1/7
-プロローグ-
雨の降りしきる梅雨、青く色づいた紫陽花の咲くうら庭。
ぽつんと人魚姫はいた。
滝のように降る水で全身を濡らし、呆然と立ちつくして。
声をだすことなく。
誰かを待っているわけでもなく。
ずっと、ずっと。
辛抱強く王子さまを想っている。
彼女が引き換えにした素敵なものは何だろう。
言葉なのか。
心なのか。
それは誰にもわからない。
彼女だけが知っている。
だから彼女の心があふれても、誰に気づかれることはない。
空から落ちてくる水とほおを伝う水は、まったく同じなのだから。
水は重く、冷たく打ちつける。
人魚姫の心を、さらさらさら跡形もなく、洗い流すまで。
童話になぞらえてみたお話です。
楽しんでいただければ、幸いです。




