無様…(若干黒くなったね、キョウ by母)
パールおじさんが怒り狂ってるのが離れてても分かりますね。普段が穏やかな分、かなり怖いです。
「我が国は独立国家。貴方方にとやかく言われる理由はないんですよ。賢者だろうが堕ちた魔導師だろうが、貴方達には関係ないでしょう」
…なんともごもっともです。
どう考えても、グランド側の言い分は無茶苦茶ですもんねぇ。
独立国家への内政干渉ですよね、これ。
大国でも非難は免れませんよ。
「それに、貴方方がおっしゃる王子などここにはおりません。いるのは、賢者の御長男であり息子達の友人です。勘違いと理不尽と身勝手、恥を知らずも甚だしい」
丁寧な言葉遣いですけどかなり厳しいですよ、パールおじさん。
「勇者とかおっしゃいましたが、言うことを聞かない小国を無理やりに従属させてどれほどの怒りと恨みが向けられているか貴方はご存知ですか? 無垢は愛おしいですが、無知は時に害悪ですよ」
もう勇者もどきが無知だって言ってますよね。僕もそう思いましたけど。
「もどきって言ってるあんたも相当だけどね。というか、何時の間に戻って来たの」
今です。勇者とかのくだりからです。
「…本当に今ね。まぁ、良いか」
はい。これからどうするんでしょうかね?
「どっちが?」
当然グランドです。パールおじさんのことは心配していません。
「そりゃそうか」
あ、なんか言おうとしてますよ。
「…都市長殿は何か勘違いをしておられます。友好を求めたグランドに反発して武力を向けたのは相手で…」
「後継者である唯一の王女を王の側室、しかも末端に差し出せと要求すればどの国とて反発するでしょう。友好を取り交わす手っ取り早い行為は政略結婚ですが、相手の国情を慮らない要求など友好ではなく脅迫でしかありません。他の国々も理解していますよ。グランドへの、そして、勇者である貴方への感情は非常に悪い。相手が人である以上、考え方も事情も違うのです。それを慮ることのできない者の言葉など、路傍の石ほどの価値もない。石の方がよっぽど価値がありますよ。漬物石にしたり鈍器にしたりとか」
若干バカにしてかかってますね。
バカですけど。
「救いようがないのは事実だから、良いんじゃない? パールは間違ってないわよ」
そうですね。
…パールおじさん、格好いいです。
「普段はへたれだからね。差が激しい分、より良く見えるんでしょ」
母さん…。
「ひとまず、貴方方は自分勝手な論理で攻めてきた悪意の侵略者でしかない。他国は貴方方を非難するでしょう。それを武力で抑え込めば、さらなる恨みと怒りが生まれます。…いい加減に自重なさるべきですよ、グランドの方々。貴方方の欲望の為に、無用な血が流れるのを他国はいとっています」
「ふざけたことを! 我らは間違ってなどいない」
将軍、図星を突かれてキレたんですかね?
「多分ね。勇者は困惑して右往左往って感じね」
単純馬鹿なんでしょうかね。あっさりと騙されて…。
「単細胞なだけでしょう」
自分で考えるってことを知らないんですね、きっと。
「やってることも自覚してないんじゃない? 人を、命を奪うってこと」
…最悪ですね。
自覚のない者に傷つけられた人達が、哀れです。
「そうね。キョウ」
はい。
「あんたは、自分がすべきことを理解してる? どうするかもう決めてる?」
…もちろんです。
僕は自分が賢いとは思いませんが、バカではないつもりです。あんなのと同じ分類になるのは嫌ですし。
「なら、行っておいで」
はい。
「…あんたは、私の息子よ」
…もちろんです、母さん。
僕の親は貴方だけですから。
醜い主張を繰り返すグランドの将軍に、パールおじさんは淡々と返す。
どこまでも正論で、グランドに勝ち目などないのに、諦めの悪い人達です。
そっとピアスを外して、勇者に向かって投げつけ、言えばそれで終わりです。
「これで、グランドの王子の存在はゲンデルから消えました。さっさとお帰り下さい」
証である虹水晶のピアスは勇者の手の中。
僕が持っていない以上、僕がそうであるという主張はもうできません。
僕の言葉に、パールおじさんと住民の方々が満足げにうなずいてくれました。
何かを言おうとする将軍は、僕の言葉に顔を青ざめて黙り込んでしまいました。
当然ですよね。
僕が持っていたから、行方不明の王子と同い年だから、僕を王子と断定して母さんを悪者に出来たんですから。
その最大の証と理由が僕の手から離れた以上、僕を王子だと主張することは出来ず、母さんを悪者にはできません。
母さんを賢者と呼ぼうがどうしようが、それはゲンデルの人達の勝手なんだから他国の人がとやかく言う権利はありません。
僕という最大理由と盾を失った以上、グランドがこれ以上ゲンデルに何かをすれば、一方的な内政干渉と侵略でしかありません。
形ばかりといえども戦争を起こす理由を作って来たグランドにとって、このままゲンデルに手をかけることはできないですから。
何も言えなくなった将軍と勇者が、ぐちぐちと言い訳と捨て台詞を置いて去っていくのは、無様の一言です。
簡単に片のつくことでしたが、現実問題を叩きつけるのにはいい機会でしたよね。
バカな人達ですよね…。特に勇者が。