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第二次スーパー図書室サイレントウォーズ

俺はまた図書室に来ていた。目標は勿論、勉強するためだ。

そして前回程ではないが、相変わらず席はあまり空いていない。

俺の通うここ、如月高校はそれなりの進学校ということもあって、授業が終わっても残って勉強する人は多いのだ。

俺も勉強するようになってから初めて気付いた事実だった。


空席はないかと周囲を見渡すと、以前ノートを見せてくれた彼女の隣に一つ。

偶然とはあるものだ、と思った。


「こんにちは、押花さん。ここ、いいかな」

「……は、はい。どうぞ」


俺はその席に座った。

参考書とノートを広げ、問題を解きながらも、俺は別のことについて考えていた。

当初俺は読書で知識を高めることを目標としていながら、まだその分野に手を付けていないのだ。

会話の柔軟さとか、ユーモアセンスを磨くことにも繋がる大切なことだ。

そして、ここはおあつらえ向きなことに図書室である。何か本を借りるなりするのもいいかもしれない。

だが、自慢じゃないが俺は本というものに詳しくはない。

せいぜい漫画くらいしか読んだことのない男だ。不甲斐ない。

やりきれない悩みを抱えながら、勉強を進めていく。


しばらくそうして問題を解いているうちに、また今日も視線を感じた。

隣に座っている押花さんからだ。

目が合う。今日は前と違ってすぐには視線を逸らされなかった。

ふと思いついた。考えても解らないことは、詳しい人に教えてもらえばいいのではないか。勉強を押花さんにノートで教えてもらった時や、ケロビンから身だしなみについて学んでいるように。

押花さんは、いかにも読書に詳しそうな人だ。


「あの、押花さん。ちょっといいかな」

「は、はい。なんでしょう」

「なんと言ったらいいかな……。俺、読書を始めたいんだ。でもどんな本を読めばいいのかわからなくて。よかったら、オススメの本とか、教えてもらえないかな」


ほとんど知らない人を相手に頼みごととは、自分で言っておいてなんだが、図々しい気はする。

だが仕方がない。

俺は赤嶺さんに相応しい男になる為に努力を惜しまない所存なのだ。

それに、できるだけ紳士的に聞いたつもりだ。


「……はい。月島さんは、普段、本を読まないのですね?」

「ああ。だからどこから手を付けていいかなって。押花さんは俺と違って詳しそうだから、なにか良い本、知らないか?」

「はい。そうですね」


静かに頷いて、押花さんは鞄から何冊もの本を取り出した。

堅苦しそうな本から表紙に漫画チックなイラストがあるもの、いろんなジャンルの本。

ふとした疑問が湧く。


「……こんなにたくさんの本、鞄に入れて持ち運ぶのは重くないか?」


思わず聞くと、彼女は俯いて小さな声で答えた。


「……わたくし、教科書とか、全部学校に置きっぱなしですから。はい」


成る程。確かに毎日の教科書はそれなりに重い。

あれがなければ重量には結構な余裕ができる。

併せて考えるが、家での勉強は参考書か何かを使っているのだろう。

そうでなければ、あれだけわかりやすく問題の解法をノートに記したりはできない。


たくさんの本の中から、押花さんは一冊、薄い文庫サイズのものを手に取る。

表紙は長い黒髪で、セーラー服を着た女性が描かれている。

どことなく赤嶺さんに似ているな、と思った。

表題は『スカーレットメロディ』。


「これは、ライトノベルと言われるものです。本を普段、あまり読まない方なら、こういった読みやすいものから、始めては、いかがでしょうか」

「そうか。ありがとう」


タイトルをメモする。ライトノベル、スカーレットメロディ、か。

この図書室にはこういった表紙タイプの本は置いていないので、後で本屋に寄って買おう。

そうして会話は終わり、俺はまた勉強に集中する。いや、そうしようとした。


つつっ、と俺の席の方に、ライトノベルが寄せられる。

初めてこの図書館で勉強したとき、ノートが寄せられたように。

俺は押花さんの方を見た。

目線を下に逸らし、うつむきながら、左手で本を俺の方に押していた。


「もしかして、貸してくれるのか?」

「……は、はい。もし、よろしければ、どうぞ」

「ありがとう。本当に助かる」

「い、いえ、お礼なんて、結構ですから」


そう言うと、彼女は自分の持っている小説を開いて、読み始めた。

目元の横の、整えられた艶やかな黒髪が、さらり、と揺れた。


俺も教科書とノートをしまい、彼女の貸してくれた小説を開く。

最初のカラーページに絵でキャラクターの簡単な説明があり、それから本編だ。

成る程。ライトノベルってのはこういうものか。

けれん味を効かせたキャラクター性と、軽快な文章で物語は進んでいく。

主人公の女性の性格はその中では大人しい、というか大人びた余裕を持っていて、常識的な印象なのに、話の中心にはいつも彼女がいて、誰よりも魅力的だった。

俺はなんとなく赤嶺さんをその主人公に重ねながら読んでいった。

なんといっても容姿が似ているし、立ち振る舞いもそっくりだったからだ。

俺は次第にその小説の内容に引きこまれていった。


読み終わらないうちに、下校時間になってしまった。時間切れだ。

俺が読み慣れていないからかもしれないが、小説は結構な時間がかかるものだった。

まだ百ページとちょっと。半分程度も読めていない。

人影はなくなり、昨日同様、司書らしき人を除けば俺と押花さんだけになってしまった。

いや、今日は俺が本を借りて読んでいたから、押花さんは帰るに帰れなかっただけかもしれない。

だとしたら悪いことをした。反省せねば。


「ごめん、押花さん。こんな時間まで残らせてしまったかな」

「いいえ、わたくし、その、そんなこと、ないです」

「この本も返さないと。まだ読み終わってなくて残念だけど」

「いいえっ、よろしければ、ですけど。読み終わるまで、貸します、よ……?」

「そりゃあ俺は助かるけど、押花さんはそれでいいのか?」

「は、はいっ」

「そうか。じゃあ、必ずすぐ読む。そうだな、明日の昼休みには、返す。約束する」

「……はいっ!」


ここで俺は、今更ながらに押花さんの学年もクラスも知らないことに気付いた。

しまった。ずっとタメ口だったけど、先輩だったらどうしよう。というか俺は一年生だから、確率的に三分の二で先輩だ。

そして俺もまだ自分のクラスを相手に伝えてない。

もしかしたら俺、先輩だと思われていたんじゃないか。

最悪のケースは、押花さんが二年生で、俺のことを三年生だと勘違いしている場合だ。

これはとんだ失態だ。


「……まだ聞いてなかったけど、学年とクラス、どこかな。俺は一年三組なんだけど」

「一年、一組です。はい」


よかった。悲劇は回避された。同学年だったか。

そして、赤嶺さんと同じクラスか。知り合いだったりするのか少し気になった。


(作者言 押花可憐の生半可な少女では真似できない女子力に、結構な男子力を持つ真司が立ち向かう。図書館少女系ヒロインと主人公の会話って、なんか剣豪同士の立ち会いみたいなところありますよね。え、ない? ……次回は健康少女再登場です)


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