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マジで大陸制覇… (?おぅ…?byゲオルグ)

 ラーガンディの婚姻政策は、いつも上手く行っていたわけではない。

 生まれた瞬間から決められたそれに反発する者とて多かった。

 元々が武闘民族と言われるくらい戦闘力が高く気性の荒い部族ばかりだ。内乱になりかけたことだって一度や二度じゃない。

 治まったのは、公然の秘密という形で愛妾を持ち、その子を後継者にすることが暗黙の了解になったからだ。

 嫁がされる娘にとったら悔しいだろうが、残念なことに南方の部族では明確な男尊女卑がまかり通っていた。

 それゆえ、政策の為に必要な子(主に娘)を生ませるためだけの道具でしかなかったとしても、彼女達には文句を言うことができなかった。

 何より、彼女達の父もそういう風にしてきたのだし、夫となる者もそういう風習の親の下で育ったのだから、文句を言うのはお門違いだったのだ。

 一部は、夫婦仲が上手く行った者達もいたが。


 そんな内情はどうであれ、問題がありつつも婚姻政策は途切れることなく廃止案が出ることもなく受け継がれていた。

 現代においても、それはまかり通っていたのだ。

 そういうものだから、ということで誰もが納得していた。

 十三年前、ゲオルグの元に双子の息子が生まれた時に落胆はあったものの、同時期、ゲオルグの弟の所に娘が生まれていたため誰もが安堵した。

 ベアトリーチェのところには十年以上も前に跡取り息子が生まれていたから、どうしても娘が必要だったのだ。

 長の娘ではないが、養女にしてしまえば問題はない。

 何より、ゲオルグの両親は珍しく夫婦仲が上手く行った部類であり、ゲオルグと弟は同腹だった。

 血の薄さ云々は問題にならない。


 元より、ベアトリーチェは中継ぎでしかなかったため、戦士としてどれほど有能であろうともこの政策に口を挟むことができなかった。

 本来、ベアトリーチェの弟が代表であり、その妻は配下にある小部族長の娘だった。ゲオルグに妹も姉もいなかったためだ。これは仕方ない。


 だが、ベアトリーチェの弟は娘が生まれた翌年、夫婦揃って事故死してしまった。

 その頃には、ベアトリーチェは北から婿をもらい、すでに息子を生んでいた。

 嫁に出す娘はいるが、息子はいない。

 重鎮たちがどういう結論を出すのかなんてわかりきっていた。

 典型的な政略結婚ゆえの夫婦だったため、ベアトリーチェと弟は異腹だった。

 その為、発言権も実権もほぼないが。

 ベアトリーチェ自身の武力や才覚は西方随一であったため、徐々にその権力は重鎮達と拮抗するようになった。


 年の頃を考えて北に嫁に行ったのがベアトリーチェの異母妹であったため、ベアトリーチェはかなり厳しい立場(いわゆる役立たず、ごく潰し)だった。婿をもらい、独立させてくれただけ良かったと思うべきだろう。

 そんな風だったから、ベアトリーチェはこの政策が嫌いだった。だが、拮抗するようになったとはいえ重要時には関われないし口出しできない。

 だから、仕方ないと言わんばかりにゲオルグの姪を自分の息子の妻にしてやろう、と思ったのだ。年齢が十四も離れてようが、政略なんだから向こうが我慢しろ、とばかりに。



 正直なのか、会談の内容までざっくりとだが告げるゲオルグの言葉に、これキレてもいいよね、と思ったのが誰かなど言わずもがなだろう…。


















 …ババァの都合は分かったけど、貴方の都合は?


「おぅ。実はな、ベアトリーチェの弟…ホラティオってんだが、そいつと北と東、つまり代表者会議で婚姻政策はなしにしようってことになってなぁ」


「はぁ?! なんだい、それっ! 聞いてないよ!」


「話す機会がなかったんだっ。いいから黙ってろ!!」


 寝耳に水な情報で驚くのは分かるけど、ちょっと黙っててほしいな。


 …お、静かになった。ん? なんでゲオルグ様まで黙るんです?


