~ニンギョヒメ~6(終)
5の続きです。
放課後、教室から水沢さんが居なくなったのを確認すると、私は水沢さんを見つけた紫陽花の庭へと向かった。
王子さまが先生なのかを確かめたくて。
「ん。どうしたの?」
庭に行くと、この前と同じように水沢さんは横になっていた。
「あの、さ……」
私は傘を持ったままその場へとしゃがみ込む。
周りに誰も居ないけれど、こういう事は小声で言わないといけない気がした。
「水沢さんの好きな人って近藤先生?」
「わぁっ!?」
水沢さんは裏返った声を出すと、もの凄い勢いで起き上がった。
ちいさな口は『わ』の形で固まったまま、長い睫毛をぱちぱちさせる。
「へぇ、やっぱりそうなんだ」
「あ……、えっ。なんでっ?」
私に知られたのが本当に意外だったんだろう。
水沢さんは頬をまっ赤に染めて、不思議そうな顔をしている。
「なんとなくだけど、見てたら」
そう。なんとなく、なのだ。
私自身、絶対にそうだ! とは思えなかった。
もしかすると程度にしか分からなかったのだ。
だからこそ、こうして確かめに来た。
「……変、だよね。こんなの」
「そんなことない。変じゃない」
どんな形であれ、強く想える相手がいるのは羨ましい。
なにより、恋。
それが出来るだけでもう、私にとっては凄いことだと思える。
そう思う私こそ、変なのかもしれないけれど。
「あはは。優しいね、今川さんって」
そんなこと、ない。
私はただ本当のことを言っただけで、羨ましいと思っただけなのに。
「良かったら私に、応援させてくれない……?」
「えっ」
「水沢さんの恋」
さすがに変すぎるだろうか。
勝手に人の恋を応援させて欲しいだなんて。
「なんで、わざわざ応援してくれるの?」
「恋をしてる水沢さんが、すごく綺麗だったから」
私は思ったことをそのまま言った。
この健気な人魚姫を放っておく訳にはいかない。
彼女の恋心を、泡になんてさせてやるものか。
「本当に、優しいんだね。ありがとう……今川さん」
「みゆきでいいよ。私の名前」
一瞬、きょとんとした顔を水沢さんはする。
でも、すぐにその表情は変わり、
「うん。みゆき」
逆に私が恥ずかしくなるような、とびっきりの明るい笑顔を見せてくれた。
カレンダーは夏の暑さが始まっている六月。
空全体を鼠色の重たそうな雲がどんよりと覆っている、雨の空模様。
私は梅雨の季節もちょっとは良いなと思う。
雨の季節は庭に行くと、人魚姫に逢えるのだから。
~おわり~




