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図書室サイレントウォーズ

授業が終わり、放課後。

俺は初めて自分の学校の図書室を利用する。エアコンが効いていて、勉強するのにはちょうどよさそうだった。

だが、空いている席がない。

結構な数の人が利用しており、相席どころか座れるかどうか、ということになりそうだ。

そんな図書室だが、じっくり探すと、一人の女の子が本を読んでいる机があった。

彼女の隣の椅子には、誰も座っていない。

黒髪の、おかっぱをちょっとだけ自然に伸ばしたような、なんて言うんだろうな、あの髪型。

とにかく、清楚そうな、いかにも図書室で本を読んでいそうな子だった。


「ここ、いいかな」

「えっ、あ、はい。大丈夫だと思います」


座ってから気付いたが、知らない女の子の隣に座るのって結構緊張するな……。

いや、今の俺はその程度の苦難でくじけたりはしない。

赤嶺さんに相応しい男になるために、勉強を頑張る。

とりあえず今日の授業の復習に、教科書とノートを広げる。

……隣の女の子が、ちらちらと俺を見ているような気がするのは、俺の自意識過剰であろうか。

いや、確実に見られている。もうチラ見を越えて凝視されている。


「……あの、何か用でも」

「い、いえっ! なんでもないんです、はい」


そう言うと、女の子は手に持った小説に目を落とした。

彼女も、知らない男が隣に座って緊張しているのかもしれない。

いろんな意味で気が散るが、とにかく勉強だ。

暗記すべきところは一日一回目を通すくらいでいいだろう。何日も繰り返せばいずれ覚える。

それよりも数学の応用問題などが大変だ。

解けない問題は参考書を使うわけだが、それでも難しいものは難しい。


……困った。ある程度進めたら、どうしても解けない問題にぶつかってしまった。

ああでもない、こうでもないとシャーペンをはしらせ、消しゴムで消す。時間だけが過ぎてゆく。

ふと、俺のノートの横に、ノートが寄せられた。

隣の女の子のものだ。


「……ん?」


内容がちらっと見えた。

プライバシーに触れることで少し悪いと思いながらも、見た。

そこに書いてあるものは俺が今解いているものと同じ問題であることに気が付いた

解答まで導き出されている。


目線を彼女に向ける。

一瞬だけ目が合い、そしてすごい勢いで逸らされた。

結構大きめな、印象的な瞳だった。

頭の小ささがそれを強調していた。

……今、俺を見ていたのか?

さっきまで彼女は小説を読んでいたはずなのに、今は机にはノートと文房具が並べられている。


「あの、もしかしてこのノート、俺のために?」

「……あ、いえ。……あ、はい!」


どっちだろう。

ちょっと俺にはレベルの高すぎる会話だ。


「見せてもらってもいいかな。俺、この問題わかんなくてさ」

「……は、はい」


消え入りそうな声だが、確かに肯定だった。


「そうか。ありがとう」

「は、はい。どうぞ」


彼女のノートは可愛い丸文字だったが、内容は几帳面なほどに細かく、注釈がそこかしこに入っており、理解しやすかった。

本当にありがたい。

その問題を解いてからは、特に何も問題なく勉強は進んだ。


そして、下校時間が近付いてきた。

人影もだんだんまばらになり、やがて図書室には、俺と彼女と、図書委員らしき、カウンター席に座っている人だけになった。


「さっきは本当にありがとう。助かった」

「……はい」

「お礼にジュースでも奢るよ」

「は、はい。い、いいえ、いいえ、いいです。そんな」

「……そ、そうか」


そんなに否定しなくても、と思ったが、確かに初対面の男からジュースを奢られるというのもおかしな話なのかもしれない。

彼女は見た目通りの、奥ゆかしい性格なのだろう。

そんな彼女の意思を無視して強引に何かを奢るのもそれはそれで暴力的というか、なんだか悪い気がするな。

なんとなくバツの悪い思いをしながら席を立つ。


「じゃあ、またな」

「あ、あの!」


今までで一番大きい声で、彼女が俺を呼び止めた。

正直、ちょっと驚いた。


「な、なんだ?」

「……名前」

「あ、ああ。悪かった。そういや俺、まだ名乗ってなかったな。月島真司だ」

「……わたくし、押花可憐、です。はい」

「ああ、覚えた。じゃあ、今度こそ、またな」

「……はい!」


今後も図書室には通うつもりだ。また会うことも、あるだろう。

できるだけ良い印象を与えるように、笑顔で別れを告げた。



(作者言 ジュースを奢ってやろう。こういう図書館少女って内面見えそうで見えないっていうか、チラリズムみたいなところが好きです。精神的な意味でですよ。そして次回はようやくメインヒロイン回です)


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