「い、いや…」


 はぁ…ふふ、誰が黒いって? リオン。何でもない? あぁ、そう。


「…まぁ、つまり、政策を始めて二百年。血のつながりも濃くなってきたし、小競り合いはあってももう仲間意識の方が強いからな。政策に縛られて、女達に望まぬことを強いるのはどうかという意見が出て来たんだ」


 …強いられてきた女性達にすれば今さらって感じもしますが、まぁ、いいんじゃないでしょうか。


「おぅ。だが、その矢先にホラティオが死んじまってな。その葬儀やらベアトリーチェへの代替わりやらで話が宙に浮いてるうちに、嫁と義妹が妊娠してな。…弟はホラティオと同じ事故で死んじまってて、義妹の精神が不安定でな…」


 なるほど。

 ババァは権限を握るのに奔走し、ゲオルグ様は一族内のごたごたでその議案に関われず、代表者のうち半数が一族内で必死なのでほか二人も議案を保留にしていた、ということですか。


「そういうこった。で、言ったとおり、オレには双子の息子が生まれ、義妹は娘を産んだ。それがリオンだ」


 関係性は分かりました。

 その話ですと、リオンは政策が存在している時点では必要な存在でしょう? どうして、ここに?

 それに、預けたとおっしゃってましたけど…。


「…この政策は二百年続いてる。当然と思っちまってる奴が多いんだ。それをどうにかするには、現状の事実を使うのが手っとりばぇんだ」


 つまり…?


「北と東は政略とはいえ無碍にはできん、と言って妾は持ってねぇ。オレは嫁に不満はねぇ。だから、ガキ自体がすくねぇんだ。その上、全員息子だ」


 政策の条件を満たして、果たすことができるのは現状、南と西だけなんですね?


「そういうこった。リオンが生まれなきゃよかったとか言ってんじゃねぇ。オレも嫁も娘のように思ってる。だが、オレが養女にして西にやったら、北と東も同じようにすりゃ良いって周りが言いだしかねねぇ。そうなると、オレ達の代で政策をやめるってのは難しくなるんだ」


 …なるほど、納得です。


 息子達しかいないんだったら、政策に無理が出始めてるって言いだせる。

 四つのうち一つにしか娘がいなくても、同様。でも、ゲオルグ様がリオンを養女にして嫁がせてしまえば、北と東も近い血筋の娘を養女にして、と考えるのは自明の理だ。


 おそらく、けして恋愛感情からではなく親愛と契約で結ばれた嫁を思ったが故の意見なんでしょうね。


 …で、そこで間抜け面してるババァは政策を受け入れてる、と。


「おう。ベアトリーチェ達がうるさく言ってくるからよ、ひとまずリオンをどこかに預けといてその間に解決しようってことになってな。ラーガンディじゃダメだ。友好的な国でもダメだ。あまり国交がなく、治安が良くて大丈夫そうなところ。それで選んだのが賢者殿、あんただ。……自分勝手で酷いことしてるとは分かってんだが。オレ達は頭使うのは苦手でなぁ…」


 まぁ、確かに自分勝手ですが…。

 その展開で、預けたというとヒートアップしそうですから、さらわれた、行方が分からない、ということにしたんですか?


「そういうこった」


 なるほど……それでババァの最初の言葉に至る、と。

 それ、来る前に説明したんですか?


「した」


 なのに、あれ?


「思いこんだら一直線、というか自分が納得したことを覆すことができん奴でなぁ…」


 めんどくせぇ…。


 まぁ、いいです。

 で、来た、ということは国内は何とかなったんですか?


「ベアトリーチェ以外の奴らには根回し済みだ。北と東がうまく立ち回ってくれるさ」


 あぁ、迎えに来るというのはババァを引き離す一環もあったんですね。


「そのままおいといたら、確実に邪魔になるからな」


 …朗らかにひどいですね。同感ですが。


 って、そろそろ爆発しそうだな。まぁ、無理もないよね。

 ここまでないがしろにされて、無視されてたら…。

 でも、ゲオルグ様達の行動もしょうがない気がするんだよねぇ。


「…アタシは代表だろう」


「中継ぎだがな」


「そうだったとしても、何でアタシを除け者にするんだい! あんた達も、結局クソ親父と同じかっ」


「おめぇのところのクソ親父と一緒にすんじゃねぇよ。おめぇがまともだったら除け者にしやしねぇってんだ」


「人を狂人みたいにっ!!」


「そうじゃねぇが、似たようなもんだろうが。おめぇ、ホラティオの話すらまともに聞いてなかっただろうが」


「…は?」


「ホラティオが苦笑して弟に愚痴ってたぞ。自分より長になるべきだったのは姉貴だ。血筋ってだけで役立たずとか言われてるのは納得いかん。親父も悪い。最後まで姉貴を娘として扱わなかった。それでひねくれちまった。最近では、オレの話も聞いてくれん。昔はもっといろいろと相談出来たのになぁ…。あいつ、政策廃止に関しておめぇに意見を求めようとしたらしいじゃねぇか。弟が頼って来たってのにまともにきかねぇ奴に、大事な話をするわけねぇだろうが」


 …私情も多分に混じってるけど、まぁ、おおむね納得できるわね。

 身内の言葉すらまともに聞けない人に、国家政策の話はできないわ。

 まして、中継ぎでしかないんなら、なおさらだし。


 睨まないでよ、自業自得でしょ。


「それに、廃止するって言いだしたのはホラティオだ。この政策で姉貴は辛い思いをしたって言ってな」


 …何それ。

 弟の心姉知らず、てやつ?

