二人の天使
今日、僕は10歳の誕生日を迎えた。
学校の友達を呼んでプレゼント交換して、おいしいケーキをおなか一杯食べた。
楽しい楽しい一日だった。
パーティーもおしまい。
家の前でみんなを見送る。
「今日は楽しかったよ」
「また来年もしようね」
僕は何も答えずに笑っていた。
「ばいばーい」
バタン
自分の部屋に入り
ガチャ
鍵を閉める。
「終わったよ」
ベッドの上で寝ていた彼が起き上がる。
「時間通り。あと5分だ」
「当たり前だって。君が現れてから嫌でも時間を気にするようになったからね」
そう言いながら彼の隣に座る。
「どうだ?楽しかったか?」
「そりゃあもう。あまりに楽しすぎて時を忘れそうになったよ」
「そりゃ良かった」
ずいぶん嬉しそうに答えた彼は続けて言った。
「さて、今まで長かった?それとも短かった?」
「キミは難しい質問をするね。そうだね。やっぱり長かったかなあ。でも……」
「アッハッハッハッ。やっぱり短いと思ってるんだ」
「ち、違うよ。そういうわけじゃなくて」
すると彼は顔を近づけて真顔で言った。
「それと、俺を恨んでるんだろ?」
僕は少し驚いて言葉が出なかった。
「ま、恨まないほうがおかしいか」
「違うよ。恨んでなんかないよ」
「じゃあなんだよ。どう思ってんだよ」
僕は顔をポリポリ指で掻きながら答えた。
「……むしろ、感謝してる」
「ハアッ!?」
びっくりした表情の彼は表情をそのまんまで言う。
「おまえ自分で何言ってるかわかってんのか!?」
「わかってるよ。だってさ……だって君は、僕の初めて出来た……友達だから」
「と、友達!?」
さっきよりびっくりした表情の彼は表情をそのまんまで続けて言った。
「オマエな、友達の意味知ってんのか?俺のどこが友達なんだよ」
僕はちょっと照れながら本心を言った。
「だってさ、君は僕にいろんな事を教えてくれたし。いじめられてたときも助けてくれたから」
すると彼もなんだか照れくさそうにいいわけを言った。
「あれは、お前がいつまでもうじうじしてるから。それに、俺はおまえとしか話せないんだから。お前が泣いてちゃしゃべれなくて暇だからな」
「あはは。そんな照れなくていいのに」
「なっ、俺は別に照れなんか、ねえよ」
「アハハハ」
「な、お、お前が、変なこというから……」
僕は笑いながら時計を見た。秒針があと一周すると長い針が頂点を指す。
彼も見ていたらしく、隣で音もなくすっと立ち上がって、僕の前に立った。
「……あと、一分だ」
「わかってる……」
僕はうっすら笑いながら言って、眼をつむった。
彼との出会いを思い出した。
そして、今に至るまでを。
目を開ける。
そこには出会ったときの姿で彼が立っていた。
大きなカマを持った彼が。
初めて会ったときよりカマが小さく見える。
そうか、彼と僕が大きくなったんだ。
彼がカマを構える。
「……ごめんな」
彼が聞こえるか聞こえないかくらい小さな声でささやいた。
あと5秒
「……今まで」
カチ
「ありがとう」
カチ
僕は満面の笑みで微笑んだ。
カチ
僕の目から涙が一つ零れ落ちた。
カチ
ブンッ!!
カチ
カチ
カチ
カチ
涙でぐしゃぐしゃになった彼が立っている。
僕も負けないくらいぐしゃぐしゃになって泣いている。
「……出来ない……」
カマを僕の首から離した。
「……俺にとっても……お前は…………友達だ」
ヒックッ
ヒックッ
「……でも……君が……」
「いいんだ……」
「……でも」
「いいんだ!!」
その時初めて、僕は彼の本心を聞くことが出来たと思う。
「なんで……なんでお前なんだよ!!……もっといるだろう!!死んでいいやつなんてさあ……。こんなの……こんなのおかしいだろ!!」
秒針の音が、僕が生きていることを証明した。
二人のすすり泣く声が秒針の代わりに時を刻む。
彼が窓の前に立って窓を開けた。
冷たい風が濡れた頬を冷ましていく。
「じゃあな……」
「ま……待ってよ!!」
「……俺は……悪魔失格だ」
「待ってよお!!」
夜風に揺れるカーテンがバタバタと音を鳴らしていた。
「……君は……どうなるんだよ……」
その時、窓から大きな黒い影が侵入した。
その影は、やさしい口調で僕に言った。
「安心しなさい。彼はどうにもならない。だから泣くのはやめなさい」
僕は泣くのをやめて聞いた。
「……どういうこと……?」
「悪魔って言うのは人の命を奪うのが仕事だ。だから、命の重さを知らなくてはいけないんだよ。彼は命の重さを充分に実感した。彼は、合格だ」
僕はなんだかとても嬉しくなって、さっきより声を上げて泣いたんだ。
誰かが僕の頭を撫でた気がする。
その手はとても暖かかったのを覚えている。
「これからも、仲良くしてやってくれ」
僕は必死で涙をぬぐって答えた。
「うん……友達だもん」
部屋の中にはすでに僕以外に誰もいなかった。
夜の冷たい風が火照った僕を冷やしていった。
また、今日も誰かが死んでゆく。
「……お互い……歳を取ったなあ……」
「そうだな……」
「……君に……会えて良かった……」
「時間だ」
「……君は……僕にとって…………天使だった……」
「…………俺もだ」
また今日も一人、天使が天使に命を奪われる。
tHe EnD
あなたも天使




