ランナーズボーイ・ミーツ・ガール!
ロードワークを始めた初日。
ただ走るだけのことがこんなに苦しいとは思わなかった。
俺は運動部ではない。
体育だってそんなに得意ではないし、マラソンは特に苦手分野だ。
走りながら、何度か挫折しかけた。
とりあえず二時間走ろう、なんて決めなければ良かったと後悔する。
いや、しかし、この程度でくじけてどうする俺!
俺は赤嶺さんに釣り合うために、なによりも心が強くなくてはならないのだ!
息を乱しながらも走り続ける!
「ねえキミ、そんな走り方じゃ、怪我しちゃうよ」
俺のことだろうか。快活そうな声が響く。
声のした方向に顔を向けると、端正な顔立ちの少女が俺を見ていた。
ショートカットの黒髪、日に焼けた健康的な肌。
化粧っけは全くないが、愛嬌のある目鼻立ちをしている。
運動しているからか、赤くなった頬が妙に印象的だった。
俺は爽やかに返事を返そうとした。
見事に失敗した。
「ゼヒュッ、俺に、ゴフフッ! なに、か、ゲホヒュルゥバァッ」
「いや、落ち着いて。突然止まらず、ゆっくり歩きながら深呼吸するといいよ。朝からこんな死にそうになってる人初めて見たよ」
言われたとおり、歩きながら深呼吸する。
呼吸困難でそれすらおぼつかない。
はっきり言って、今の俺はそうとうダサい自信がある。
「……で、なんだって?」
「うん、結構回復早いね。でも君、ロードワーク初心者でしょ? そんな走り方してたら、足首痛めちゃうよ。最初はもっとゆっくり走るよう意識しないと。それに、シューズもその普通の靴じゃなくて、ちゃんとしたスポーツ用のものを使った方がいいね」
「そうか。忠告ありがとう。時に、君は毎日走っているのか?」
「うん! ボク、走るのが好きなんだ」
「……実は俺は、走るのが嫌いになりそうだったんだ。君に会えて、良かった」
いや、ほんとに。
ジョギングがこんなにキツイとは知らなかった。
快活そうな彼女を見ると、その辛い運動も、不思議と楽しそうに思えてくる。
「それはどうも。キミ、名前は?」
「月島慎司。多分今日から毎日この時間にここらへんを走っているから、よろしくな」
自分に出来る最大の笑顔を決めたつもりだ。
紳士たるもの、何事においてもファーストインプレッションが大切だからな。
赤嶺さんに振り向いてもらうためには、彼女の前だけでなく周囲の人からの評判も重要だろう。
「そっか。ボクは草加爽子。さわやかな子って書いて爽子さんだよ。これからよろしくね」
名前に似合った笑顔を浮かべる爽子さん。
俺も彼女のようにできたら、どれだけ恰好良いだろうか。
軽く走っただけで呼吸困難に陥った俺にとって、まだまだ先は長そうだった。
「それじゃ、ボクはこれで。頑張ってね」
そういうと、俺とは比べものにならないほどの速さで彼女は走り去っていった。
(作者言 まだまだ情けない主人公。そして主人公よりもイケメン風味な健康少女登場。まあなんだ、頑張れ真司。お前はやればできる子のはずだ。もし駄目だったら骨は拾ってやるよ。次話からモテ期くるから元気だせよ)