まずは人生放棄
神崎真佳、十七歳の高校二年生。
家族は総合病院の院長をしている父と専業主婦の母、跡取りで名門医大生の兄と有名国立大学法学部生の姉の五人家族。
エリート思考で成績優秀でないと家族と認めず、一番でないと許さない。
そんなあほらしくもありがちな家庭に育った末っ子。
もちろん、家庭は冷え切っていて、世間体のためだけに作り上げられた幸せ家族。
その中で、公立高校に入学して成績平凡、友達いない、は嘲笑と侮蔑の対象。
この人生を幸せだと思える人間は、人間じゃない。
はっきり言って、そろそろ限界。逃げたい。いっそ自殺してでも逃げ出したい。
追い詰められた時に起こったのは、医療ミスで家族を失った男による一家殺害。
修学旅行で家にいなかった末っ子は助かった。
だが、待っていたのはマスコミの取材と猜疑の眼。
末っ子が虐げられていたのは、いくら上辺を取り繕っていても近所には筒抜け。
それはマスコミにとって格好のえさ。
末っ子が修学旅行中を狙って男と共謀し、家族を殺害。
真っ赤な嘘が雑誌の表紙を飾り、近所が噂に尾ひれをつけて拡大。
家族から解放されれば、やってもいないことで世間からバッシングを受ける。
はっきり言おう。
もう嫌だ。
人生自体が嫌だ。
莫大な遺産もいらない。
欲しいのは自由であり、安心。
次の人生では、平凡で自由で穏やかで温かい家庭に生まれますように。
そう思い、高層ビルの屋上から飛び降りた。
飛び降りた………はずだった。
気がつけば、壮麗な装飾の施された神殿の中央、世界最小国の法王が来ているような衣服をまとった神官(っぽい人)に囲まれていた。
それが二十年前。
神崎真佳、改め、サナカ=オルフィオーレ=カンザキ。現在は、ゲンデルの魔女。
この世界に召喚された経緯(召喚した側の経緯なんて知らない)である。
……全然、平凡でも自由でも穏やかでも温かい家庭でもないじゃんッ!!