 うわぁ、ババァ、酷い…。


「おめぇ、どっかで思ってただろう。自分がつらい思いをしたんだ、他の奴も同じ目に逢えばいい、逢ったところで同情なんかしない、てな。嫁と義妹が怒髪天付いてたぞ。戦いは門外漢のあいつらが、おめぇの心情を悟るほど、あからさまだったんだよ」


 …国家元首としては致命的ね。

 ついでに、女として嫌だわ。友達いないでしょ。


 …あ、図星?

 良く旦那は逃げないわね。

 え? 旦那も事故で亡くなってんの?

 かなり大きな事故だったの?

 ……山津波、かぁ。大変だ…。


「おめぇに話さなかった理由は分かったな? 分かったらもう黙ってろ。帰ったら代表はおめぇの息子になってっから」


 あ、息子も味方ですか。


「おう。何しろ、ベアトリーチェの息子は従妹…ホラティオの娘と相思相愛だからな。今までみたいに妾にも出来やしねぇ。だから乗ったんだ」


 ……愛の力は偉大だ…。


 なるほど。納得いきました。

 このめんどくさいクソババァと一緒に来た理由も分かりました。

 で、最後に一つ、質問があります。


「何だ?」


 リオンをどうするつもりですか。


「…なぁ、賢者殿」


 はい。


「オレらはもうそろそろ限界だと思ってんだ。周辺と仲良くやっちゃぁいるが、内輪だけでどうにもなりゃぁしねぇと思ってんだ」


 つまり…?


「いずれは戻ってきてほしいと思ってる。いや、リオンと賢者殿の感覚なら、オレらの所に行くって感じだろうなぁ。多くの国とかかわりを持って、その縁という力を手にした『王』の存在をオレらは待ってんだ」


 …リオンを、女王として立て、ラーガンディを名実ともに一つの国にしよう、と?


「今の協議制は残したままで、な。公平性を保つなら、リオンの旦那は国外の人間が良い。東西の同盟の中核であるゲンデルの子息なら最上だが、それはそっちにまかせる。王になるかも、だ」


 それを拒んだら?


「どうもしねぇ。こっちの勝手でほっぽりだしちまったんだ。今さら口出しはできねぇよ。今言ったのはオレらの願望であり、一つの懸案事項だ」


 分かりました。


 すべてはリオン次第、ということですね。
























 で、これから同盟結びに行くんですよね?


 …いや、分かりますよ。

 東と西の方々もそうでしたから。

 根回しも出来てるんでしょうね…。











 なんか、マジで大陸制覇になりかかってんだけど……。


「? おぅ…?」


 あ、お気になさらず…。








 案の定、翌日にはラーガンディとの同盟が締結されて、ゲオルグ様の次男(婿に出すのを考慮して)が来るらしい…。


 呆れるしかないよね、もう…。






ベアトリーチェは、別にいらなかったんですけどね…。

説明が長いですね。すみません。

以下、ラーガンディの説明。




ラーガンディ

ゲンデルとは国を三つ挟み、さらに砂漠がある。

南方連合、というように東西南北の地方に分割され、その代表達の協議によって政治が行われている。

東は山岳地帯。西は草原地帯。南は海洋地域。北は砂漠と鉱山地帯。

男尊女卑。女は戦士以外認められず、戦士でもかなり厳しい。

良き妻良き母になることだけを望まれる。

最近では地位向上が目指されている。名目だけとはいえ代表になったベアトリーチェの存在が大きい。けして不要な存在ではない。

各代表 ↓

東:オイゲン=ダーレン 四八歳

西:ベアトリーチェ=ノーグ 五二歳(実は最年長)

南:ゲオルグ=ジェラルディオン 四二歳(実は最年少)

北:イザーク=ドゥオルギス 四七歳


…客観的に見れば、ベアトリーチェはかなり不憫です。

最終的に息子にも裏切られている、て言う…。

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