場所に。
食事を抜けば目に見えて分かるから三食規則正しく。
周囲に、自分達がゆうきにしていることを悟られないようにするのが、二人は上手かった。
ゆうきは急転直下の事態と心身ともに虐げられる日々に、疲弊していった。
五年間、そんな日々が続いて、中学に上がった。
そこで、ゆうきは自分の出生を知る。同時に、理不尽に対する怒りを覚えた。
クラス担任は、母親の同級生であり友人の女性だった。
ゆうきを見て青ざめた様子に、話を聞かなくてはならない、と思ったゆうきは自分の現状を告げて同情心をあおり、土下座する勢いで懇願することで何とか聞きだした。
ゆうきは、母親が浮気して出来た子供だった。
それだけなら、ゆうきにも何となく予想できていた。
父親の態度と全く違う色彩から、推測は容易だった。
浮気相手は高校の後輩。同時に、父親の後輩でもあった。
そして、父親にとってはただの後輩ではなかった。
父親の異父弟だったのだ。
年の差は十歳もあるという。
父親の両親が離婚したのが、三歳の時だというのだから、別におかしくはないのだろう。
時期がかぶっていたわけでもないので、父親は異父弟の存在と名前しかしらなかった。
母親とは恋人だった時期があったようだが、別れてしまった。
父親の異父弟だとは、ゆうきを妊娠するまで知らなかった。
浮気に至った原因は、ありがちなもの。
クラスと部活の合同同窓会で再会したのだ。
学年は違うが、部活動が一緒だったためだ。
隣県のホテルだったため、一泊して観光し、帰る予定だった。
だが、酒が入り、元恋人。
自然の流れだったのかもしれない。
この一時だけの過ちであれば、何事もなくすんでいただろう。
恋人時代の熱がぶり返しさえしなければ。
そこから不倫が始まった。
関係は二年に及び、ふとしたことで再び破局。
破局事態は良い。問題はない。
その後、妊娠が発覚しなければ。
母親は元々、生理不順で半年近く来ない時もあった。
産婦人科にかかっていたくらいだ。
長く空いても二ヶ月に一度は必ず来るようになっていたから、検診を怠っていた。
五ヶ月も来ず、またかと思って病院に行った母親に、下された診断結果は妊娠の二文字。
父親とはちゃんと夫婦だったのだから、そちらとの子だと普通なら思えただろう。
妊娠したであろう時期の前後、父親が二ヶ月の出張で家を出ていなければ。
生まれてしまえば違うことが分かっても、出張の事実さえなければ何とかごまかせただろう。
ごまかすことさえ、出来なかった。
しかも、堕胎できる時期を過ぎていた。
父親の罵倒と詰問に耐えられず、泣きわめいた母親が浮気相手の名前をこぼした。
そこで、母親は初めて父親の異父弟であることに気付いた。
全ての元凶は母親だ。
父親は被害者、しかも、伴侶と弟に裏切られる、という二重苦だ。
担任は母親の相談や愚痴に乗っていたらしい。
高校も部活も同じで、浮気相手とも交流があった。
その為、のぞまなくともいさかいに巻き込まれたのだろう。
立場的には同情できなくもないが、ゆうきにとってはどうでもよかった。
授業も何もかも頭から抜け落ちた。
そのまま学校を飛び出して、ゆうきは家にいる母親を罵倒するために帰った。
あまりにも理不尽だったからだ。
ゆうきは悪くなかった。
暴力を振るわれる理由も、暴言を吐かれる理由も、何もかも、原因は母親だ。
今まで、顔色をうかがって、暴力に耐えて、怯えて、新信をすり減らしていた原因は母親だ。
罵倒するぐらい、許されるだろう。
思いの丈の全てをぶつければ、青ざめて震える母親。
殴ったりはしなかった。
それでは両親と同じになってしまうから。
帰ってきた父親は、ゆうきが全てを知ったことを知り、問答無用で遠方の一軒家に連れて行った。
出てきたのは、小学校低学年の女の子。ゆうきと、同じ色彩だった。
ついで、女の子が「パパ」と呼んだ男性。
色彩だけではなく、顔立ちまでもゆうきとそっくりだった。
男性は父親を見て眉間にしわを寄せ、ゆうきを見て瞳を見開いた後、忌々しそうに視線をそらして女の子を家の中に入れた。
挨拶も名乗りもなく、視線を向けるだけで玄関を閉めながら男性は父親に吐き捨てた。
「ソレ、要らないから。好きにすれば」
何が何だか分からないゆうきをそのままに、父親は一人で帰ってしまう。
置き去りにされたゆうきは、働かない思考のまま、視線を下げる。
表札に刻まれた家族の名前。
家主であろう男性の名前が一番最初に刻まれていた。
『 神崎 裕樹 』
読みが合っているのかは分からない。
だが、どちらにしろ、それが由来だろうことは理解した。
実母、実父、義父、親と呼べる立場の全てに存在を否定され、不要と切り捨てられたゆうきは、この時から人に尽くすようになった。
絶望するのではなく、自暴自棄になるのではなく、誰かに必要とされたいと思うようになった。
要らない、と言われるのが怖かった。
だから、誰かの願いをかなえるようになった。
影で八方美人、便利屋、と揶揄されても名前を呼ばれて頼まれることが嬉しかった。
だから、勇者として召喚されて、跪かれて懇願された。
それを、断るなんてできなかった。
たとえ、それが戦うことであったとしても…。
不憫な人、その二。その一はベアトリーチェ。
何も悪くない人です。
ただのバカにしようかと思ってたんですけどねぇ…。
どうやって書いたらバカになるんだろうと悩んだ結果です。
書けなかったんです…。
ちなみに、両親が離婚しないのは世間体のため。




